地域の資産に着目し、
人と人とをつなぐ活動を展開
2020.6.25公開
函館市内にある神社のイベントで展示された「中空土偶キャンドルアート」
道南ならではの魅力に光を当てる
──山田さんは現在、「縄文DOHNANプロジェクト」の代表を務めていらっしゃいますが、この活動を始めるまでの経緯についてお聞かせください。
山田:私は一度函館を出て、戻ってきたという経験をしています。札幌の大学卒業後、仕事の関係で群馬県高崎市へ移住して、しばらくそちらで生活しました。10年ほど前に故郷に戻ってきて現在の職場に勤めるようになったのですが、そのとき感じた違和感が現在の活動への大きなきっかけになったのです。
──活動の原点になった違和感とはどんなことだったのですか?
山田:以前、暮らしていた頃と比べて、ずいぶん寂しいところになったなという印象を持ち、愕然としました。函館は道南の中心的な街なのですが、私が離れていた10年ほどの間に大きく変わってしまっていたのです。これからも、北海道新幹線などで交通の動線も大きく変わっていき、世の中がどんどん便利になっていく一方で、地域が取り残されてしまうんじゃないか、という強い不安を感じました。
──それが「縄文DOHNANプロジェクト」につながっていったのですね。
山田:同じような危機感を持たれている方が多くいらして、すでにいろいろな活動が行われていました。でも、活動をバラバラに展開していてはどうしても限界があります。もっと大きな力が必要なんじゃないか、そのために何かできるはずだ、と考えました。
その後、地方創生カレッジで学んだものが使えないかと考えるなかで、キーワードとしてひらめいたのが「縄文」だったのです。函館だけでなく、道南地域全体の共通資産といえる縄文遺跡や文化への興味を仲立ちにして、より広く大きな形で地域活性化に貢献できるはずだと気づき、皆さんに声をかけて活動を開始しました。
現在は、そのような考え方への共感を広めるために、いろいろなところへ出かけたり、協力を要請したりなど、地域内での様々な活動をつなぎあわせる努力を続けています。
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「縄文DOHNANプロジェクト」の一環として、2019年11月に、函館市内にある万年橋小学校で行われた公開授業参観
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プロジェクトメンバーは、産学官民の20代から70代まで、個性豊かな幅広い層で構成されている。この写真は2020年1月に実施された「縄文会議」の一コマ
受講して発見した本当の「地方創生カレッジ」
──地方創生カレッジの受講にあたって、期待されていたのはどんなことでしたか?
山田:正直なお話をすると、地方創生カレッジには、最初はそれほどしっかりしたイメージを持てませんでした。当時から地域活性化のために独自にできることを手がけていたつもりでいたなかで、知り合ったある戸根谷法雄先生が「こんな講座がある、きっと役に立つよ」と勧めてくださったのがきっかけで受講することになりました。戸根谷先生は偶然にも、私の母校(函館西校)の先輩でもあったんです。
──どの講座でどのような知識を得たいという具体的な期待があったわけではなかった?
山田:そのとおりです。「シティ・マネジメント基礎」を選んだのは、一番基礎から勉強すれば、必要なものが見えてくるだろうと思ったからでした。また、人と関わっていく中では「人のことを学ばなきゃいけない」と常日頃感じていたので、ほかに受講した講座も、こうした観点で選ばせていただきました。選択した様々な講座は、現在の活動を続けるために必要なものになっています。ずいぶん多くの人の縁に助けられてきたことがわかります。
──受講した講座で学ばれたこと以外にも、地方創生カレッジを通じて得られたものはありますか?
山田:実は、昨年(2019年)後半から「地方創生カレッジ in 函館」※の事務局をやらせていただいています。これも大いに役立っています。受講する立場に加え、運営サイドから組織やプロジェクトを回していくための、いろいろな役割やポイントなどを実地で経験できました。これらの経験は、「縄文DOHNANプロジェクト」を動かしていくノウハウにもつながるものになったと考えています。
※「地方創生カレッジ事業」では、官民連携講座と題した実地研修も効果的に取り入れることで知識やスキルを習得する機会を設けています。モデル地域を選定し、各地で地方創生に携わる官民の関係者を集め、eラーニングによる学習と地域課題を解決するための実践的なワークショップを組み合わせた講座を運営することで、地方創生事業の展開に必要な人材の育成に努めています。「地方創生カレッジ in 函館」の開催概要と成果につきましては、以下のページをご参照ください。
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「地方創生カレッジ in 函館」の事務局代表の戸根谷法雄さん
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「函館の活性化」という共通の目標に向けて集結した産学官民の参加者が、初めての対面のなか、和やかに対話している
人の縁が結びつけ、人の縁のつながりを学ぶ
山田:最初はまずしっかり受講することに必死でした。先ほどもお話ししたように、地方創生カレッジに明確なイメージや目標を持っていたとはいえません。そんな状態でしたから、「シティ・マネジメント基礎」は、当時の自分に最適の内容だと感じました。もっと地域を盛り上げたいという漠然とした希望を、確かな目標に高めるにはどうしたらいいのかを学べました。具体的に何をどんな風にしたらいいのか、どんな準備や知識が必要かなどなど、希望を目標に変えていくためのベースを身につけることができたと思います。
何人もの方々からアドバイスをいただきながら、その先に必要なことをステップ・バイ・ステップで学んでいけたのは、大変運がよかったのかなと、今になって感じています。
──受講された皆さんに共通すると思いますが、最後まで受講し、学んだことを確実に身につける秘訣、方法のようなものは?
