長野県信州首都圏総合活動拠点「銀座NAGANO」
移住相談や観光案内にも抜群の成果をあげて注目
イベントは長野の文化を直接伝える場。即日満員やキャンセル待ちも出るほどの人気ぶり
実際にファンをつくるために、各スペースではどんな工夫をしているのだろう。
「1階のショップでは地域の特産品を販売していますが、商品を通じて、長野県の季節感や地域の郷土色を感じていただくのを目的としています。長野県のローカルフードである『牛乳パン』や諏訪湖周辺の名物である『ワカサギの唐揚げ』など、やはり長野県らしいものがよく売れます。リンゴやイチゴなどの旬の青果も人気です」と小山所長。
2階のイベントスペースでは毎日のように長野県ゆかりのイベントが開催されている。内容は、例えば、最近評価が高い長野県産のワインや日本酒の魅力を感じるイベントや、信州味噌づくり体験、長野の郷土食おやきづくり体験など。地元の人たちが来て、長野県のライフスタイルや地域の食文化、伝統や歴史を参加者にダイレクトに伝えるものが多い。予約制や有料のものも多く、参加者がイベントに魅力と価値を感じて目的意識を持って集まっていることが分かる。
小山所長は「イベント開催は継続しているうちに熟成されてきました。平日の昼間でもたくさんのお客様が集まってくださいます。主催者側はお客様を飽きさせない工夫をしていますし、参加者の皆様もここが長野県の奥深い魅力をストレートに感じられる場だと思ってくださっていることが伝わってきます」と話す。参加申し込みは主にホームページで受け付けるのだが、人気のイベントは公表日に即日満員になるものもあるそうだ。
今でこそ大盛況のイベントだが、最初は試行錯誤もあったという。
「実は、銀座NAGANOがオープンしたころのイベントは、『銀座NAGANOを知っていただく』ということが重要だったため、参加費無料のイベントが多かったです。そのお陰で大勢の方々にお越しいただきました。しかし、しだいに無料で誰でも参加できるイベントは、真の長野県ファンづくりに結び付いているのか、という疑問も生まれてきたこともあり、現在実施しているイベントの多くは、その内容に魅力や価値を感じていただける方々に参加費をご負担していただいてご参加していただいています。主催者側とお客様の要望がマッチしてこそ楽しんでいただけるのだと思います」(小山所長)。
大切にしているのは“お客様ニーズに応える”ということ
2階の観光案内と4階の移住交流・就職相談コーナーについてはどうだろう。2階の観光案内インフォメーションコーナーは、冒頭にも書いた通り、2018年度の観光案内件数30,683件。1日平均80件以上の観光案内を行っている計算になる。
「観光インフォメーションをご利用の方は、特に、何回も繰り返し長野県に旅行に行ってくださる熱心なリピーターの方、長野ファンの方が多いと感じています。ですから、お客様のニーズにお応えできるよう、観光案内をするスタッフも詳しい職員をそろえています。例えば、アクセスなら季節運行のバスの路線まで詳細な説明できるような」と小山所長は話す。
4階の移住交流相談コーナーについても“お客様のニーズに応えて”という言葉が印象的だ。
「当館に移住相談にいらっしゃる方の傾向は、約7割が40代までの方であり、7割がIターンの方です。つまり子育ても長野でしたいと考えている方や、仕事を見つけたいと思っていらっしゃる方が多い。そこで、お客様のニーズに応えられるよう、就職相談もその場でできるようにハローワークの窓口も設けました。長野県は移住先として大人気で、『田舎暮らしの本』(宝島社)の読者アンケートで移住したい都道府県ランキングでは14年連続1位、NPO法人ふるさと回帰支援センターによる移住希望地域ランキングでも3年連続1位です。銀座NAGANOでは、移住を考えていらっしゃる方に対し、移住と就職がワンストップで対応できるようにしています」と小山所長。2018年度の移住相談件数は1,160件、そしてハローワークの利用件数は828件にのぼる。
重要なのはスタッフというソフト面の魅力。そしてスタッフ全員で目的を認識すること
成功の要因はどこにあるのだろう。
小山所長は「銀座NAGANOの魅力は、館内の雰囲気や立地環境に寄るところが大きいです。それに加えて、私は常々、"銀座NAGANOの魅力はスタッフの魅力だ"とよく話をします。来てくださったお客様一人一人を大切にできる、スタッフというソフト面の魅力が一番重要です。例えば、旅館などでもスタッフの対応がよくなければ行かなくなりますが、心のこもった接客を受ければリピーターになり、友人にも安心して勧められます。
当館では1、2階の運営は一般社団法人長野県観光機構が行っていますので、スタッフ約50人の7割が長野県出身であり、ほかの従業員も長野県ファンが多いです。長野県に愛着があり、知識も豊富ですから、ご来店いただいたお客様と会話も弾み、さまざまなご要望にお応えしやすいと思います。堅実に着実に、お一人お一人を大切にして、本質的な長野県の魅力を感じていただきたい」と話す。
そして「もう一つ大切なのは、スタッフ全員が、物産販売も観光案内もイベントも移住相談も、すべては“一人でも多くの長野県のファンをつくる”という銀座NAGANOのミッションに向かっているのだと認識していることだと思います」と続けた。
世界に向けて認知度や信頼感の高まりに手ごたえ。地域活性化に貢献していきたい
「銀座NAGANO」は施設内だけの事業だけでなく、首都圏で開催される長野県フェアや、旅行エージェントへの営業、近隣ホテルを回っての外国人旅行客へのPRなど、さまざまな活動の拠点になっている。また、2019年に台風19号の被害を受けた以降は、「みんなで復興に取り組もう」という合言葉である”ONE NAGANO(ワン・ナガノ)”のTシャツを職員が身に着けるなど、被災が風化しないための発信も行ってきた。
「銀座NAGANO」の総合的な活動は地方都市を活性化させる成功例として評価され、シンガポールや韓国、アルメニアなど外国からも「どうしたら地域に力を与えられるか」という目的で視察が訪れている。大手の加工食品製造・販売会社の社員研修を依頼されることもあり、「お客様はもちろん、多方面に対して銀座NAGANOの認知度も信頼感も高まっている手ごたえを感じる」(小山所長)という。
小山所長は今後について「長野県庁に県産品の販路拡大を図る営業局という部署ができました。長野県各地で少子高齢化や過疎化が進み、良い産物を作っていても収入が見合わず、後継者がいないなど、先細り感があります。銀座NAGANOもサテライト店として、県内の生産者や事業者のみなさまが丹精込めて作られた商品を販売させていただいていることから、ここで収集したお客様の反応などを的確に地元にフィードバックさせていただき、次の商品づくりの参考にしていただくなど、売上とともにさまざまな形で地元地域の活性化に向けて貢献していきたい。
お客様と接していると、地元で普通だと思っているものが一般的ではなく、価値があるものだということに気づかされます。例えば千曲市の名産品に生あんずがあるのですが、東京ではナマで食べることがめずらしいようで、大変よく売れます。意外な商品が人気となって価値を再発見する機会も多く、まだまだ長野県にはダイヤの原石がたくさん眠っていると感じます」。小山所長の言葉は未来への希望にあふれている。
(写真・文)中元 千恵子
(取材協力)風土47編集部
(取材日)2020年2月吉日
【参考】
長野県信州首都圏総合活動拠点「銀座NAGANO」
https://www.ginza-nagano.jp/