「食と健康」で地方創生。日本の本物の食を伝えるdancyuが徹底取材。
第四回
名物料理を磨く。奈良の「猪鍋」を薬膳に
奈良県宇陀市「民宿むろう」は、女将の丹精込めた手料理が名物の宿。和食薬膳協会代表理事を務める専門家・大東清美さん指導のもと、食材の組み合わせを見直し、従来の手料理をより高い効能が期待できる薬膳料理に仕上げた。さらに、はこべや隼人瓜(はやとうり)といった野草や山野草も生かし、名物料理を磨いていく。
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夕食は、猪鍋とはこべで「きれいな血液をつくる」
「民宿むろう」がある奈良県宇陀市室生は、花の寺として知られ、女人高野とも呼ばれる「室生寺」のある寺町。山間の静かな郷ながら、約40~50年前の観光ブームの際には、大型のバスが道を行き交い、観光客が押し寄せ、それは賑やかな盛り上がりを見せたという。「民宿むろう」が始まったのもちょうどそんな時代だった。
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押し寄せる観光客に対して宿の数も少なく、「民宿むろう」には「寝るだけでいいから泊まらせてほしい」という客が台所まで溢れるほどやって来た。だけど皆、帰る頃に、「また来ます!」と笑顔になっていく。それは、女将・山本冨美恵さんの手をかけた手料理のなせる業だった。
宿は室生寺山を一望し、「室生寺」奥の院を東正面に望むところに立っている。現在は建物の改修を施し、囲炉裏を囲めるダイニングを設えた。息子の徳章さんが家業に加わったこともあり、宿の食事を名物としてますます強化したいところである。
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そこで、徳章(写真右後ろ)さんは母の冨美恵さん(右)とともに、商工会議所を通じて、和食薬膳協会代表理事であり薬膳の専門家の大東清美さん(左)のもとを訪ねることに。父の良治さん(中央)が育てる新鮮な野菜を素材に、真摯に手をかけた手料理に「より強みを見つけたい」という考えからだった。
大東さんは、奈良県大和郡山市で食の学び場「寺子屋*花」を主宰しており、プロへのアドバイスも行っている。冨美恵さんの料理のいいところはそのままに、食の組み合わせや漢方の要素を取り入れることで、テーマを立たせた食事に組み立てることを提案した。
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こちらがある日の夕食。宿は一泊二食付きで9720円~(二人一部屋の場合の一人分税込み料金)。特別料理の猪鍋は別途5400円(一人分、税込み料金)となる。食材のもつ効能を生かし、何を加えたらさらによくなるか、を考えたのが今回の献立である。
大東さんが考えたのは、夕食のテーマを「養血」とすること。大東さんは言う。「人の体は血液により満たされるようなもの。血液が充実するとより疲れにくくなります」。猪の肉は、新しい血をつくる効果があるとされる。さらに効能を高めるのに目を付けた食材が、畑に生える野草のはこべと隼人瓜(はやとうり)だった。
「隼人瓜は不要な水分を出し、はこべは血を浄化する。そして猪肉は新しい血をつくる効能があります。不要なものを出して、血を浄化して、そして新しい血をつくるという流れをつくる食事にしました。薬膳料理とは“出し入れ”のようなもので、新しく栄養になるものを取り込み、古いものを排泄させることが大事なんです」
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隼人瓜の吉野葛あんかけ
むくみの改善にも役立つ隼人瓜。吉野葛と合わせることでよりスペシャルな効果が期待できる一品に。
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はこべの天ぷら、薬膳醤油麹の胡麻あえ、ふきのとう味噌あえ、はこべの白和え
はこべは血液を浄化する作用があるため、猪鍋との組み合わせも考えて積極的に夕食に取り入れた。白あえにすることで、肺や喉に潤いを与える効果も。収穫は簡単だが、固い茎から葉だけを摘む作業にとても手間がかかる。
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はこべ、大根葉、高菜、菊芋のおにぎり
消化促進効果のある大根葉と菊芋、栄養価の高い高菜をふんだんに。
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山芋と手製の梅ジャム
山芋は“山薬(さんやく)”とも呼ばれ、滋養たっぷりの食材。気を補い、潤いを与えてくれる。
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