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住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

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氏名

前田 敬孝さん(まえた・ひろのり)
所属・肩書 鳥取県琴浦町 町議会議員
プロフィール 1962年鳥取県東伯町(現琴浦町)生まれ。
専修大学法学部卒業。自動車会社、服飾系専門学校、日本生産性本部国際協力部勤務のほか、アルジェリア高速道路建設プロジェクトやJICA(国際協力機構)の漁業プロジェクトなどを通して海外での活動も経験。2018年1月、鳥取県琴浦町議会選挙で初当選。議員としてSDGsを中心に地方創生に取り組むほか、「とっとりSDGsパートナー」、地域福祉委員、防災士、共助ボランティア、「とっとりエコサポーターズ」などで活動。株式会社ビック・ツールSDGs推進アドバイザー。

SDGs推進で実現する地域住民のための地方創生

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琴浦町では風力発電など自然エネルギー活用も進む
撮影:前田 敬孝さん

 

地元の琴浦町に20年ぶりに戻って感じた変化

──町議会議員として活動されていますが、立候補の経緯をお聞かせください。

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アルジェリアでは高速道路建設プロジェクトの資機材調達業務を担当

前田:大学進学を機に生まれ育った琴浦町を離れました。社会人になってからは自動車関係やファッション系の仕事などで海外生活も経験しました。2010年から2年半勤務した日本生産性本部国際協力部では、チュニジアやイランから研修生を招くプロジェクトを担当しました。
昔から将来は地元に戻ろうと考えていて、2014年には一度地元に戻ったのですが、バブル前の高校生の頃とは町の様子が一変していてまるで浦島太郎でした。鳥取空港の臨時職員として勤務したこともありましたが、両親とも元気だったので地元に腰を落ち着ける間もなくまた海外に渡りました。
その後、父親が亡くなり、一人暮らしを始めた母も軽い認知症があることがわかったので、2016年に再度地元に戻りました。機械工具メーカーやスーパーに勤めたのですが、地元に活力を取り戻したいという気持ちが高まり、長年温めてきた地方創生を実現しようと考え、町会議員への出馬を決心しました。

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アルジェリアでは高速道路建設プロジェクトの資機材調達業務を担当


──琴浦町の課題はなんでしょうか?

前田:全国どこの地方も抱えている、少子高齢化、人口流出、空き家問題、耕作放棄地、インフラの老朽化、後継者不足などですね。琴浦町は稲作はもちろん、野菜や果物の栽培、芝の生産、畜産や漁業も盛んで、サーモンの養魚場もあります。芝の生産量は県内一で、小さいながらも18ホールのゴルフ場もあります。海や山、神社仏閣などそこそこの観光資源もあるのですが、「これは!」という決め手がありません。これらの資源をうまく組み合わせることで、より効果的な取り組みができるはずなんです。何かのきっかけさえあれば、大きく飛躍できると思います。3億2000万円に及ぶ「ふるさと納税」があるということは、それなりの魅力があるということだと思うのですが。
一方「鳥取県人は日本一歩かない」というあまりありがたくないデータがあります。その背景には、軽自動車の普及率が高く、ちょっとした買い物でも車を使ってしまうこと。さらに12月から3月の4カ月間はどんよりとした鉛色の雲に覆われる日が続き、天気も変わりやすくて大雪に見舞われることも多く、必然的に運動不足になってしまいます。それゆえ生活習慣病の罹患率も高く、その予防対策は県の重要施策になっています。糖尿病が重症化すると、生活の質が低下し、人工透析や生活保護受給となると財政も圧迫するので、一刻も早い対策が求められています。

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    全国最長のショートコースを持つ光好カントリークラブ
    写真提供:琴浦町観光協会
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    『日本の滝百選』に選ばれている大山滝など、自然に恵まれた琴浦町は、農産や畜産、海産物が豊富
    写真提供:琴浦町観光協会

 

地方創生カレッジで学んだ内容をもとに議員活動を開始

──議員として地方創生活動に取り組まれることになったわけですね。

前田:地方創生に取り組むといっても、課題があまりに多すぎるので何から手をつけていいのかわからなくなります。「里山資本主義」の講演会などを通じて、地方に資源があるのは理解していたのですが、実際に進めるとなると、具体的にどうすればよいかわかりませんでした。
そんな時に役立ったのが地方創生カレッジです。日本生産性本部に勤務していた時代に知り合った職員の方から「今度、こういうのが始まるけど受けてみない?」と教えていただいたのがきっかけです。
なかでも興味を持ったのがSDGs関連の講座で、この時の受講内容がその後の活動の羅針盤代わりになりました。地方創生というと、東京などのコンサルタントに委託して、観光情報や地元産の食材を使ったレシピなどを発信するものが多いのですが、私は地元の人間がまず健康で生き生きして暮らしていれば、発信などしなくても、自然と人は集まってくるという視点で取り組みを始めました。

──議会での反応はいかがでしたか?

