住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり
住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり
氏名 |
矢作 彩乃さん(やはぎ・あやの) |
所属 | 産業能率大学経営学部経営学科3年 |
プロフィール | 神奈川県川崎市出身。神奈川県立住吉高等学校を経て、現在は産業能率大学経営学部経営学科在学中。高校の総合的な学習の時間で、祖父が農業を営む山形県大蔵村の過疎の問題をテーマにしたことがきっかけで地方創生に興味をもつようになる。大学では選択授業で地方創生を学び、福島、淡路島などで活動。今回の埼玉県横瀬町でのプロジェクトでは「遊休農地」をテーマに施策を発表。大学最後の年次はゼミの仲間と群馬県嬬恋村で交流カフェの運営にチャレンジする予定。 |
感性のおもむくままに現地に行ってみることから/全国に視野を広げて問題をとらえ、地域に視点を戻す
NEW! 2025.03.19公開
矢作彩乃さんは大学に入学してから授業や専門ゼミで一貫して地方創生の取り組みをし、各地でフィールドワークも重ねてきました。地方の人が抱える、将来への不安と長年築いてきた土地や職業への誇り…揺れ動く心情を理解したいという気持ちが、矢作さんの地方創生への取り組みのベースです。今回の「学生が主役の地方創生プロジェクトfor横瀬町」では、施策の発表後もまちづくりに関わる現地の人との交流が続いているようです。
祖父の住む村の社会問題に取り組んだのが地方創生への目覚め
──矢作さんの地方創生への興味の原点は?
矢作:高校時代に総合的な学習の時間で、祖父が住む山形県の大蔵村の過疎の問題に取り組んだことが始まりです。ちょうどテレビのニュースで、玄関先まで軽トラックで出向き、お客さんと会話をしながら買い物をしてもらう移動スーパーを目にしました。祖父からも買い物の不便さなどは聞いていましたが、社会問題としてとらえて解決しようと取り組んでいる団体があることにハッとしました。調べてみると、改善できる余地があることに気づき、自分も地域を元気にする活動ができるようになりたいと、どんどん関心が深まっていきました。
──大学でも地方創生を学びたいと産業能率大学へ?
矢作:はい。総合学習は、毎週楽しみになるくらい熱心に取り組めたんです。それまで学校の中だけで生きてきたので、社会問題に自分から関わったのは初めてだったんですよね。産業能率大学は3年時にユニット選択ができ、その中に地域創生があったこと、また地方創生をテーマにしているゼミがいくつかあったので魅力を感じて入学し、3年間ずっと地方創生を勉強してきました。
──最初に取り組んだのは?
矢作:1年生のPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)の授業で、地域を舞台にチームで問題を解決する機会があり、「沖縄」に取り組んだのが最初です。夏休みには「地域ベンチャー留学」という実践型インターンシップ制度を利用して、福島県葛尾村に1か月ほど住み込みました。葛尾村は3.11の原発事故の影響で、一時全村避難を強いられた自治体の1つです。避難解除後に帰村して農業を再開した方の思いをヒアリングし、課題整理まで取り組みました。課題解決のための施策にはたどり着かなかったんですけど、それが私の初めてのフィールドワークです。
──現地で生活し、生の声を聞いた経験はいかがでしたか。
矢作:皆さん農業の将来性には悲観的な言葉を発するんですが、深掘っていくと代々継承してきた土地を自分の代で手離すことに後ろめたさを感じていたり、里山の風景を愛する心や郷土への愛着が伝わってきました。また、思い返せば、大蔵村でも親戚たちが似たようなことを言っていた記憶があり、農家の方はみんな同じ葛藤を抱えているのかもしれないと思いました。でも、風景や暮らしを素敵だよねと言うと、親戚には「厳しい季節を経験してないからだよ、住んでみないとわからないよ」とか、「こんな何もないところすぐに飽きるよ」と、自虐のような、謙遜のようなことを言われて話が止まってしまいました。確かに何もわかっていないかもしれないという思いと、自分が素直に感じた素敵という感情を蔑ろにされたような悲しさもあって、なんとも言えない気持ちになったのを覚えています。そのような経験があったから、「もっと地域を理解したい」という思いが強まったし、地域の人が誇りや愛着を堂々と口にできる地域づくりってどんなものだろうと考えた記憶があります。地域ベンチャー留学は、不安と誇りの間で揺れ動く現地の人の心情をもっと理解できるようになりたいという気持ちを掘り起こす機会になりました。
2年生の後期からは起業・地方創生を専門的に掘り下げる藤岡ゼミに入り、まず淡路島で「農泊」に取り組みました。北淡路農泊連携協議会の方と提携して、農泊のプランを考えて資料を納品するところまでこぎつけました。
訪れた北淡路の廃校活用施設でスペースの活用法や地元の特産品に感心している様子
北淡路の海で資料用の写真を撮影しているところ
地方創生の主役はそこで暮らす人。見て聴いて雰囲気をつかむことが大事
──ゼミの3年時に今回の埼玉県横瀬町のプロジェクトに参加。地域活動の経験は活きましたか?
