陸前高田市役所の皆さんの躍進


2度目の発想塾に挑戦した陸前高田市役所。
新たに見つけた、まちの魅力とは?

若手職員から、“市民のための発想”を引き出したい

2021年8月に、陸前高田市で実施した“地方創生イノベーション発想塾”から1年。2度目の発想塾が実施されました。なぜ、再び挑戦するのか?その理由を、舟波昭一副市長にうかがいました。「今年も手を挙げたのは、若いメンバーから、『昨年の発想塾が自己研鑽や横とのつながりづくりに有効だった。継続的にああいった場を持ちたい!』という声が上がったことが理由です。どうしても、日頃は業務に忙殺されてしまう。そこから距離を置いて、市民のために何ができるのかを改めて考える機会にできればと思いました。」

舟波昭一副市長

「市民の皆さんが喜ぶことをどんどん考えてほしい」と話す副市長

発想の跳躍に職員たちが腕まくり

講師は、(株)そもそも ファシリテーター 赤松範麿氏。「 『陸前高田に住みたいと思ってもらうアイデア』を、既存の枠組みに縛られずに自由に発想する」をテーマに、15名の職員が取り組みました。農林課、水産課、税務課、上下水道課、財政課など、移住促進の担当ではないメンバーがほとんどです。
 
「市民が幸せに暮らすには、我々市役所の人間が新しい発想を持つことが大事。この機会に、発想する楽しさを感じてほしい。また、お互いの考えをぶつけあい、尊重しあって、つながりをつくってほしい。それは政策づくりにも活きてくる。」という舟波副市長の激励から、2日間の発想塾がスタートしました。

WSの様子

1日目


事例をつかった発想演習&住みたくなる町とはどんな町かを考える

(8月29日)

2日目


その魅力を活かして、陸前高田に住みたくなるアイデアを考えよう

(8月30日)

初日は、4班に分かれて、そもそも住みたい街とはどんな街か?から考え始めました。その日の宿題は、“住みたくなるほどの陸前高田の魅力”を各自考えてくること。2日目は、その発表からスタート。BBQ(バーベキュー)を頻繁にする文化があること、上流から下流まで楽しめる川、名産品のイシカゲ貝など、様々な意見が出ました。陸前高田にこそ住みたい!と思ってもらうにはどんなアイデアが考えられるかを班ごとに1つピックアップして、アイデアとして発表しました。

やじるし

A班
防潮堤を活用したまちづくり ~健康イベントとライトアップ~

津波からまちを守る、高さ12.5メートル、全長2キロの防潮堤。これを新しいシンボルの一つとしても活用しようというアイデア。ランニングコースにすることや、ライトアップ、綱引き大会の実施などを提案。走った距離に応じて、市内で使えるポイントが貯まるアプリを開発も企画した。

B班
休日も高田で過ごそう ~10月4日は地産地の日~

食材に恵まれ、炭の産地でもあることなどから、陸前高田ではBBQが盛ん。地元の食材を、地元の炭で焼くことを「地産地焼」と名づけ、10月4日(ジューシー)を「地産地焼の日」と制定することで、広く知ってもらおうと提案。市内各所への炭缶設置や、アプリ開発も企画。

C班
住みたいまち陸前高田 ~BBQ のメッカを目指して~

BBQをする人が多いという事実と、どこでも花火が綺麗に見える地形を活かして、その2つを合体させた「りくフェス」の開催を提案。小規模のものを毎月実施し、4年に一度、大規模イベントを行う。地元の農林水産業者から食材を調達できたり、BBQ検定保有者から焼き方やレシピを教えてもらうことも考えた。

D班
町の特色を活かした公園をつくろう!

多くの人が憩いの場として訪れる公園。特に子育て世代にとっては、住む土地にあってほしいもの。高田町には、「まちなか広場」という評判の公園があるが、それ以外の7町にもそれぞれの良さを伝えられる公園をつくって、「住みやすい」と感じてもらえることを目指すアイデア。

やじるし

磨き上げた案を副市長へアピール!

発想塾後も時間を捻出して集まり、アイデアをブラッシュアップしてきたメンバーたち。そして2か月が経った11月1日。副市長はじめ、市役所の幹部4人を前に、発表会が行われました。

A班
防潮堤を活用したまち ~「海の丘125」~

防潮堤は、景観を損ねる、海と遮断されるなど、マイナスイメージを抱く人も多い。しかし、防潮堤からは、素晴らしい景色を見ることができる。これを活かさないのはもったいない!として、親しみの持てる愛称を公募して、四季ごとのイベント実施を提案。「防災か、暮らしか」ではなく、「防災と、暮らし」という視点で防潮堤を捉えることで、住みやすいまちに繋げたいと考えた。(ちなみに、「海の丘125」の125は、防潮堤の高さを表している)

海の丘125

B班
休日も高田で過ごそう  ~10月4日は地産地の日~

陸前高田の休日の定番、BBQ。そこには、食材が豊富、住宅が密集していないので煙に苦情が出ないなど、陸前高田ならではの背景がある。そこで、BBQを通して、陸前高田の暮らしやすさを伝えようと考えた。「一緒にする」という意味の方言「はまる」から、「はまらいん」という、食材情報の発信などができるアプリ開発を企画。また、市内農水産物のオーナー制度をはじめることも提案した。

