兵庫県豊岡市『人、自然にやさしいお店 moko』 『株式会社坪口農事未来研究所』
コウノトリ育む環境共生農業を2つの“女子力”が進化させる
数字で農業を見る力と、揺るがない「やりたい気持ち」
2人には共通項がある。ひとつは、2人はもともと農家を生業にするつもりはなく、むしろ事務経理の知識があった点だ。これにより、農業という業種を客観的に捉え、数値化して経営的に冷静に判断していた。もうひとつは、前例にとらわれず、やりたいと思ったことを貫く気持ち。野世さんは独学で石けんを作り続け、平峰さんは多品種の米や野菜、花の栽培など、他の生産者が行わないものに、積極的に挑戦してきた。ちなみに、名前の表記「英子」が同じだが、これは単なる偶然のようだ。
「もっと無添加石けんや無農薬のお米の価値を広めたいので、販売先の開拓や、石けんづくりのワークショップなど、もっと積極的に行いたいです。もう少し田んぼが増えれば、主人が専業農家になり農業を任せて、私はいろんな場所に行き、いろんな人と出会い、自然のよさを伝えていきたいな(笑)」(野世さん)
「法人化の前後で、やりたいことを一気に広げたので、すべてがうまくいくかはわかりませんが……でも、今までと全然違う人のつながりができて、すごく楽しいです。でもまだやりたいことがあって……私たちが育てた安全安心な食物を使ったカフェを作りたいんです!それは農業を継ぐ前からずっとやりたいと思って。気が付いたら、カフェにいい土地が無いか探したりしています」(平峰さん)
今もなお、やりたいことへの尽きない思いを、子どものように屈託のない笑顔で語る二人。一方で、数字的な根拠はある程度あるようで、言葉の端々からは実現への道筋が描けているように感じられた。冷静と情熱。この二つの要素を併せ持つことが、これからの農業を持続的に、かつ楽しくしていくための大切な要素だと、2人は教えてくれた。
(文・写真)種藤 潤(一般社団法人オーガニックヴィレッジジャパン)
(取材協力)豊岡市 コウノトリ共生部 農林水産課
(取材日)2020年1月吉日
【参考】
※1 コウノトリ野生復帰プロジェクト
かつてコウノトリは、豊岡市を含む日本各地に生息していたが、戦後の環境破壊により、1971年に野生下では絶滅。その最後の生息地が豊岡市だった。その絶滅に先立ち、豊岡では1965年にコウノトリを保護して人工飼育をスタート。40年に及ぶ苦難の道のりを経て、ヒナを誕生させ、放鳥を行ってきた。一方で、コウノトリが生息する湿地を作り、生きものが生息する田んぼづくりを行う「コウノトリ育む農法」を確立するなど、官民一体でコウノトリ「も」暮らせる環境づくりを推進。2007年以降は野外での繁殖も順調に進み、2019年時点で、170羽を超えるコウノトリが自由に空を舞っている。
※2 コウノトリ育む農法
豊岡市を中心に進める、コウノトリ「も」住める環境づくりを目指した農業。農薬や化学肥料に頼らず、田んぼの生きものが生息できる農業を行う。具体的には、冬に水を張り肥沃な土壌をつくる「冬みずたんぼ」や、おたまじゃくしがカエルになるまで田の水を残す「中干し延期」などを行う。これにより、食物連鎖が維持され、結果としてコウノトリがエサ場として田んぼを訪れる、人とコウノトリが共生できる環境が完成する。
※3 有機JAS認証
日本国内の有機(オーガニック)農産物を第三者機関により証明する認証制度。
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html
※4 GLOBALG.A.P.
G.A.P.(ギャップ) とは、GOOD(適正な)、AGRICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)のこと。GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)認証とは、それを証明する国際基準の仕組みである。
https://www.ggap.jp/?page_id=35#i1