矢作:現地に行く前に横瀬町の総合計画を読み、町が抱える課題を解決するための中・長期目標の中から、興味をもったこと、チャレンジしてみたいことをテーマにし、チームを組んで施策を考えました。私たちのテーマは「遊休農地」です。横瀬町ならではの問題をつかんだうえで、授業や地方創生カレッジのeラーニング講座を通して一回視点を広げていきました。
──視点を広げる?
矢作:地域活動を経験して思ったのは、地域の問題はその地域特有の問題と、全国的な問題には共通性があるということ。横瀬町のプロジェクトの授業の1コマ目では全国の成功・失敗事例をグループワークで学び、2コマ目で横瀬町の施策を進めます。遊休農地の問題では、高齢化や労働力不足で全国的に遊休農地が増えている問題と、「日本一チャレンジするまち」や「日本一歩きたくなる町」という横瀬町が推し進めているプロモーションを掛け合わせて、できることを考えました。
──問題解決の糸口は地域の特長を活かすことにあったのですね。
矢作:1コマ目では、事前に配られる資料から成功・失敗の理由を読み解いて自分の意見の中に取り込んでから自分の言葉で書き直し、それをグループワークで共有して全体の知識として蓄えました。そのとき役立ったのが、地方創生カレッジのeラーニングです。先生が指定してくれる参考映像を見て事前知識を増やしてから授業に臨むことができました。私は農業系に興味があったので、そこは自分でプラスして視聴し、付け加えたりもしました。
──フィールドワークはどのように進めたのですか?
矢作:遊休農地を見に行ったり、横瀬に関わる人たちのための民間のコミュニティ・イベントスペース「エリア898」で運営者や住民と交流したり、地域おこし協力隊の方や地産地消カフェを運営している方にお話を聞くなど、地元で活動している方の雰囲気を見て、横瀬町でこそ成功する施策を考えました。住民の方とリアルにふれ合うなかで、知らなかった地域が形を持ち始め、施策のアイデアが具体化されてイメージがふくらんできました。地方創生ではそこで暮らす人が主役になるので、実際見て聴いて雰囲気をつかむことはとても大事なことだと思っています。
──政策提言発表会では富田能成横瀬町長からも好評をいただきましたね。
矢作:私たちのチームは、ほかの地域での成功事例から横瀬町で転用できそうなものや、現に横瀬町でやっている活動をアップデートしたり加速させたりしていく施策だったので、現実的という点での評価だったのだとは思います。施策の1つに「民泊」があったのですが、すでに民泊事業をやっているメンバーがいてビジネスとしての利益の実証もあり、納得感のあるプレゼンができました。ただ、ほかと比べるとユニークさには欠けていたかも。イノベーション思考をもって地方創生に臨むというのが藤岡先生の教えなので、残りの1年ではそこにもチャレンジしていきたい。群馬県嬬恋村のカフェは頑張りたいです。
大学で行われた発表会では富田町長にむけてプランを披露した(右端が矢作さん)
──もう始動しているのですか?
