山口県萩市大島『萩大島船団丸/株式会社GHIBLI』
日本の豊かな海を未来につなぐ、“よそもの”のロマンとソロバン
今や地域の農林水産業の活性化の定番手法となりつつある「6次産業化」(※1)。目立つのは農産物の事業化であるが、水産物に関しては、山口県萩市大島で生まれた事業モデルが、各地の漁業の復活に貢献している。その立ち上げの中核を担ったのは、いわゆる“よそもの”の20代前半の主婦であった。幾多の困難に直面するも、彼女はむしろそれらをプラスの力に変え、水産業の6次産業化モデルの先進事例を作りあげた。それを全国に広める活動をする一方、日本の海も、事業も持続可能にするために、水産物を核とした新たな挑戦をし続ける。
<萩大島船団丸/株式会社GHIBLI>
http://sendanmaru.com/
代表取締役:坪内知佳
1986年福井県生まれ。大学在学中に余命半年の宣告をされ、中退。その後結婚を機に山口県萩市に移住、子どもを授かるも、シングルマザーとして翻訳事務所を立ち上げ、企業を対象とした翻訳とコンサルティング業務を行い始める。2011年に萩市大島の3漁船からなる「萩大島船団丸」代表に就任。萩市大島で水揚げされる新鮮な魚介類に付加価値をつけ、直送で販売する仕組みを構築、国内漁業を活性化させる先駆的6次産業化モデルとして注目を集める。2014年に株式会社GHIBLI設立、法人として「萩大島船団丸」を含む複数の事業を手掛ける。同年、女性誌「日経ウーマン」(日経BP社)が選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014」キャリアクリエイト部門を受賞。
高値の魚以外にも付加価値をつける「粋粋BOX」
周囲を雄大な美しい日本海に囲まれ、今ものどかな昔ながらの日本の漁村風景が残る、山口県萩市大島。そこに暮らす人口約700人の住民の大半は、漁業に従事してきた。彼らの漁船は決して大きくないが、対馬海流の荒波にも負けず、鮮度抜群の魚介をまき網により水揚げする。なかでもアジやサバは、市場でブランド魚として高値で取引されてきた。
萩市大島の漁船が連携する組織「萩大島船団丸」が水揚げしたアジやサバもまた、一部は市場に出荷するが、他は一緒に獲れたスズキやイサキなどの魚とともに箱詰めし、「萩大島船団丸」の独自商品「粋粋BOX」として、飲食店や消費者のもとへ直接配送する。
これまでアジやサバ以外の魚は、市場では大幅に安値で取引されてきた。だが、「粋粋BOX」という直送便にブランド魚とともにパッケージ化することで、付加価値を生み出した。また、魚の鮮度を落とさず、傷つけない包装方法を独自に編み出し、さらに付加価値をつける。そして受注者から直接「小さな鯛がほしい」「アラはいらないから捨てた状態で」などの要望を受け、対応することでさらなる付加価値をつける。結果、「粋粋BOX」の魚は、従来の市場で取引していた値段の数倍〜数十倍の値段で販売することが可能になる。
これが「萩大島船団丸」が独自に生み出した6次産業化モデルである。そして現在、衰退しつつある日本の水産業の活性化の先行事例として、全国各地に広まりはじめている。
「初めて萩市大島で獲れた魚を食べた時、その美味しさに驚きました。この美味しい魚が獲れる美しい海と漁業を残したい。その想いとともに、漁業再生というテーマ自体に可能性を感じ、私はこの事業に挑戦することを決めました」
実質的にこの事業モデルを作り上げ、現在その事業を運営する「株式会社GHIBLI」代表取締役の坪内知佳さんは、立ち上げた当時を振り返る。