住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり
住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり
氏名 |
野坂 夏基さん(のさか・なつき) |
所属 | 埼玉県立秩父高等学校2年 |
プロフィール | 埼玉県横瀬町出身。埼玉県立秩父高等学校に在学中。硬式野球部副部長であり生徒会役員を務める。地方創生への関心は中学時代、横瀬町のスーパー公務員の田端将伸さんの講演を聞いたことから。地元を舞台にしたアニメの公式グッズ販売、総合的な探究の時間での地元の放置竹林の問題への取り組みや「ちちぶ郷土かるた」の制作イベントの開催、本ワークショップへの参加などを通して学びの方向性が地方創生へと明確になった。 |
「学問カルタ」で地方創生と学問がどうつながるのかがわかった/地方創生を学んで大好きな地元に還元したい
2025.03.25公開
野坂夏基さんは高校2年生ながら、地元秩父の魅力を伝える活動を積み重ねています。活動を通して気づいたのは、地方創生には人と人とのつながりが欠かせないということ。高校の総合的な探究の時間での取り組みでも、コミュニティの場や機会をつくること、同世代を巻き込むことに懸命に取り組んでいます。活動の中から浮かび上がった地方創生、観光、まちづくり、コミュニティ、イベントというワードの中から地方創生カレッジのeラーニング講座も受講し始めました。
地元のために知恵をしぼって汗をかく大人との出会いが活動を後押し
──カルタを楽しみながら学問分野を幅広く知る「学問カルタ」*のワークショップに参加されたそうですね。いかがでしたか?
野坂:学問の種類があんなにもたくさんあるとは! 今まではざっくりと学びたい分野を決めてからそれを詳しく調べてきたので、どうしても興味の向くほうに偏りがちでした。カルタだから親しみやすくて情報が入ってきて、広く知る機会になりました。
*学問カルタ:産業能率大学の藤岡慎二教授と株式会社Prima Pinguinoがプロデュース。「住民一体となった地域活性化を推進するための政策とは」などの研究のテーマがいくつも書かれた台紙に、学問の名前と説明が書かれたカードを置いていく。
──学問とやりたいことがつながるイメージはありましたか?
野坂:それはすごくありました。自分が興味をもっている地方創生や観光、まちづくりを学ぶときの学問の名前を知ることができたし、地方創生ひとつをとってもその枠組みの中に経営、経済、社会学などいろいろな切り口がありました。カルタを体験して自分は、コミュニティ人間科学などコミュニティ系の学問に興味をもちました。人とのつながりをベースに地方創生を考えたいと思っているので。
“学問カルタ”を通じて将来の学びと地域で活躍する姿のイメージを膨らませた(左側が野坂さん)
──そこに至ったのは、秩父地域での地域活性の活動経験からですね。
野坂:秩父地域は地域内のコミュニティがしっかりしている町なのですが、若い人ほど地域の人とのつながりが薄れているように感じています。自分は、まちづくりには人とのつながりが欠かせないと思っているので、世代間が関わり合えれば秩父のよさを活かしたまちづくりができると考えています。
──そもそも野坂さんが地方創生に関心を持ったきっかけは?
野坂:中3のときに学校で、「スーパー公務員」と呼ばれている横瀬町役場・まち経営課の田端将伸さんの講演を聞いたんです。活動の内容を聞き、地元にこういう人がいるんだ! と衝撃を受けました。ふだんあまり学校の話を親にしたりしないんですが、その日は家に帰って熱心に語ったことを覚えています。
秩父高校に入学すると「高校魅力化コーディネーター」がいました。神宮一樹さんです。「そもそも高校魅力化コーディネーターって? いったい何をしているの?」とお話を聞くうち、神宮さんと近しくなりました。
自分は小学校から野球をやってきて、地元の方の応援がすごくありがたかったんです。地元の方に恩返しをしたいなという気持ちが自然と強くなっていったし、秩父市や横瀬町が住みやすくていいところなので魅力を広めたいという気持ちが生まれました。自分は地元が好きなんだなと、今になってつくづく感じています。
コミュニティの場を作るためにもイベントの形をとった「ちちぶ郷土かるた」
──入学以来、積極的に町の活性化に関わっていらっしゃるんですよね。
野坂:1年生のときに神宮さんが関わる「あの花グッズプロジェクト」に参加しました。これは秩父市が実施している「秩父市高校魅力化プロジェクト」の一環で、地元の秩父アニメツーリズム実行委員会とのコラボ企画です。秩父が舞台になったアニメ、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の公式グッズとして缶バッジとタオルを制作し、秩父吉田の龍勢祭で販売させてもらいました。あの花プロジェクトに関わって地域の魅力の新発見があり、イベントをやる面白さを感じました。
学校では、総合的な探究の時間で、地元の放置竹林の問題に取り組みました。放置竹林の竹を利用して竹バットを作る企画です。それを「〝ちちぶエフエム″で話してみない?」と誘ってくれたのは田端さんです。
神宮さんには「高校コーディネーター全国フォーラム」に参加するきっかけを与えていただきました。地域創生に関わる大人の方の話を聞くうちに、ぼんやりとしか見えていなかった地方創生への興味が輪郭を持ち始めました。
──そうして、学問カルタで学問分野が絞れたというわけですね。
野坂:ちょうど2年生の総合探究でも、自分達のチームは「カルタ」に取り組んでいたんです。「ちちぶ郷土かるた」のイベントです。第1回目は参加者でカルタを作って、第2回目は作ったカルタで遊びます。カルタなら世代を問わず楽しみながら地元に興味を持ってもらえるし、コミュニティの場を作るためにもイベントの形で着地させたいと考えました。