矢作:はい。施策の提言にとどまらず、地域で経済的な活動をするのは初めての経験。今までやってきた、地域の人と関わって課題を深掘りするやり方が役に立つときが来てワクワクしています。私が大事にしたいことは、「パワフル&スピーディー」。コミュニティスペースとカフェの機能をもったアウトドア系のカフェなんですが、都内から学生を呼び込みつつ地域の人とふれ合える場、地域の人がイベントをやりたいというようなときにスピーディーに開催できる場にすべく実践中です。まだ不安はありますが、仲間や地元の方、先生の力を借りながら、やれるところまでやってみたいと思います。
感性のおもむくままに出かけたら奇跡的な出会いが待っていた
──現在就活の真っ最中だとか。地方創生の学びを仕事にどう活かしたいと考えていますか。
矢作:「農業」にフォーカスし、生産者の課題解決というところに軸を置いて、種苗業界や農業機械メーカーなどを中心に就職を考えています。農業を支える人になりたいし、農業を通じて地域を元気にしたいと思っているんです。
──「地方創生」への取り組みが道筋をつくってくれたようですね。
矢作:横瀬町はご縁があって授業で訪れたけれど、現地に行く目的を問題解決に据えたことはあまりなかったんです。自主活動で訪れた葛尾村や淡路島は、風景写真に魅かれたとか、記事を見てインタビュイーに話を聞きたくなったとか、面白そうとかワクワクする予感で飛び込んでみたらやっぱり魅力的なところで、好きになってしまうという感じでした。実際に行って風景を見て人とふれ合うと愛着が生まれ、その地域に貢献したいという思いが強まるんです。横瀬町もそうですが、福島も淡路もそこでの出会いは運命的なものだったし、ほかの地域を選んでもきっと誰かに運命的に出会うのでしょう。地方創生と聞くと、地域の課題解決とか堅苦しく敷居が高いように感じてしまうかもしれないので、むしろ「素敵」とか、「気になる」っていうところから生まれた愛着の方が、その後課題解決するときの原動力になるんじゃないかなと感じています。
──「地方創生」、どんな学生におすすめしたいですか?
矢作:私も福島県葛尾村に行くまでは、祖父のいる大蔵村くらいしか地方というものを知らず、関心はあるけれど実例を知らないという大勢のうちの一人でした。そういう人こそ実際に足を運んでみると発見があると思うし、何かについて関心を深めたり違う角度からアプローチしたりしたいときは、関連する地域に行ってみるといいと思います。
ただ、多少の予備知識は持って行ったほうがいいのかも。今回横瀬町に入る前に、地方創生カレッジのeラーニングをいくつか視聴して、確か「地域農業の再生・創生」だったと思いますが、大規模農業から小規模農業までをA・B・C地域に分けて説明していたんですよね。ひとくくりに農業の問題というのではなく、細分化して前提知識をもっていると現地で見たことと知識がつながって解釈が鮮明になり、有用でした。これはたぶん、農業以外のどの分野でも同じだと思います。
──横瀬町とはその後も交流が続いていると伺いました。
矢作:政策提言発表会の2か月後くらいに、「よこらぼ大会議2025」(横瀬町のまちづくりのチャレンジフィールド「よこらぼ」のイベント)に招待していただきました。横瀬町は活気があり、推進力があります。自分事としてまちづくりに関わる人、まちづくりのリーダーに挑戦しようとしている人が多く、行政のバックアップもある、地方創生の見本にしたくなるような地域です。懇親会では皆さんに「またおいでよ」と、声をかけていただきました。私も関係人口の一人になれたのかな?地域おこしをするなら横瀬町のような町でやりたいし、移住者になりたいと思えるような魅力のある町でした。このご縁を大切にこれからも関わっていきたいです。
「よこらぼ大会議2025」で150名を超える聴衆を前にプレゼンを行った(右側が矢作さん)

矢作 彩乃さん
(やはぎ・あやの)
産業能率大学経営学部経営学科3年
[プロフィール]
神奈川県川崎市出身。神奈川県立住吉高等学校を経て、現在は産業能率大学経営学部経営学科在学中。高校の総合的な学習の時間で、祖父が農業を営む山形県大蔵村の過疎の問題をテーマにしたことがきっかけで地方創生に興味をもつようになる。大学では選択授業で地方創生を学び、福島、淡路島などで活動。今回の埼玉県横瀬町でのプロジェクトでは「遊休農地」をテーマに施策を発表。大学最後の年次はゼミの仲間と群馬県嬬恋村で交流カフェの運営にチャレンジする予定。