地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介全国で活躍する地方創生専門人材-学びと実践の事例-専門人材25:地域農業にかかわる2コース受講で希望の農林系大学に合格/どんな人として何をしたいか、島での高校生活が答えをくれた

住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

佐藤さん


氏名

佐藤 亘さん(さとう・せん)
所属 島根県立隠岐島前高等学校3年
プロフィール 東京都出身。中学まで東京で過ごし、市民農園での野菜作りなどで農業や自然に関心をもつ。小学5年生のとき、家族旅行で隠岐に行ったことがきっかけで隠岐の自然に魅了され、高校は「島留学」で隠岐島前高校に進学。探究学習などで環境問題や農園の運営などに携わり、農業・環境・地方創生への興味関心がさらにふくらみ、2025年度から高知大学農林海洋科学部農林資源科学科フィールド科学コースで学ぶ予定。

地域農業にかかわる2コース受講で希望の農林系大学に合格/どんな人として何をしたいか、島での高校生活が答えをくれた

NEW! 2025.03.19公開 
 

佐藤さんが高校生活3年間を過ごしたのは、島根半島の北方、40~80kmの日本海に浮かぶ「隠岐」です。在校生の半分が島外からの島留学生で佐藤さんもその一人。もともと自然が大好きで、農業や環境には関心があったという佐藤さん。寮生活を送りながら探究学習や島の行事で島の大人たちと交流するなかで、大学で学ぶ分野が見えてきたようです。受験勉強でどのようにeラーニングを使ったのか、これから学んでいきたいことなど、お話をうかがいました。

 

講義型小論文の大学入試で役立った地方創生カレッジのeラーニング

──佐藤さんは東京生まれの東京育ち。隠岐島前高校(以下島前高校)への進学は異色の進路選択だったのでは?

佐藤:小学5年生のときに家族旅行で隠岐に行ったときに島前高校のことを知って、そのときから島前高校ひとすじでした。まわりの友達は東京で進学する人がほとんどで、「島根に行く」と言うと驚かれたりもしました。
親が地元で「食」に携わっていたころもあって、僕も小さい頃から市民農園で畑の取り組みに参加していました。それが農業に興味をもったきっかけです。高校受験のときは学びのテーマを農業に絞っていたわけではなく自然や環境などに広く興味をもっていて、地域の方との交流の多い隠岐に魅力を感じて入学しました。


──環境は激変でしたね。

佐藤:自然豊かな環境を求めていたので、海も山もすぐ近くにある隠岐での毎日は新鮮でした。島前高校は生徒の半分は留学生で、いろいろな地方から来ていて刺激的でもありました。


──島前高校で農業と環境についてさらに深めていきたいと思うようになったのですね。

佐藤:島前高校はグループでの探究活動がさかんで、自由にできる仕組みがありました。1、2年生のときは「竹害」をテーマにしました。隠岐の竹の成長はとても速く、放置された竹林が里山に広がって環境に悪影響を与えているんです。自分達に何かできることはないかということで探究を進めていきました。3年生では、自分で作ったものを自分で料理して食べる活動を通して野菜作りや農業に関心をもってもらいたいという思いから、男子寮生の有志で畑の運営に取り組みました。

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釣った魚を寮の友人に披露する様子(左側が佐藤さん)


──地域の方との交流は?

佐藤:島前高校には地域に出てお手伝いをする文化があって、僕は農業への興味関心から農家さんのお手伝いをしました。島の野菜はそれはおいしくて、自分が作ったもので人を幸せにしたり、感動させたりという体験の素晴らしさを知りました。自然が好きで環境保全にも関心をもってきましたが、自分も作り手に回って、自分が行う農業で環境保全とつなげていきたいという思いがふくらみました。


──春から高知大学の農林系学部に進学。学校選びはどのように?

佐藤:島前高校では1年時に職場体験の授業があります。僕は介護センターで3日間介護職を体験しました。年配の方たちの知恵や価値観、考え方に気づけたことは貴重な経験でした。自分は介護にはあまり関心はありませんでしたが、関心がなくてもそれを体験することで自分の関心事に近づくという経験になるものですね。
島前高校は自分のやりたいことができる自由な授業が多いんですけど、「自由に」と言われるとどこから手を付ければいいかわからなかったりします。職場体験は、自分の将来の仕事について思いを巡らせ、広がった選択肢から進路を絞り込んでいく機会になりました。本を読むだけでなく、学校の外に出て体験してこそ思考できることはあるのだと思いました。
2年生の終わり頃に農業系に絞り、高知大学も選択肢にあがって、3年の初めに受験校を決めました。島留学生は日本全国からだけでなく海外からも。僕もそうですけど自然と、中学まで住んでいた場所と隠岐を対比しながら自分を客観的に見てテーマを決めていくという感じでした。


──地方創生カレッジのeラーニング講座は、受験勉強のタイミングで受けていただいたんですね。

佐藤:「地域農業の再生・創生」「スマート農業を活用した地域課題解決」の2つを受講しました。高知大学を総合型で受験する準備を始めたのが3年生の1学期後半で、夏休みから志望理由書や一次試験に必要な書類作成を進めました。eラーニングを受講したのは一次試験が終わって二次試験の対策をするタイミングです。
二次試験の内容は、模擬授業を受けて小論文を書く「講義型小論文」だったんですが、そうしたスタイルの試験対策があまりなくて困っていました。「地方創生カレッジのeラーニングは、動画を視聴する授業を受けたあとに確認テストがあるから本番に向けたよい練習になるよ」と、島前高校の教育コーディネーターの原さんから紹介していただいたんです。
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佐藤さんが受講した「スマート農業を活用した地域課題解決」では農業が抱える構造的な課題からDXによる生産性向上の事例まで幅広く学習できる


──eラーニング講座は役立ちましたか?

