兵庫県豊岡市『人、自然にやさしいお店 moko』 『株式会社坪口農事未来研究所』
コウノトリ育む環境共生農業を2つの“女子力”が進化させる
環境農業を未来につなぐため法人化し、新事業にも挑戦
平峰英子さんも、「コウノトリ育む農法」を知った時、迷わず取り組む決断をした。その選択には、平峰さんが農業を継いだきっかけが、大きく影響している。
日本でも珍しい“お菓子の神社”である、「中嶋神社」の近くで実家が米農家をしていた平峰さん。農業は義兄(姉の夫)が継ぎ、平峰さんは会社勤めをしながら、経理業務と農作業のサポートをしていた。だが、2013年に義兄が急逝。原因はガンだった。すでにサポートをしていた平峰さんに、後継者として白羽の矢がたった。
「農作業は手伝っていたけれど、実際に本格的に農業をやるには、技術も経験も足りませんでした。そこで、さまざまな農業の勉強会に参加する中で『コウノトリ育む農法』を知りました。義兄を病気で亡くしたこともあり、少しでも安心安全なものを作りたいと思い、始めてみることにしました」
農業経験が浅い分、「コウノトリ育む農法」を一から学び、気がつけば、市内でも率先して農法を研究する一人に。地元で「神美村有機農法研究会」を結成。品質および収量向上に取り組み、世界的基準である「有機JAS認証」(※3)や「GLOBALG.A.P.」(※4)などの取得を目指している。また、米の種類も市内で主流のコシヒカリだけでなく、「いのちの壱」「みどり豊」や古代米など多品種に挑戦、付加価値のあるお米づくりに取り組む。米だけでなく、野菜や花も生産、商品の多角化も積極的に行ってきた。一方で、農業にITを積極活用、効率的な「コウノトリ育む農法」の確立も模索してきた。
そして2019年、組織を株式会社化。農業の技術向上、多角化、IT化に加え、日本酒など6次産業化にも挑戦。さらには、ソーラーシェアリングを市内で初めて行い、売電収入での安定経営を目指す。こうした先進的、多様的、環境共存型の複合的農業スタイルは全国的にも珍しく、今豊岡市で最も注目される農家の一人と言っても過言ではない。
その根底にあるのは、突然の事業継承を経験した平峰さんだからこその、持続可能な農業への願いである。
「豊岡市は家庭型農業が中心で、どんなに地域で協力しあっても限界がある。でも、会社経営にすることで、家族以外にも事業継承しやすく、かつ、農業以外の事業も行いながら、安定的な事業運営もできる。それが、本当の意味で、コウノトリと私たちが持続的に共存できる理想の農業の形だと、私は考えます。正直、法人化する上で負担がなかったわけではありませんが、次世代につなぐための投資と考えました」