住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

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氏名

大野 雅人さん(おおの・まさと)
所属・肩書 アクサ生命保険株式会社オペレーショナルレジリエンス&
フィジカルセキュリティ スペシャリスト(札幌本社勤務)
プロフィール 神奈川県茅ケ崎市生まれ。
1985年日本団体生命保険株式会社(現アクサ生命保険株式会社)入社。2017年から同社で危機管理・事業継続を担当、2019年から札幌本社勤務になったことを機に、北海道大学公共政策大学院で本格的に国土強靭化と地方創生を学び始め、上士幌町や津別町などでまちづくりに携わる。2019年に北海道強靭化計画有識者懇談会委員、2020年から上士幌町SDGs推進アドバイザーを拝命。気象予報士や防災士の資格を有する他、リスクマネジメント協会CRM、ISO22301(BCMS)審査員なども務める。現在、社会人学生として、北海道大学公共政策大学院 専門職学位課程在籍中。

持続可能なまちづくりで北海道の地方創生に貢献

2021.11.29公開 
 

北海道で持続可能な開発目標(SDG s)につながるまちづくりを通じて、地方創生に取り組んでいる大野さんの活動をご紹介します。

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SDGs推進アドバイザーとして大野さんが関わる上士幌町SDGs推進プロジェクト

 

転勤を機に北海道のまちづくりに関わるように

──これまでの地方創生の取り組みについて教えてください。

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北海道上士幌町役場

大野:勤め先であるアクサ生命の東京本社に勤務している中で、現在の危機管理・事業継続の担当になった際、仕事の延長で受講した地方創生カレッジが、地方創生の取り組みを始めるきっかけの一つになりました。そして、受講後の2019年5月、同社の札幌本社に転勤にしたことを機に、同社の札幌本社設立のきっかけとなった「北海道バックアップ拠点構想」の提唱者である、元北海道大学特任教授の小磯修二先生と巡り会えたことなどで、その後の活動の幅が広がると同時に、様々な人とのつながりができ、急展開で北海道の地方創生に携わるようになりました。そして、現在は国土強靭化と地方創生やSDGsをテーマに、北海道の上士幌町のSDGs推進や津別町のまちづくり、最近では小樽市の活性化などにも参画しています。

──地方創生カレッジを受講したきっかけや目的について教えてください。

大野:最初は、当時仕事で担当していたリスクマネジメントや、CSRに向けた取り組みの一環としてSDGsを学んでいた際、同カレッジにコラムを連載されていたリスクマネジメント協会理事長兼明治学院大学教授の神田良教授にご紹介いただいたのがきっかけです。その後、三菱総合研究所などが主催する丸の内プラチナ大学の講座で、SDGsを学んだあと、同じプラチナ大学の、逆参勤交代という地方創生を学ぶ講座で、フィールドワークに参加して訪問した場所が、その後アドバイザーを務める北海道上士幌町でした。これを機にSDGsと地方創生への関心がさらに高まり、札幌学院大学客員教授兼リスクマネジメント協会理事で、函館の地方創生カレッジの主催者でもあった戸根谷法雄教授のお誘いを受けたこともあって、この数ヶ月後に函館で開催された地方創生カレッジの官民連携講座にも参加することになったのです。

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北海道上士幌町役場

知見と人脈を広げた地方創生カレッジの講座

──官民連携講座の手応えはいかがでしたか。

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函館でのワークショップの様子

大野:函館での講座(写真右)は、まだコロナ禍に入る前だったので対面式で行われました。そこでは特定のエリアで官民連携のまちづくり、町おこしを行うエリアマネジメントという取り組みについて学びました。シャッター街になっている函館駅前のエリアをどう活性化させるか、が講座のテーマでしたが、非常に勉強になったのは、「官民連携講座」ということもあって、様々な立場の人の考えやアイデアを聞けたことです。私のチームは地元企業の社長や福祉事務所の職員、市職員、地域起こし協力隊などが参加されていて、いかに公共空間を活用するのかについて話し合いました。音楽家が自由に演奏したり、夜の街の一角をスケートボードで遊べるようにしたりするなど、若者が遊べる場所や活躍できる場所、夜にも集える場所が必要だという意見がでたほか、駐車場の少なさや中心部の空き店舗・空き地の有効活用も課題として挙げられました。
一方で、講座を通じ、函館がまちの資産をまだ十分に活用活かしきれていない、とも感じました。港町で明治維新の遺産があり、観光資産も多いので、うまく活かせば観光客も呼び込めると思いましたが、そのためには、中心となって推進していく組織を作ることが重要だということも話し合うことができ、大変有意義な時間でした。 以上のように、様々な立場の人たちの意見や考えを通じてまちづくりのことを知ることができたことや、また、この時に知り合えた人たちが、その後の私の北海道での地方創生の取り組みを円滑に進めることに大変役立っていることなど、この講座に参加した意義はとても大きかったと思います。

