陸前高田市役所の皆さんの気づき


陸前高田市役所が発想塾にチャレンジ。
復興の、次の一手を構想する!

自由な発想で新しい陸前高田づくりを

第8回を迎えた“地方創生イノベーション発想塾”。新型コロナの影響により、オンラインでの実施が続いていたものの、今回は現地での開催が実現しました。陸前高田市は、リアス式海岸の続く三陸海岸、岩手県の最南端に位置し、氷上山や箱根山などの山々が平野と湾を取り囲んでいます。その温暖な気候から、“岩手の湘南”と呼ばれているそうです。

陸前高田
陸前高田
陸前高田

復興のシンボル“奇跡の一本松”

中心部の6割を占める未利用地

東日本大震災の津波で甚大な被害を受け、そこから復興を進めて11年。防潮堤や複合商業施設の整備に加え、昨年は土地のかさ上げ完了と新市庁舎の完成が続くなど、インフラが整ってきました。一方で、用途の決まっていない未利用地がまだまだ多いなどの課題もあります。新しい陸前高田づくりを、更に1ステップ進めるために、「既成概念にとらわれず考えてみたい」と、イノベーション発想塾への参加を申し出てくれました。

丸2日、16人がねじりハチマキ

講師は、(株)博報堂 八幡功一氏と、(株)そもそも ファシリテーター 赤松範麿氏。福祉、税務、観光交流、農林など13の異なる課から集まった、若手から中堅のメンバーが、「陸前高田市が、もっと注目され、来る人が増えるアイデアを考える」というテーマに取り組みました。

1日目


あなたの考える陸前高田市の魅力を共有しよう

(8月30日)

2日目


その魅力を高めるアイデアを考えよう

(8月31日)

初日は、陸前高田市の魅力を改めて考えることからスタートしました。海、山、川といった自然の恵みや、人と人との繋がり、あたたかさなど、多様な意見が出されました。AIが出すキーワードを使った“強制発想トレーニング”など、予想外のアイデアを絞り出すことも体験。2日目には、陸前高田市が注目されるにはどんな施策が必要か、各個人が考えたものを班で話し合い、最終案までブラッシュアップしました。

スパーク

強制されると
人は自由になる。
 意外だが。

やじるし

A班
こっちゃこ あったげあったけ〜高田

タイトルは、「こっちへおいで、すごくあたたかいよ」を意味する方言。これを標語に、陸前高田で地元の人と触れ合い、心あたたまる体験ができることを伝えるアイデア。この地域の魅力の一つである“情の厚さ”を活かし、一度の観光で終わらずに、定住したくなるほどの関係づくりを目指す案。

B班
やりたかった、つくりたかった陸前高田

未利用地を活用して、新しいことに挑戦してみたい人を市内外から募る企画。バザーの開催やショップの開店などのアイデアを例に挙げた。新しい陸前高田づくりに多くの人に参加してもらい、共に復興を目指すことを提案。

C班
帰宅中リアル脱出ゲームin高田 〜あなたのために帰さない〜

震災を経験したことを逆手にとり、陸前高田を、災害への対応を学べる町にしようと提案。テーマは、「当たり前に、ありがとう」。自然災害に遭遇し、交通機関も使えないという状況を疑似体験し、無事に帰宅できることの大切を知ってもらおうという企画。

D班
マンスリー災難 〜これであなたもサバイバー〜

陸前高田は、震災の教訓を活かし、二度と犠牲者を出さないことを目標に、防災・減災に熱心に取り組んできた。だからこそできる、防災体験ツアーを企画。災害や事故を疑似体験するコンテンツを月替わりで準備し、生き延びる力をつけてもらうとともに、四季の自然の美しさも味わってもらうという案。

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やじるし

副市長へプレゼン!まさかの異動願いまで!?

せっかくのアイデアを、このまま終わらせるのは勿体無いと、副市長への発表会が行われました。2ヵ月半後の11月、仕事の合間を縫って準備を進めてきたメンバー達が、さらに磨きをかけた企画をプレゼンしました。

A班
元気でやってる課

「私たちは元気でやってるよ!ありがとう!」と情報発信する担当課の新設を提案。陸前高田は、奇跡の一本松の存在で世界中から注目され、今でもまだ気にしてもらっている。この事実こそが財産だ!と改めて気づいた。心配してくれている人達へ、現在のまちの姿やこれからの計画を伝えることで、繋がりを深め、実際に来てもらおうという企画。ラストには、A班全員の、その課への異動願いも飛び出しました。

元気でやってる課

B班
よさっぺたかた 〜みんなでつくるゆめのまち〜

地域再生に向けての課題である、未利用地。それを、空き地ではなく、人の思いを込められる場所と捉えたアイデア。市内外から“陸前高田の土地を活用して実現したい夢”を募集する。応募者には、市民との繋がりを深めるため、地域行事への積極参加を推奨。市民にはサポーターとして参加を募り、あたたかな人間関係が育まれる場所を一緒につくってもらおうとの提案。