休日も高田で過ごそう

C班
りくフェス

陸前高田をBBQのメッカとして発信し、産業の活性化と人口増加を目指そうという企画。地元の豊かな食材、どこからでも花火が見える地形、煙をこもらせない海上の風と、陸前高田には、BBQと花火大会にもってこいの環境が揃っている。その2つを合体させて、“りくフェス”を実施しようと提案した。気仙沼や大船渡とつながるBRT(バス高速輸送システム)の活用で、近隣の市からも集客することも立案。

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D班
陸前高田市全市域公園化計画 ~ナナイロのかぜに吹かれて~

住みたくなるまちとは、安心して子育てができるまちと定義。そのために、既に公園がある高田町以外の7つの町に公園をつくろうと企画。芸術活動が盛んな横田町に「アートパーク」、米崎りんごの産地である米崎町に「アップルパーク」、イシカゲ貝が採れる気仙町に「イシカゲパーク」など、町の特色を活かした公園を提案。心地よい風がふく陸前高田の特徴とつなげて、各公園に“風浴びスポット”をつくることも立案した。

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やじるし

陸前高田の“当たり前”は、すごい魅力だった!

発想塾を終えて、参加者や開催者の皆さんから、様々な感想が寄せられました。

・マイナスからプラスに発想転換した時の衝撃が心に残っている。
・いつも当たり前にやっていた思考プロセスを根本から見つめ直すというか、つくり直すことができた。
・この2日間で思考がガラリと変わった。これを筋トレのように、脳をトレーニングして定着させたい。

森菜々子さん(管理課)昨年に続いて2度目の参加

昨年、「継続しましょう!」と提案したので、今年も出ないと顔向けできないと思って参加しました。笑 去年以上に踏み込んだテーマに難儀しましたが、講師の赤松さんが私たちの発表から良いところを見つけて、引っ張るというよりも押し上げてくれました。 発想塾以降、他人の意見を受け入れやすくなったと感じています。「人が違えば、違うことを考える。相手の考えの良いところを見つけよう」と学んだからかもしれません。業務でも、自分が考えるやり方だけを推し進めるようなことが減りました。

森菜々子さん

熊谷 卓さん(総務課)

震災をきっかけに、陸前高田をもっと良くしていきたい!という思いが強くなり、その突破口にしたくて、発想塾に参加しました。「いい結論に辿り着くには混沌が必要」と学んだのですが、役所の会議は混沌を嫌う傾向にあるので、慣れずに難しく感じました。でも、「本質にたどり着くための混沌なんだ」と自分に言い聞かせていました。それを乗り越えると、広い視野で考えることができるようになったように思います。普段は、予算があって、その中でできることを考えがちですが、予算を一旦考えずに発想して、その中からできるもの、できないものを考えた方が、楽しく前向きな発想ができそうだと感じました。

熊谷卓さん

菅野絢子さん(福祉課)

発想塾を通して、今まで当たり前だと思っていたことが、実はすごく本質をついていたり、今後の高田を変えるきっかけになる視点だったりすると気付けました。 関東から陸前高田に移り住んで、「ここが良いところだ」と思っても、地元の人には当たり前すぎて、良いと思っていない印象がありました。でも、発想塾で具体的な魅力をみんなで考えて、自分と同じことに良さを感じる人がいるのだとわかり、自信がつきました。これからは、考えを口に出して伝えないといけないと感じています。他の班のアイデアにも、よくぞ言ってくれた!と思えるものがありましたし、全部実現してほしいなと思います。

菅野絢子さん

松木 翔さん(政策推進室)

昨年は参加者、今年は運営担当でした。昨年は発想やグループワークが得意な人が引っ張っている印象でしたが、今年の特徴はチームワーク。総力で発想している感じがして、現場の在り方に近いかもしれません。始めはあまり張り切っているように見えなかった人からも、内に秘めたものが出てきたり、普段静かな印象の人も、面白い人がたくさんいると感じました。 自分も去年の発想塾以降、メンバーに業務の相談をしやすくなりました。キャラを知ったので、話しやすくなったところがあります。今年のメンバーも、ぜひ交流を続けて、業務に活かしてほしいです。

松木翔さん

舟波昭一副市長

東北人の気質に、真面目さがあります。それは役所で誠実に仕事をする上で活かされています。一方で、陸前高田で活躍する民間の方を見ていると、それに加えてエネルギーや発想もすごい。そういう方々のチャレンジを応援したいし、行政も率先して新しいことをやりたいと思っています。そのアイデアを引き出すには、相手の考えを一切否定しない、なんでも言って良い場が必要だと考え、発想塾を実施しました。業務においても、アイデアを埋もれさせず、口に出すようになってくれたらと考えています。他の人との意見交換で考えを磨き上げれば、政策も深まっていくはずです。これをきっかけに、お互いを助け合う文化が醸成されればと期待しています。

舟波昭一副市長

イノベーションは、“無いもの探し”からは起こらない

「うちの自治体には、目新しいものや、他と違うことはないなぁ」と思ってしまっていないでしょうか? イノベーションと聞くと、“革新的な何か”を探して発想しようとしがちです。しかし、今の自分達に無いものを付け足したり、他所の成功事例を真似たりしても、長続きはしません。さらに、自分たちにとっては、新しいことに思えても、世の中から見れば二番煎じに過ぎないかもしれません。イノベーションは、自分達の持っている素晴らしい魅力を、具体的に考え、気づくことから始まります。意外と、当たり前だと思っているものの中にこそ、他所にはない、“ならではの魅力”があります。そこに目を向け、磨くことこそ、“世の中から見た新しい価値”への近道かもしれません。

※ 所属・肩書きは、発想塾開催当時のものです。