地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介ritokei島×地方創生 第5回島×地方創生 第5回 隠岐島前の島々(海士町、西ノ島町)(2ページ)

島×地方創生「一周まわって最先端」の島づくりを離島経済新聞社がレポート

「ない」から生まれる創造力の「ある」島へ

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隠岐島前の島々(海士町、西ノ島町)


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「ない」から生まれた住民や移住希望者のよりどころ

地方創生のトップランナーと呼ばれる海士町を訪れると、必ず見聞する言葉がある。「ないものはない」。山内前町長が地域づくりを進めるなかで生まれ、掲げられ続けてきた言葉だ。

 

「ないものはない」には「必要なものは全部ある」という意味も隠されているが、ここで言う「必要なもの」を揃える当事者が誰かといえば、それは島に関わる「人」になる。

 

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(「ないものはない」は海士町の代名詞ともいえるキャッチコピー)

「ない」を掲げる海士町で、島の人々が生み出してきた「ある」にはどんなものがあるのか。その象徴ともいえる場所を訪れた。

 

海士町の中心部にある海士町中央図書館は、2010年に生まれ今年で10周年を迎える。木のぬくもりが感じられる温かな空間に、36,000冊の蔵書が並べられ、窓の外には田園風景が広がる。

 

図書館としては珍しく、館内やテラスにカフェスペースもあり、本を読む人以外に、おしゃべりを楽しむ人の姿も見られる。

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(海士町中央図書館の内観)

2010年以前、海士町には公共図書館が存在せず、人々が本に触れることができるのは、小さな書店と学校図書館のみだった。

 

海士町中央図書館で司書を務める磯谷奈緒子さんは、その状況を「本が好きな人にとって、図書館がないことはかなりのマイナスポイントでしたね」と振り返る。

 

2000年に海士町へ移住した磯谷さんは、「多くのIターンが集まり、活躍する島」といわれる海士町のなかでも初期の人材だ。「今は立派な港がありますが、20年前は港も古く寂しい感じで、地域づくりもこれからという状態で。役場の人を中心に『サザエカレー』を売り出して23年経った頃でしたが、役場の方々が想いを持って動いているのが刺激的でした」。


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(2000年に海士町へ移住した磯谷奈緒子さん)

鹿児島で生まれ育った磯谷さんは、関西の大学へ進学した後、京都のホテルに務めていた。その頃、まちづくりに興味を抱き、環境系NGOでボランティア活動をしていたある時、UIターンの求人誌に書かれた「島で宝探ししませんか?」という一文に目が留まり、海士町に出会った。

 

「まちづくりか、もしくは自分が思い描いたような民宿が営めたらいいな」と考えていた磯谷さんは、海士町役場がIターン者に用意した商品開発研修生という新設ポジションにつき、地域づくりに携わりはじめた。

 

島で暮らすなか、島の男性と結婚。出産、育児とライフステージが移り変わり、商品開発研修生を卒業。仲間内でカフェを開き、コーヒーを飲みながら本が読める空間をつくり、自分の本を貸し出す活動をはじめていた磯谷さんは、ある日、「すごい巡り合わせ」に出会う。公共図書館のない海士町で「司書」が募集されたのだ。

 

実は、磯谷さんは司書の資格を持っていた。公共図書館がない島で役に立つ日がくるとも思っていなかった資格を活かし、司書のポジションについたが、やはり公共図書館が建つ予定はない。かわりに「島まるごと図書館構想」という企画が立ち上がっていた。


離島のハンデを生かして生まれた「島まるごと図書館構想」

2007年にスタートした「島まるごと図書館構想」は、図書館がない島というハンデを生かし、島の保育園や小中学校、高校を中心に、人が集まる公共施設を図書分館に位置づけ、ネットワークすることで島全体をひとつの図書館とする構想だ。

 

2003年の島前3町村合併協議会解散後から、生き残りをかけた地域づくりを展開していた海士町では、町長や役場職員の給与がカットされる状況にあった。それだけに、磯谷さんは「図書館なんて建ててもらえないだろう」と思っていたたが、それから23年後に海士町中央図書館が建設されることが決まり、喜んだ。


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(田園風景の中に佇む海士町中央図書館)

図書館のない島に、図書館が生まれた。開館当初の蔵書は8,000冊しかなかったため、海士町中央図書館はクラウドファンディングを活用し、蔵書を増やすための支援を広く社会に求めた。

 

そんな取り組みも話題を呼び、海士町を訪れたことのある人や、うわさを耳にした人など、さまざまな人が支援にまわり、実際に島へ足を運び、図書館にやってくる人の姿もあった。

 

磯谷さんは図書館を「本を貸し出す以外のことでも、いろんなことが図書館でできるんじゃないか」と考え、島に住む人々とともに「住民と図書館の共催」のイベントを開いてきた。

 

例えば、映画館のない島で「映画を上映したい」という住民と一緒に、上映会を開いたこともある。島前高校への進学を考える親子から「実際に高校生がどんな高校生活を過ごしているかわからない」というニーズを聞けば、住民と共催で現役高校生に高校生活について語ってもらうイベントを開いた。


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(住民に対して高校生活の様子を語る島前高校の生徒たち 提供・海士町中央図書館)

町の玄関口にある第3セクター運営の「マリンポートホテル海士」の大規模改修に対しては、概要が見えづらいため戸惑う住民が多くいた。そこで、図書館が第三者の立場となり、ホテルの運営者である青山敦士さんが住民向けに計画を説明する座談会も行なった。

 

その機能は本を借りるだけにあらず。住民のニーズをもとに、さまざまな「ある」を生み出し、最近では本だけなく「種」まで貸し出しているというから驚く。


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(海士町固有の種を貸し出すシードライブラリー 提供・海士町中央図書館)

「シードライブラリー」とよばれるその取り組みは、「有機農業をしている人などで、海士町固有の種を継いでいきたいという人がいますが、仲間を増やしたいけど個人では活動が広まらないから、種の貸し出しコーナーをやってほしいという話がきたから」と磯谷さんは背景を語る。


「この図書館があるなら大丈夫」と感じさせるサードプレイスに

図書館で生まれる「ある」の数々を、磯谷さんは「住民自治的な活動」と言う。「都会だとサービスに任せておけばいいかもしれませんが、島にはそれがないので『住みにくいから島を離れようか』という人も出てくるかもしれません」

 

Iターン者が多いことでも知られる海士町には、移住してくる人もいれば、離れる人も一定数存在する。そこで磯谷さんは「(島暮らしの悩みを)図書館なら受け止めてくれると、相談を持ち込みやすい雰囲気はつくっていきたい」という想いで、図書館の門戸を開く


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(ホテルの改修計画を住民に説明する座談会風景 提供・海士町中央図書館)

その想いは身を結び、「見知らぬ町に移住することに不安をもちながら図書館にきた人がSNSに『この図書館にきて大丈夫と思った』と書いてくれていたんです」と喜ぶ。

 

スタッフは5人。図書館の利用者は年間1万人を超え、週末で平均4050人、平日でも2030人が集う。

 

人口約2,500人の海士町住民にとって、そこは図書館であり、カフェであり、暮らしの相談所であり、さまざまなアイデアが生まれ、人の想いと地域の想いがつながるサードプレイスとなっている。

 

「(図書館が)暮らしや心のいろんな面でよりどころになっていけたら」。そう言って磯谷さんは笑顔を見せた。