フルーツI N G 沼田

C班
リアル体験ゲーム 〜3.11〜

市内全域をステージとした体験型コンテンツ企画。市外から来た人々に、観光中に災害に見舞われ、交通機関や携帯電話も繋がらない中で、ゴールを目指すという体験をしてもらう。その過程の中で、震災の教訓を体感するとともに、自然や人々にも触れてもらいたいと考えた。体験後には市内で利用できるクーポンを発行し、おトクに観光を楽しんでもらうことも立案。

学童文化財

D班
防災を実体験できる学びの旅

海、山、川に恵まれた陸前高田だからこそできる、防災・減災体験ツアー企画。登山や海遊びなどを通して陸前高田の自然の魅力を満喫してもらいながら、そこで起こり得る災害や事故と、そのサバイバル術を体得できる訓練コースを提供する。震災以降、市が力を注いできた防災・減災の取り組みを知らせる機会にもなるという提案。

シズってみる?

実は、D班はここで終わらず、隠し球の2案目を出してきました。

D班2案目
発想塾の定期開催

陸発想塾を市役所全域に拡げようとの提案。発想塾を受講したことで、自分達はここまで自由にアイデアを出せるのか!と新鮮な体験ができた。全職員が受講すれば、独創的なアイデアが生まれる土壌づくりや、組織横断的なディスカッションの気風が育成できるはず。これは、市役所全体の意識改革や、より魅力的な施策の実現につながるという進言でした。

やじるし

あの人、あんなキャラだった? 新たな一面も発見

発想塾を終えて、参加者や開催者の皆さんから、様々な感想が寄せられました。

・人間のアタマでは思いつかないことをAIが助けてくれる体験ができたともに、人間の思考力の素晴らしさにも改めて気づかされた。
・想像もしていなかったコトバをきっかけに、新しい気づきやアイデアが得られると学びました。
・「この人はこういう人だ」と固定概念で見ていたのが、「意外とこの人やるな!」と、新たな面が見えた。

森菜々子さん(D班・農林課)

発想塾への参加が決まったときは、「下手なことを言わないようにしなきゃ」と、プレッシャーを感じていました。でも、参加してみると、誰からも否定の言葉がなく、のびのび自由に発想できて楽しかったです。その中で、自分はどうも“正しいもの”を選ぼうとする傾向があり、視野が狭いことを自覚しました。これからは自分の考えだけにとらわれないようにしたいと思います。

森菜々子さん

佐藤直樹さん(D班、総務課)

発想塾で印象的だったのは、こんな意見にも良いところを見出してくれるのか!と驚くほど、皆さんから褒めていただいたこと。どんな案からでも、良いところを取り出して、次に繋げられると、学びましたね。また、仲間から想定外の答えが出る面白さも体験して、業務でも、気づきを求めて周りに意見を求めるようになりました。

佐藤直樹さん

菅野隼さん(政策推進室 政策広報係長)

行政の仕事は、0→1は少なく、決まったものをルールに従って進めることが多いです。これでは、なかなか斬新なアイデアに至りにくい。演習で、「発想には混沌が必要」と聞いて、これまで足りなかったのは、これだ!と感じました。混沌が起きるほど、自由に大量に考えることが、新しい陸前高田をつくるには必要だなと思います。

菅野隼さん

村上幸司さん(政策推進室 室長)

D班の「発想塾を全職員に」という意見には、自分がもっと高みにいけるのではという期待と、他の職員も体験すると、きっと変わるはず、という2つの期待があるのだと思います。次は、係長世代に挑戦してみてもらいたいですね。面白い発想がたくさん出そうな気がするし、彼らが経験することで、若い人にも良い影響があるだろうと思います。

村上幸司さん

舟波昭一副市長

どの案も、条件や制約を意識しすぎずに、自由な発想をしたことが伝わってきました。また、市民のためだけではなく、復興に協力くださった市外の方々にも喜んでもらえるよう考えてくれたことに、とても嬉しくなりました。今後どんな場面においても、職員が年齢や立場を超えて連携することは大事です。この取り組みを通じて、お互いを知り、1つやり遂げたということは、必ず役立つ経験になると思っています。

舟波昭一副市長

地方創生のカギは、“え?何それ?”の追求

今回の感想で多かったのは、「ルールや条件に縛られずに発想することの楽しさを知った」というものでした。意見を言う時、人は忖度しがちです。つい場が求めているものを探してしまい、無謀と思われるような発言はなかなかできません。その結果、最大公約数的な結論に陥りやすく、他所と似たような施策になってしまう。地方創生の多くの現場で起きていることではないでしょうか。地域の独自価値が生まれにくい理由です。新しい発想を生み出すには、発案者には、「無謀だと思われてもいい!」と 『開き直るチカラ』。周りの人には 、「え?何それ?」と面白がるような、『拾うチカラ』が必要かもしれません。

※ 所属・肩書きは、発想塾開催当時のものです。