山田:大前提は「必ずやり遂げる!」と決めて、実際に受講中にやると決めたことは絶対おろそかにしないことだと思います。時間がないからしょうがないとか、できない理由はいくらでも探せますが、絶対それを許してはだめです。
仕事と受講を両立させたい私は、まず身体の空いている週末を受講した講座の予習・復習に当てると決めました。あとはそれを守るという意志です。もうひとつ力になったのは、一緒に学んでいるほかの方々との連帯感でした。全員がそれぞれの地元のためにできること、やらなければならないことのために真剣になっている。そんな皆さんの気持ちが、私自身を応援してくれたと強く実感しています。
──受講された講座は、それぞれどのように現在の活動につながっていますか?
山田:基本的な活動指針から実務的な面まで、あらゆるところに関わっています。例えば「クリエイティブ・ディレクション基礎講座」では、「縄文DOHNANプロジェクト」の活動にすごく役立っていますね。広報活動に欠かせないポスターやポップを製作する際、ご覧いただく方々に自分事として捉えていただく必要がありますが、この講座は、それをどうしたら訴求できるかに活かすことができました。また、「地方創生に資する交通・観光事業の再生と活性化」という講座は、ほかの地域と連携し、横のつながりを実際に作っている企業の話が主に紹介されていたので、函館以外の地域とも連携したまちづくりを進める私にとって、そのやり方のヒントや必要性について学ぶことができました。講座「クリエイティブタウンを実現する:3ポイント・アプローチ」の最終レポートでは、函館に必要な3つのポイントは何なのかを、自分の頭でしっかり考え、組み立てていくのにすごく役立ちました。
山田さんらが製作した「縄文DOHNANプロジェクト」オリジナルポスター。地方創生カレッジで学んだ事柄が随所に活かされている
絶好のタイミングを活かし、ネットワーク力を高める
──現在はプロジェクトの出発から展開への大事な時期だと思いますが、改めてどのようなことをお考えですか?
山田:プロジェクトにはタイミングが大切だと思います。それを考えると、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産への登録推進と道南地域を結びつける活動は、今が一番の旬です。この機会を精一杯活かしきることを当面の目標にしています。
民間、行政、有志を横断的につないで、持てる力を何倍にもしていくためには、今、何をするかがとても重要で、そのためにも協力者をつくり、しっかりつかまえていくことを意識しています。
一方で、プロジェクト運営者としての自分に不足していることも見えてきました。得意ではないと避けがちだった予算や財務への理解や運用が、ここから非常に重要になってきます。そういった部分を自分のものにしていくためにも、地方創生カレッジの該当する講座を改めて受講したいと考えています。
山田かおりさんからひと言アドバイス
私が受講した講座の中で、特にオススメしたい講座のひとつは「エリアマネジメント〜立ち上げから自走まで〜」です。この講座では、エリアマネジメントに関して、国内外の多岐にわたる実例や概略が説明されているだけでなく、事業推進に向けての組織づくりや地域との関係性についても学ぶことができました。現在の活動に取り組む上でも、この講座で学んだ内容は大いに役立っています。
地方創生カレッジに用意された多くの講座のなかには、必ず興味をそそられるものがあるはずです。まず、それを試してみるのが大切です。そこから可能性はどんどん開けていきます。時間的、空間的な条件も、eラーニングなどでクリアできるようになりました。加えて、有意義な講座内容とともに素晴らしいのは、実地研修(官民連携講座)を受講することによって生まれる人と人とのつながりです。どんな活動であっても、協力者ほど貴重な財産はありません。
実践的な活動を後押ししてくれる──それが、地方創生カレッジの特徴だといえます。
山田 かおりさん
(やまだ・かおり)
山田総合設計株式会社
縄文DOHNANプロジェクト 代表
[プロフィール]
函館市出身。札幌国際大学短期大学部教養学科観光文化コースを卒業したあと、民間企業に入社し、高崎市へ移住。2005年、函館市へ帰郷し、山田総合設計に入社。その際、故郷の現状に危機感を覚え、母校(函館西高校)で行われた最後のイベント「Westランド」実行委員会代表など、様々な地方創生活動に携わる。2019年、地域活性化の母体として「縄文DOHNANプロジェクト」を設立し、代表就任。
主な受講講座
- No.001/シティ・マネジメント基礎
- No.013/文化経済・文化政策論
- No.021/地域公共人材論発展─地域公共政策士を目指して─
- No.046/地方創生の戦略と新たな方向性
- No.062/地方創生に資する交通・観光事業の再生と活性化
- No.071/クリエイティブ・ディレクション基礎講座
- No.074/クリエイティブタウン・モデル
- No.078/地域プロデューサーの地域への関わり
- No.113/地域分析
- No.139/クリエイティブタウンを実現する:3ポイント・アプローチ
- No.144/事業性評価に関するケーススタディ
- No.152/RESASの使い方 全マップ解説
- No.157/SDGsを地方公共団体が推進する意義と実践
- No.160/エリアマネジメント〜立ち上げから自走まで〜