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函館でのワークショップの様子

上士幌町のSDGs推進アドバイザーとして活躍

──地方創生カレッジでの学びはご自身の活動にどのように役立っていますか。

大野:函館での講座の前、まちづくりに関するeラーニングを20講座ほど受講しましたが、これがとても充実した内容でした。しかも、受講するだけでなく、各々の講座で使用したテキストをダウンロードして印刷することもできたので、その後の継続的な自主勉強に役立ちました。「RESASの使い方 全マップ解説 基礎編/活用編19」、「エリアマネジメント~立ち上げから自走まで~」、「観光による地域経済循環と観光地域経営」、「SDGsを地方公共団体が推進する意義と実践」などは、今でも、現在のまちづくりの活動の中で、何度も見返すことがあります。特にその中でも一番役立ったのは、「SDGsを地方公共団体が推進する意義と実践」で、上士幌町のSDGsの取り組みに関わった際は、その成果を実感しました。
上士幌町に関しては、少し話は戻りますが、逆参勤交代のフィールドワークを通じて上士幌町長に「SDGs推進戦略」を提案したことがきっかけで、その後町長から直々に「SDGs推進アドバイザーになって欲しい」と依頼され、本業の傍ら、ボランティアで2020年から同町のSDGs推進アドバイザーに就任することになりました。

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上士幌町の竹中町長(左)と大野さん

大野:就任時に町長と合意したことは、政府のSDGs推進本部が主催する、優れたSDGsの取り組みを行なっている自治体や企業、団体を表彰する第4回ジャパンSDGsアワードと、内閣府が主催する、SDGs達成に向けた優れた取組を提案した自治体を選定する「SDGs未来都市」の2つに応募することでした。その理由は、当時、上士幌町はすでに酪農による家畜ふん尿を利用した農業や発電を行い、食料自給率3500%、エネルギー自給率1100%を達成するなど、いくつもの持続可能な先進的な取り組みを実現することにより、東京からの若年層の移住者が増え、人口のV字回復と高齢化率の低下を実現させていましたので、その点を上手く提案書でアピールできれば、間違いなく受賞できると直感したからでした。また、全国的にはほとんど無名だったため、その素晴らしい取り組みを広めていくためには、SDGsアワードや未来都市のような形のあるアピールポイントが必要だと思ったからです。そのために、まず、私の方で、まちで実施しているそれぞれの取り組みが、SDGsの17のゴールのどれに結びつくのかを全て整理して、一覧表にまとめたのですが、その際に、地方創生カレッジの「SDGsを地方公共団体が推進する意義と実践」のeラーニング講座が大変参考になりました

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上士幌町の竹中町長(左)と大野さん

そして、2020年9月に第4回ジャパンSDGsアワードに応募いたしましたが、その際に、eラーニング講座の資料の中で紹介されていた第1回ジャパンSDGsアワードを受賞した下川町の事例で、SDGsの取り組みのポイントがわかりやすく載っていましたので、それを参考にして、私が、申請書の下書き作成と提出時のレビューも行いました。具体的には、開拓時代の過酷な状況を克服しながら、現在の持続可能な取り組みに繋げて成果をあげている事実を、「消滅寸前のマチが、SDGsで一転V字回復、アフターコロナに対応できる循環型Society5.0のまちへ!」という、キャッチ―なフレーズにまとめ、延いては、東京一極集中是正という国土強靭化への貢献とSDGs・パリ協定などの世界への貢献という高い志を謳った構成にしました。その結果、同町の取り組みの内容が評価され、2020年12月、上士幌町も「SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞」を受賞することができました。

ジャパンSDGsアワードによって、今までの取り組みが認められたので、さらに将来に向けて取り組みを全国に広めていく責任を果たすために、2021年2月に、『2021年度「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」』にも申請いたしました。
このSDGs未来都市の選考基準は、世界がSDGs達成を目指す2030年までに、町が今後どういう取り組みをするのかが審査の対象でしたので、その際にも、eラーニングの講座で勉強した、SDGs未来都市の下川町の事例が大変役立ちました。それを参考に、具体的な取り組みとして、これまでの、町が取り組みをリードするトップダウンを正式な組織体により推進することと、さらに今後は、住民が主役になるボトムアップ型の取り組みも同時に推進していくべきという内容で、下書きと提出時のレビューを行った結果、こちらも5月にSDGs未来都市に選出されました。そして実際に、2021年5月、庁内に、町長を本部長とする「上士幌町SDGs推進本部」、2021年8月に町の高校生や若手の社会人など約20人で構成される「SDGs推進プロジェクト」が立ち上がることとなりました。