前田:2018年に議員に当選し、当初からSDGsの推進を提唱してきましたが、自身の質問力というかプレゼン能力不足もあり、同僚議員にも執行部にもなかなか理解してもらえませんでした。町長はSDGsの概要は知っていましたが、私が思い描いた展開には至りませんでした。しかし、将来的な展望や他地域の事例を紹介し、SDGsを自治体で取り組む意義を繰り返すうち、SDGs自体が地元の新聞やテレビでもしばしば取り上げられるようになり、県に「SDGs推進本部」が設置され、関連したイベントが開かれるようになると知名度がアップし、その重要性を認識する人が増えてきました。今では私のトレードマークになっています。SDGsには17の目標があるのですが、全部を1人でカバーすることはできないので、Goal17のスローガンのごとく、同僚議員や執行部とパートナーシップを組んで、地方創生の羅針盤にしたいと思っています。

──17の目標のうち、最初に何に取り組まれましたか?

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琴浦町立赤碕中学校における理科の授業の様子。1人一台のタブレットを活用している

前田:17テーマのうち、「4:質の高い教育をみんなに」「3:すべての人に健康と福祉を」から取り組みを始めました。教育については、以前赴任していたモロッコで、私立学校に子女を迎えに来た高級車の横を、ロバを引きながら水を運ぶ少女の姿を見かけたことがあるのですが、経済格差が教育格差を生み、将来的にも貧困から抜け出せないという傾向は、現代の日本にも当てはまります。宇沢弘文氏(経済学者・鳥取県出身)は教育や医療も橋や道路と同じように、誰でもが平等に利用できる「社会的共通資本」だと提唱しています。琴浦町は児童生徒に1人一台のタブレット端末と高速ネットワークを整備するGIGAスクール構想に早くから着手しており、数年後の実現を目標としていましたが、コロナ禍により前倒しされ、2020年度内に小中学校へ1人一台のタブレット端末導入が実現しました。GIGAスクール構想については以前から、様々な理由で学校に来ることができない児童生徒にも、家庭でのタブレット端末の使用ができるようにすべきだと主張してきましたが、そこまでは難しいというような返答でした。現在ではある一定の条件下での使用ができるようになっています。

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琴浦町立赤碕中学校における理科の授業の様子。1人一台のタブレットを活用している
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琴浦町では「健診ガイド」に各地区での生活習慣病有病率ワースト3を載せるなど、受診率向上の取り組みを進めている

前田:もう一つ重要な健康についてですが、特に生活習慣病対策が最優先課題となっています。各自治体とも特定健診の受診率を上げ、財政に大きな負担となる重症化を防ごうと、様々な取り組みを行っていますが、特定検診の受診率は高止まりしています。何かよい取り組みはないかと思案をしていた時に地方創生カレッジで、「地域における健康無関心層の行動変容を促すインフルエンサーの育成」という講座を見つけました。ひととおり講座を受講し、インフルエンサーを育成することで、健康情報だけではなく災害時の情報発信なども可能になればソーシャルキャピタルの向上も期待できると考え、2021年3月の議会では「健幸アンバサダー」育成制度の導入を提案しようと準備を進めています。

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琴浦町では「健診ガイド」に各地区での生活習慣病有病率ワースト3を載せるなど、受診率向上の取り組みを進めている

 

興味のある分野から受講し、じんわりと知識を拡大

──地方創生カレッジの受講を継続するコツはなんでしょうか。

前田:地方創生カレッジには様々な分野の講座が開講されていますよね。ただ、あれもこれもと広げすぎると対応しきれなくなるので、何か興味のある分野を選んで、それを中心にじんわりと知識を広げるとよいと思います。私の場合はSDGsだったのですが、その中でも「この目標についてはわかる」というような専門分野を持ちたいですね。
ただし、専門分野とは別にRESASの使い方やプレゼンテーションスキルなど、議員活動で必須の講座も受講する必要があります。議会質問の際、いくら専門分野を知っていても、プレゼンが稚拙だと伝わらないどころか、良いテーマの印象を悪くしてしまいます。伝わって、理解して、行動そして継続まで導くためには、人を引きつける、高度なプレゼン能力が必要だと実感しています。