イベント運営については、夏休み中に横瀬町の地域商社「株式会社ENgaWA(えんがわ)」さんでフィールドワークをさせていただき、「ENgaWA」の中村さんと村上さんから学んでいたんですけど、イベントって難しいものですね。一つ一つ形態が違うし、準備するにあたっていろいろな人に話を通したり段取りしたり、思った以上に細かな仕事が多く、まわりの方にたくさん助けてもらいました。結果的には、カルタづくりは初めてという参加者も多くて「楽しかった!」と言ってもらえて、すごくうれしかったですね。
──コミュニティづくりと地域創生。テーマは定まってきたようですね。
野坂:そうですね。自分の興味がいろいろとつながったのが、郷土かるたのイベントだったのかなと思います。対象は秩父高校生と限られてしまいましたが、その中でも学ぶことはあったし、何といっても自分達で主催した初のイベントなので。
このイベントで得た学びと、竹バットの商品化に向けた動きについて「よこらぼ大会議2025」(横瀬町のまちづくりのチャレンジフィールド「よこらぼ」のイベント)でお話しさせていただきました。人前で発表するのは得意なほうなんですが会場には大勢の大人がいらっしゃって緊張しました……。ですが、横瀬町で地方創生カレッジのプロジェクトを行った産業能率大学の方たちとも交流できました。地方をよくしていこうという感覚は立場や年齢が違っても共通していて、同じ目線で話してくれたことがとてもうれしかったです。
「よこらぼ大会議2025」で150名を超える聴衆を前に地元・横瀬への想いを語る野坂さん
一緒にやらない? と声をかけて少しずつ地方創生の仲間を増やしていきたい
──野坂さんは、学問カルタ後に地方創生カレッジのeラーニングを受講してくださったんですね。
野坂:日本生産性本部の齋藤さんが選んでくださったおすすめ講座から、一番興味がある「コミュニティ」に関連している「多世代交流を通じた地域の魅力発見と若者の人材育成」を受講しました。
ユニットが1、2、3と分かれていて、それぞれにまとめの動画があって重要事項を確認したり、確認テストでおさらいができたりするところがいいですね。テストに合格すると修了証がもらえるのもうれしかったです。最後のまとめで中学生が、「大人も自分達と似た部分があるということを知ることによって大人に対する親近感、信頼感をもてる」とか「多世代交流をすると多様な価値観に出合えて、自分の価値観が肯定される経験になる」というコメントを出していたんですが、それがすごく共感でき、印象に残りました。今後もeラーニングで新しい発見や考えにたどりつけたらと思います。
──高校生の視聴者がもっと増えてほしいと思っているんですが。
野坂:動画では現場の声がふんだんだったので、もし1年生の最初の頃に受講していたら、総合探究でもっといろいろなことができたしアイデアが浮かんだと思います。特に過疎地域の高校生に興味をもってもらえたら、地方創生のリーダーが地元で増えるんじゃないでしょうか。
同年代に地域への関心をもってもらうのは、自分のテーマでもあります。いきなり大きく巻き込むのは難しいので、一緒にやろうよと声をかけて少しずつ仲間が増やせたらと。自分はリーダーシップをとるのは自信がないんですけど、同じ目線で人と話すことには抵抗がないし自信があるので。地域活性の「ファーストペンギン」になれたらと思っているんです。
──いよいよ最終学年になりますね。今後の予定は?
野坂:野球部の最後の大会が7月なので、そこまでは部活も頑張って、地方創生についても引き続きもっと深掘りしたい。実は自分が卒業する次年度、2026年度から秩父高校は皆野高校と統合して新校になるんです。秩父地域に関心のある高校生が増えてほしいので、より興味をもってもらえるカリキュラムを期待しながら後輩を見守りたいと思っています。進路については、今は、観光、まちづくり、コミュニティの観点で地方創生をとらえて学部選びをしながら、経営など地域を動かすための学びも付け加えつつ志望大学や学問の分野や種類を絞っているところです。
大学に入ったら1、2年生ではしっかり知識をインプットして土台づくりをしたい。そして「よこらぼ大会議」で親交した産業能率大学の先輩方のように、学んだことを活かしてほかの地域にフィールドワークに出かけ、反省点を整理しながら次のフィールドワークへ、というようにどんどん経験を蓄積していきたい。今まで幸運なことに専門的な人が周りにいて、探究したり連携したりしながらやりたいことをやらせてもらったので、将来は自分がその立場になって地元に関われたらと思っています。
野坂さんは硬式野球部員としても活躍中。野球で培った視野の広さとチームワークが地方創生の活動にも活かされるという
──野坂さんの横瀬町への愛が伝わってきます。
野坂:横瀬町の棚田のある風景も、そこから見える武甲山もとてもきれいで心が落ち着くんです。自然と身近にふれ合うことができて、「日本一歩きたくなる町」のキャッチフレーズは偽りなし!人口減少は全国的な問題で仕方がない部分もあると思うんですが、最終的には地元に帰って田端さんたちのように地域を盛り上げ、関係人口を増やすことに貢献したいです。

野坂 夏基さん
(のさか・なつき)
埼玉県立秩父高等学校2年
[プロフィール]
埼玉県横瀬町出身。埼玉県立秩父高等学校に在学中。硬式野球部副部長であり生徒会役員を務める。地方創生への関心は中学時代、横瀬町のスーパー公務員の田端将伸さんの講演を聞いたことから。地元を舞台にしたアニメの公式グッズ販売、総合的な探究の時間での地元の放置竹林の問題への取り組みや「ちちぶ郷土かるた」の制作イベントの開催、本ワークショップへの参加などを通して学びの方向性が地方創生へと明確になった。
主なテーマ