また、別件ですが、最近、小樽市の活性化にも関わるようになりましたが、そこで感じたことは、このまちは観光地として有名である反面、観光をまちづくりにつなげるという面ではまだまだ課題が多く、その原因としては、若い様々な分野の人が中心となり、協力してまちづくりを推進していこうという体制がまだ整っていないということです。その体制構築のためには、どのようにまちづくりをやっていけばいいかを、官民連携の協働で考える必要があるため、函館のように地方創生カレッジでワークショップを開くことがとてもプラスになると思っています。函館では、実際に地方創生カレッジがきっかけとなり、行政や市内の事業者や大学のいわゆる産官学が集まって協議する機会が生まれ、活性化について考え始めています。また、上士幌町のように、ほとんど無名で観光資産にもあまり恵まれていなかったまちが、持続可能な取り組みをまちづくりに生かしている事例は、小樽の参考にもなると思っています。


──地方創生カレッジのおすすめポイントを教えてください。

大野:まちづくりに取り組んでいる人や興味がある人全員にお勧めしたいです。地方創生カレッジは、テーマや分野が多岐に渡っていて、オンラインの資料などを含めて非常に中身も濃く、基礎的な部分から発展した部分まで、大学院の授業並みに充実していると感じました。しかも無料で受講でき、テキストもダウンロードできるので、非常にメリットが大きいと思います。また、オンライン授業のスピードを調節できるので、時間のない人は短時間で受講することも可能です。地方創生を考えている人は、ぜひご活用ください。


住み続けられるまちづくりを広めたい

──今後どのように地方創生に関わって行きたいとお考えでしょうか。

大野:現在、仕事をしながら、社会人学生として北海道大学公共政策大学院で、国土強靭化と地方創生を研究テーマとして学んでいます。日本の最大の弱点である東京一極集中を是正するために、国が考えている戦略は二つあり、その一つが、地方を活性化させることにより、間接的に東京から地方に人を移動させる方法で、いわゆる地方創生です。そして、その成功事例がまさに上士幌町なのです。上士幌町のような、持続可能な住み続けられるまちづくりを、全国に広げることで地方創生を加速させ、東京一極集中を是正させたいと考えています。もう一つは、東京から直接的に、企業などの中枢部分を地方に分散させる方法で、私の勤めているアクサ生命が、2011年の東日本大震災を教訓にして、2014年に札幌本社という第二本社を設立し、東京に集中していた本社機能を札幌に分散した事例がまさにそれに該当します。しかし、現在のところ、上士幌町やアクサ生命に追随する自治体や企業はほとんど出現していないのが現状です。その理由は、不便さやコストといったジレンマがネックになっているからです。ところが、2020年に発生し、世界中に危機をもたらしたCOVID-19のパンデミックが、皮肉にも、東京一極集中是正と地方創生の実現に大きく寄与する兆候が表れてきています。今まで東京に集中することがメリットだったのが、逆に、集中することによる過密が大きなリスクになってしまったからです。このように、COVID-19 によるパラダイムシフトにより、大きく働き方や生活のスタイルが変わった今こそが、東京一極集中是正と地方創生の流れをつくるチャンスだと感じています。実際に2020年以降、東京から企業や人が地方に分散し始め、東京の人口が減り続けています。だからこそ、今、地方でその動きを受け止め、大きなうねりにするために、受け入れ側の骨太な政策を素早く丁寧に実施していかなければいけないと思っています。地方がしっかりした魅力的な受け皿を用意することで、このCOVID-19による未曽有のピンチを、東京一極集中是正の起死回生のチャンスに変えられると信じています。


── 大野さんの活動の原動力は何でしょうか。

大野:社会に貢献したい、その思いに尽きます。現在、アドバイザーなど様々な町での取り組みはすべてボランティアで、本業の傍らのライフワークとしてやっています。今までの人生は、自分のため、家族のため、会社のために仕事をしてきましたが、これからの第二の人生は、社会のため、人のために、自分ができるかぎりの貢献をしていきたいと思っています。それが今のモチベーションになっています。


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大野 雅人さん
(おおの・まさと)

アクサ生命保険株式会社オペレーショナルレジリエンス&
フィジカルセキュリティ スペシャリスト(札幌本社勤務)

[プロフィール]
神奈川県茅ケ崎市生まれ。
1985年日本団体生命保険株式会社(現アクサ生命保険株式会社)入社。2017年から同社で危機管理・事業継続を担当、2019年から札幌本社勤務になったことを機に、北海道大学公共政策大学院で本格的に国土強靭化と地方創生を学び始め、上士幌町や津別町などでまちづくりに携わる。2019年に北海道強靭化計画有識者懇談会委員、2020年から上士幌町SDGs推進アドバイザーを拝命。気象予報士や防災士の資格を有する他、リスクマネジメント協会CRM、ISO22301(BCMS)審査員なども務める。現在、社会人学生として、北海道大学公共政策大学院 専門職学位課程在籍中。