地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介ritokei島×地方創生 第5回島×地方創生 第5回 隠岐島前の島々(海士町、西ノ島町)(1ページ)

島×地方創生「一周まわって最先端」の島づくりを離島経済新聞社がレポート

「ない」から生まれる創造力の「ある」島へ

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隠岐島前の島々(海士町、西ノ島町)


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3島3町村の島前地域に存在する地方創生のトップランナー

日本に約400島ある有人島は、そのほとんどが瀬戸内海から九州沖縄エリアに分布するため、本州の北側に浮かぶ島は数えるほどしかない。

 

そんな日本海に、地方創生のトップランナーと呼ばれる島がある。

 

中ノ島は島根半島の沖合約60キロメートルに浮かび、周囲89キロメートル。島名よりも、自治体名の「海士町(あまちょう)」で知られる島だ。



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(海士町・菱浦港の風景)

島根県内にある有人島は4島。最も大きく、人口も多い隠岐の島町は「島後(どうご)」と呼ばれ、海士町(中ノ島)、西ノ島町(西ノ島)、知夫村(知夫里島)の33町村が「島前」(どうぜん)と呼ばれている。

 

島前へのアクセスは船のみ。松江市や境港市の港からは高速船でも2時間近くかかるため、首都圏からのアクセスも容易とは言い難いが、その地域づくりや自然景観等を一目見ようと、全国から多くの視察希望者や観光客が訪れている。

 

島前3町村にはあわせて約5,700人が暮らしている。1950年には3市町村で16,000人を超えていたが、半世紀のうちに1万人が姿を消し、少子高齢化と人口流出に起因する産業の衰退など、多くの課題を抱えている。

 

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(海士町・菱浦集落の町並み)

日本各地の市町村が合併した平成の大合併時代には、島前3町村でも合併か否かの話し合いが行われたが、平成15年のクリスマスに合併協議会は“解散”を宣言。

 

いずれの島も苦況に立たされていたが、解散文書には「まさに島の存亡の危機に直面する中で、今後は3町村で力を合わせ、国や県に対して、このような島嶼地域にあっても自主的・主体的な行政運営が可能となるよう積極的に働きかけていく」と記され、それぞれで独自の地域づくりがスタートした。

 

それから現在に至るまで、海士町では山内道雄前町長が著した『離島発 生き残るための10の戦略』(生活人新書)などに詳しい、さまざまな施策が実行された。そして、平成305月に町政を引き継いだ大江和彦町長が「みんなでしゃばる(みんなでがんばる)」を掲げ、その地域づくりは新たなフェーズに入っている。

 

その中のひとつ、平成20年にはじまった「隠岐島前高校魅力化プロジェクト(※)」では、島前3町村の子どもたちが通う島根県立隠岐島前高校が統廃合の危機から一変。平成23年には生徒数のV字回復を果たし、離島僻地では異例の学級増加まで叶えている。

 

(※ 地域を学ぶ「地域学」や、生徒の夢を探究するキャリア教育など独自プログラムをつくり、島外留学生も積極的に募集。市町村が公立高校の魅力化を図るプロジェクトとして全国に広がっている)

 

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(高台に佇む島前高校)

平成26年には、島前3町村が出資する一般財団法人島前ふるさと魅力化財団が立ち上がり、「魅力的で持続可能な学校と地域をつくる」ことをビジョンに、小・中学校や高校、塾、寮などを含めた「隠岐島前教育魅力化プロジェクト」が推進されている。

 

「教育魅力化発祥の地」となった島前高校の軌跡は、『未来を変えた島の学校』(岩波書店)はじめ多くの本や記事となり、令和元年に公開された映画『僕に、会いたかった』では、島前高校に島留学する生徒たちの暮らしぶりや、親元を離れた子どもたちをサポートする島親(しまおや)の存在も描かれる。

 

「教育魅力化発祥の地」で生まれた教育×観光ツアー

本土と島、島と島を行き交う船から、海士町を眺めると、港から一段あがった高台に佇む島前高校が見える。

 

そこでは一体、どんな学びが行われているのだろうか。教育魅力化発祥の地の内実に興味を抱き、島を訪れる人々に向けて、門戸を開く青山敦士さんに話を聞いた。

  

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(2007年に海士町に移住した青山敦士さん)

2007年、高校魅力化を牽引していた友人の誘いをきっかけに海士町へ訪れ、移住した青山さんは海士町観光協会の職員となり「海士の島旅」などのプロデュースに携わり、現在は島唯一のホテル「マリンポートホテル海士」を運営する株式会社海士や、隠岐島前のリネンサプライを担当する島ファクトリーの代表を務めている。

 