──受講の成果はいかがでしょうか。

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前田さんが以前勤めていて現在もSDGs推進アドバイザーを務める株式会社ビック・ツールではSDGs推進を前面に押し出している。取り組みを進めることで環境先進国である欧州での事業展開も有利に

前田:議員が自治体の施策の状況や方針などについて説明や報告を求めたり、質問したりすることが一般質問ですが、地方創生カレッジを受講していますので、一般質問のネタに困ることはありません。もし受講していなければ、一貫性のある質問をすることができないままの議員活動になっていたのではないかと思います。この2年間でSDGsの知名度も上がってきたので、コロナ禍のなかで改めて見直すSDGsといった提案を行うこともできました。一方、県内の民間企業でも銀行や環境関連企業・団体を中心にSDGs推進室を作るなどの活動が始まっていて、今後成果が出てくるのではないかと考えています。

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前田さんが以前勤めていて現在もSDGs推進アドバイザーを務める株式会社ビック・ツールではSDGs推進を前面に押し出している。取り組みを進めることで環境先進国である欧州での事業展開も有利に

 

今後の地方創生の鍵は農業高校

──今後の展望や取り組みについてお聞かせください。

前田:私は農業高校が地方創生の鍵になると考えています。農業高校は、昔のイメージとは異なり、現在はドローンやGPS、太陽光発電など最先端の技術を実践で学ぶことができ、食品加工や環境関連の学科もあり、幅広い分野で活躍できる人材育成の場となっています。
また県内就職率もほかの高校に比べると非常に高く、ドローンを飛ばすことが好きだったり、植物の声を聞くことができたりといった突出した技術を持つ生徒が農業高校に進学して、技術を学ぶことで、地方創生に役立つ人材の育成を進めたいと考えているので、地方創生カレッジには高付加価値農業や予防医療などに関する講座が増えるとよいと思います。
条例の制定も考えています。2021年3月議会では町側から環境関連の部署を企画政策課に移管するなどのSDGs推進のための予算案も提出されるのですが、SDGsは10年という長いスパンのゴールを設定するので、途中で町長が交代してしまうとゼロからのスタートになってしまうかもしれません。継続して推進していけるよう、来年度はSDGs推進条例の制定まで持ち込みたいと思います。


前田敬孝さんからひと言アドバイス

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自治体職員の方には、ぜひ地方創生カレッジを受講していただきたいと考えています。議員と職員が共通のテーマの知見を共有することで、その自治体の状況に合わせた施策について、一歩進んだ議論が展開できるからです。今は語句の説明からです。コロナ禍で人を集めた研修も難しいので、新人研修前に「SDGsを地方公共団体が推進する意義と実践」や「Society5.0の実現に向けた教育」などを事前に学習しておくとよいと思います。町長への提言や、地元企業との話題の共有ができれば共有もスムーズです。
一方、地方創生カレッジには、その知名度を上げるため、どんどん情報を発信していただくとともに、自治体のなかで何から始めるかといった指南書や、幹部職員向け、新人議員向けといった対象別にピックアップしたお勧めコースを提案していただくとありがたいです。すべての講座が重要に見えてきて、あれもこれも受講するうちに、すべてが中途半端になってしまうこともありました。また、地方創生を進める自治体の具体例やチームづくりの方法が講座になっていてもよいと思います。

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前田 敬孝さん
(まえた・ひろのり)

鳥取県琴浦町 町議会議員

[プロフィール]
1962年鳥取県東伯町(現琴浦町)生まれ。
専修大学法学部卒業。自動車会社、服飾系専門学校、日本生産性本部国際協力部勤務のほか、アルジェリア高速道路建設プロジェクトやJICA(国際協力機構)の漁業プロジェクトなどを通して海外での活動も経験。2018年1月、鳥取県琴浦町議会選挙で初当選。議員としてSDGsを中心に地方創生に取り組むほか、「とっとりSDGsパートナー」、地域福祉委員、防災士、共助ボランティア、「とっとりエコサポーターズ」などで活動。株式会社ビック・ツールSDGs推進アドバイザー。