佐藤:二次試験の小論文のテーマは、大学で学ぶ農業に関することとだけ示されていました。これまで農業従事者が減っている状況を正確な資料で確認する機会がなかったんですが、地方創生カレッジのeラーニング講座ではグラフや資料でそれを目にすることができ、農業の危機的状況をリアルに捉えることができました。僕は本を読んで勉強しようとしても、長く読もうとすると集中力が切れたりするんです。動画で音を聞きながらのほうが頭に入るし、正確な資料を目で見て記憶できるのがとてもよかったです。


環境にも人にもやさしい小規模な農業を増やしていきたい

──佐藤さんはこれからの日本の農業をどう考えていますか。

佐藤:小さな農業に関心をもっています。隠岐には自分達で作ったものを自分達で食べるという地産地消の食文化があるのに、商店などでは本土から取り寄せられている野菜を結構目にしました。そこから「その矛盾はどこから生まれるんだろうか?」「輸入に頼りきっていたらいずれ自分達の食べるものがなくなってしまう」という問題意識が生まれました。「食」は、生活の中での一番の危機をまねきかねない大事な問題です。土地、農薬の量、運搬コストなどすべてが大きくなる大規模農業よりも、小規模農業で国産のものを食べ、一人一人にとって農業が身近になるようにしていきたい。それが環境も農業もよい方向に進めることになると考えています。


──実際に目にしたことが、地産地消への関心につながったんですね。島の農業者とふれあった経験も大きいですか。

佐藤:はい。農家の手伝いで出会った「ムラーズファーム」のムラー・フランクさんは無農薬で野菜栽培に取り組んでいて、自然が大好きで自然と友達。野菜作りを心から楽しんで、自然とともに生きていて、尊敬しています。ムラーさんの姿や野菜作りへの考え方を知って、楽しみながら働くことのイメージがわいて、もっと農業を学びたいというきっかけを掴めました。
大人の方の力は偉大、ということも隠岐での暮らしで感じました。ここで出会った大人の方は知らないことを一から教えてくれる存在でした。自分の先を歩いている方に協力していただけるような姿勢や態度は大事にしていますが、ただ、つい頼りすぎてしまったり、自分のやりたいことを主張できない場面があったりしたかな、というのは反省点でもあり自分の弱みでもあります。大学では、根拠を示しながら自分の考えていることを伝えるプレゼンテーション能力が必要になると思うので、磨いていきたいです。


──地方創生カレッジのeラーニング講座には、プレゼンテーションもそうですが、人の考えをうまく取り入れて協力を仰ぎながら思いを伝承させていく「ファシリテーション」の講座もあります。

佐藤:そうなんですね。興味のある分野の知識を深めたり新しい情報を得たりするのも大事ですが、弱点を補うという活用の仕方もありそうですね。使ってみたいです。


何でも全力で取り組んで地元を盛り上げる隠岐の大人たちは僕の理想

──これからの夢は?

佐藤:高知大学農林海洋科学部は農業系の大学の中でも大きなフィールドを持っていて、農業分野と環境分野のどちらかを選択するのは2年になってから。両方関心がある僕としては、高校での学びを活かしながら広く学び、やりたいことを見つけたいと思っています。


──小さい農業で環境保全を考えていきたいという佐藤さんにとっては、地域の活性化は切り離せないテーマになりそうですね。

佐藤:隠岐に行って思ったのは、若者を非常に必要としてくれて、貴重な存在として受け入れてくれる方が多いということ。高校生のなかには、自分には何もできないと思っている人もいるかもしれないけれど、地方に行ってみるだけで「来てもらえることがありがたい」と言っていただいて感謝される場面があります。それは、地方ならではの体験なのではないでしょうか。
隠岐は人があったかくて、地域のイベントで人がつながり合って、外から来た人も温かく迎えてくれる空気がありました。何でも全力で取り組んで地元を盛り上げる隠岐の大人の人たちはとても素敵で、僕の理想です。
3年間見守ってくれた「島親」さんは、「いつでも戻ってきていいよ」と言ってくれました。隠岐は自分を温かく迎えてくれて元気をもらえる第二の故郷です。自分も、将来住む場所で隠岐の大人の人たちのように地元に貢献したいし、温かい雰囲気づくりをしていけたらと思っています。


佐藤さん

佐藤 亘さん
(さとう・せん)

島根県立隠岐島前高等学校3年

[プロフィール]
東京都出身。中学まで東京で過ごし、市民農園での野菜作りなどで農業や自然に関心をもつ。小学5年生のとき、家族旅行で隠岐に行ったことがきっかけで隠岐の自然に魅了され、高校は「島留学」で隠岐島前高校に進学。探究学習などで環境問題や農園の運営などに携わり、農業・環境・地方創生への興味関心がさらにふくらみ、2025年度から高知大学農林海洋科学部農林資源科学科フィールド科学コースで学ぶ予定。

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