宮城県気仙沼市『気仙沼市役所』
震災復興で強まった絆が「食」と「ホストタウン」でさらに深まる
地元中学生のアイデアがホストタウンを活用して具体化
冒頭で紹介した「食を通じた交流会」終了後、気仙沼市とインドネシアの食の交流はさらに続いた。
会場である「気仙沼魚市場」の道路を挟んだ目の前にある、飲食店が軒を連ねる屋台村「みしおね横丁」。そのなかのインドネシア料理店「ワルンマハール」にて、地元中学生が考案した、インドネシア料理のアレンジメニュー2種が無償で提供されていた。交流会参加者は、揚げバナナと、宮城県の特産である「ほや」を用いたサンバル(チリソースの一種)を口に運びながら、さらなる交流を深めていた。
題して「インドネシア料理 大試食会」。「ワルンマハール」と地元NPO法人「底上げ」によるコラボレーション企画である。「ワルンマハール」は、気仙沼市に暮らすインドネシアの人々が、異国の地でインドネシア本場の食材などを手に入りやすくすること、さらには気仙沼市民との交流を深めることを目的として、民間主導で2019年7月にスタートした飲食店だ。一方「底上げ」は、震災後に立ち上がった、東北の高校生が地元のためにやりたいことを実現するサポートを行う団体だ。その活動のひとつとして、地元中学生とともにインドネシア料理のオリジナルメニューを開発。その料理の試食の場としてこの「大試食会」を企画し、「ワルンマハール」を活用したのだ。 「ワルンマハール」というインドネシアの人々と気仙沼をつなぐためにできた食の場が、より有効に活性化する方法はないか。そのために地元中学生が中心となってフィールドワーク、仮説検証を行い、アイデアを立案。それを気仙沼市が取り組み始めた『復興「ありがとう」ホストタウン』の枠組みを活用し、具体的な形にしたというわけだ。
「ワルンマハール」の立上げから、復興庁が実施する「専門家派遣集中支援事業」(※3)が派遣する専門家としてこの店の活性化も担う、キタジマデザインアーキテクツの前田圭悟代表は、今回のイベントをきっかけに、交流の場としての機能をさらに強めていきたいと意気込む。
「『ワルンマハール』は立ち上がりこそ順調でしたが、民間主導では社会的目的が理解してもらえず、インドネシアの人も、地元市民も、一定以上集めることが難しかった。ですが、『復興「ありがとう」ホストタウン』という国の事業と地元行政が関わってくれたことで、これまで呼びかけられなかったインドネシアの人、地元の人にも声をかけることができ、足を運んでもらえました。これを契機に、インドネシアの人々と地元の人との交流がさらに深まるよう、食を通じた新たな企画も考えていきたいと思います」
官民学一体となった、食を通じた国際交流拠点の誕生。2020年以降の気仙沼市は、日本の新たな国際都市のモデルケースの一つとなっていくかもしれない。地方創生の観点からも、注目が集まりそうである。
(文・写真)種藤 潤(一般社団法人オーガニックヴィレッジジャパン)
(取材協力)気仙沼市 産業部 農林課、気仙沼市 震災復興・企画部 地域づくり推進課、キタジマデザインアーキテクツ
(取材日)2020年2月吉日
【参考】
※1 復興「ありがとう」ホストタウン
東日本大震災の被災自治体で、東京2020大会に際し、ホストタウンとして、これまで支援してもらった国や地域に復興の姿を見せつつ、支援への感謝を伝え、東京2020大会の関係者や住民との交流を行うもの。また、登録にあたっては、東京2020大会開催後の大会関係者との交流も重視されている。2020年2月現在、東北3県の30自治体が登録している。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/hosttown_suisin/pdf/arigato_hosttown.pdf
※2 GLOBALG.A.P.
G.A.P.(ギャップ) とは、GOOD(適正な)、AGRICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)のこと。GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)認証とは、それを証明する国際基準の仕組みである。https://www.ggap.jp/?page_id=35#i1
※ 3 専門家派遣集中支援事業
被災地企業等の積極的な挑戦を促し、創造的産業復興の加速化を図ることを目的として、新たな取組み等を行う被災事業者等が解決すべき課題を適切に見極めた上で、その解決に有効なツールやネットワークを有する専門家等が、効果的な解決策を提示するとともに、その実行に向けた被災事業者等の取組みを支援するため平成27年度より復興庁が実施。
https://www.newtohoku.org/handson/handson.html