「食と健康」で地方創生。日本の本物の食を伝えるdancyuが徹底取材。
第五回
五島列島・上五島のおいしい「薬膳と健康」の旅
大東清美さんと「前田旅館」の郷土料理でつくる「上五島薬膳」
上五島の中心地区にあり、地域を代表する宿の「前田旅館」。1934(昭和9)年に創業した和風旅館で、2017年に息子の前田慎一郎さん(写真右)が京都の修業先から帰還。女将・道津和子(中央)さんの「お客様の体によりよいお料理を提供したい」という想いから、薬膳を取り入れたいと考えるようになった。そこで指導を求めたのが、和食薬膳協会代表理事であり、奈良県大和郡山市で食の学び場「寺子屋*花」を主催する専門家・大東清美さん(左)だ。
大東さんが提案したのは、食材が持つ効能を高める組み合わせを考えること。そして、地元ではあまりになじみがあるゆえ見過ごしてしまっている食材にあらためて着目することだった。
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「前田旅館」の夕食は、島の恵みで「潤う」
大東さんは、夕食と朝食にそれぞれ大テーマを掲げる。新鮮な魚介をふんだんに盛り込む夕食は、食べることで体に「潤い」をもたらす薬膳料理を提案する。
また、青(肝)、黄(脾)、白(肺)、黒(腎)、赤(心臓)の五色を取り入れることで、それぞれに呼応する五臓を養うという薬膳料理の考えから、料理全体に菜の花や大根、にんじんなど色味の異なる食材をバランスよく取り入れていく。
■魚介料理編
鍋物(クエ、豆腐、白菜、えのき、にんじん)、手づくりポン酢
高級魚のクエや、島でよく食べられている鰤など、脂ののった白身魚は乾燥を防ぎ、臓器に潤いを与えてくれる食材。しかも、こちらの鍋のつゆは、骨や尾を30分ほど炊いてだしをとったもので、その旨味もエキスもじっくり引き出している。体を温める柑橘の果汁をたっぷり使ったポン酢で食す。
橙(だいだい)とサルナシ
今回の薬膳料理化で、大東さんが注目した島の食材。サルナシは、キウイフルーツの原生種で、疲労回復、便秘改善といった効能がある。いずれも島のあちらこちらで自生しているもの。橙の果汁はポン酢に使用。
ヒラマサの刺身のカルパッチョ風
サルナシの実、玉ねぎ、オリーブオイル、酢、レモン果汁でソースをつくり、刺身にかけたもの。醤油で食べる刺身とはまた違うおいしさを味わえる。
伊勢海老、クエ、ヒラマサ、葉鰹、アオリイカの刺身
定番の醤油とは別に、橙の果汁と塩を混ぜたたれで食べることを提案。橙には気を巡らせる効能があり、体を冷やしがちな生魚をより健康的に食べられる。
真鯛の焼き魚
真鯛は、女将手製の塩麹で漬けて焼いたもの。魚が柔らかくなって旨味が増すうえ、心身の疲労を回復させ、免疫力を高める効果も期待できる。ゆず七味を加えた大根おろしを添えて、消化を促進。
鰤の混ぜご飯
潤いを与えてくれる食材の鰤。骨やカマでとっただしで炊くことで、旨味も効能も高まる。
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■郷土料理編
お煮しめ
上五島で食べ継がれている特産品の平干し大根(写真左上)を水で戻し、島の特産の椿油で炒めて重ね煮にしたもの。50年ほど前までは各家庭で搾っていたという椿油は、今や高価な油だが宿では郷土の食にこだわって使っている。大根は消化器官の働きを高める食材で、薄切りの生姜を干した乾姜(かんきょう、右上)を合わせることで内臓を温めるように。
くじらなます
捕鯨が盛んだった新上五島町。くじらもまた体を潤す食材。祝いの席に必ず登場する料理で、今回は橙で酸味を付けている。
はこふぐの味噌焼き
島では「かっとっぽ」と呼ばれる郷土料理。はこふぐもまた潤いを与える食材で、味噌や生姜をあえて焼くことで体を温める効能も加わる。
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