青山さんは、島外から訪れる人々を迎え入れながら、ある違和感を抱いていたと話す。「これまで『観光地としての海士』の集客や情報発信をやっていましたが、ひとりの海士ファンである自分自身が海士町に対して感じている魅力と、伝えている情報と、受け取られている情報にズレがあるように感じていました」(青山さん)。

 

「海士町の魅力って何だろう?」。そう考え続けていた青山さんは、教育魅力化プロジェクトのメンバーと語り合うなか、「観光地としての海士を求めてくる人より、等身大の海士町の暮らしや文化、取り組みをふくめた島の営み自体に興味を持ってきてくれる人に、きちんと(島の魅力を)お届けできるほうがこの島らしいんじゃないか?」と思い至り、「教育」と「観光」を融合させた「Life is Learning」ツアーを発案した。

  

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(「Life is Learning」ツアーを企画するディスカッション風景 提供・海士町観光協会)

一般向けに募集されるツアー企画としては少し難易度の高いテーマとも感じられるが、青山さんはそれこそが「海士町らしさ」だと納得する。

 

青山さんは2014年から「島会議」というシンポジウムの運営も行ってきた。島会議では、「島の定住会議」「島の観光会議」「島の教育会議」などをテーマに、その道の有識者や、島の住民、島外からやってくる人々が交わり、島の未来について語り合っていた。

 

そこで語り合われた話題は酒の肴となり、最終的には「美味しいものを食べながら、島の未来を語る時間」となる。

 

それは青山さんが「海士らしい」と感じる魅力であり、島の訪問者に感じてほしいと願うものだった。

 

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(2014年から続く「島会議」の開催風景 提供・海士町観光協会)

ローカルに立ち、世界を展望し、自分自身とも向き合う旅

島前高校には「夢ゼミ」というプログラムがある。島というローカルから世界を展望し、自分自身の夢を言語化していくプログラムに鍛えられている子どもたちは、日々、自分や、地域や世界の未来に思いを馳せている。

 

子どもだけではない。地方創生の最先端に触れようと海士町を訪れる人の中には、世界規模で活躍する人も多いため、前述の島会議然り、海士町ではローカルと、世界と、自分自身の未来を語る機会が多いのだ。

 

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(訪問者と島の人が語り合う機会が多い海士町 提供・海士町観光協会)

「たとえば、島に来たおじさんが高校生に『あなたは何がしたいのか』と問われ、自分の人生を考えるようなことがあってもいいと思います」と青山さんは言う。

 

海士町で過ごす時間の中には、島の人々と交流する時間や、圧倒的な自然を感じる瞬間があり、静かなプライベートタイムもある。

 

ツアーの参加者は、何気ない会話から「そういえば自分ってどうしたいのだっけ?」と考え、静かに過ぎる時間の中で「今まであまり疑問に思っていなかったけど大事なことかもしれない」と、その後の人生をポジティブに動かす「気づき」を見つけるかもしれない。

  

目指すは「島前3町村に飛び出したくなる」拠点

観光の語源は「国の光を見に行く」といわれる。その語源を意識する青山さんは、「昔であれば、人が移動するのは希望とか願いを考えるために、聖地巡礼やお伊勢参りにでかけていたもので、何かに迷った時に動いていたんだと思います」と話す。

 

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(「Life is Learning」ツアーでは自分自身の未来も展望する 提供・海士町観光協会)

自分が目指すべき未来がどこにあるのか。その先を探す人が、ヒントを得るために出かける先が海士町だとすれば、「Life is Learning」ツアーは観光の語源に近づいているとも言える。

 

青山さんが運営するマリンポートホテルも島前高校のそばに建つ。

 

ホテルは2021年春にかけて改修工事の最中にあるが、この改修を青山さんは「ホテル魅力化改修計画」と呼び、隠岐エリアのこれからの観光を狙う動きとして身を引き締める。

 

隠岐諸島は特異な自然環境から世界ジオパークにも認定されるため、改修後のホテルにはジオパークに関するミュージアム拠点や図書館機能も併設するという。

 

青山さんは「旅が聖地巡礼だった時代のホテルは神社やお寺であり、そうした場所がメディア機能を持ち『あそこにいったら山賊がいるぞ』など教えてくれていたはず」と考え、新たなホテルにメディア機能を充実させたいと話す。

 

「ここを島前3町村に飛び出したくなる場所にしたい」(青山さん)。島の玄関口に建つホテルが、旅人と島の人、旅人同士の出会いや交流を提供し、そこから島々に飛び出した旅人は、圧倒的な自然の中に身を置きながら、島々の大地からさまざまなものを感じとる。

 

魅力化したホテルの開業予定は2021年の春。そこからまた、新しい島前の旅がはじまる。