2022/12/19配信メールマガジンアーカイブ
【Vol.31】地域金融機関が人材紹介を成功させる秘訣「求人対応におけるトラブル・難題への対策(その2)」
さて、第30回に続き、地域金融機関における人材紹介業務を成功させる秘訣をお送りいたします。
前回テーマは「こんな時どうする?-求人対応におけるトラブルへの対策(その1)」でした。
今回のテーマは「こんな時どうする?-求人対応におけるトラブルへの対策(その2)」です。
(当メルマガのテーマは、主に皆様からの御意見・御質問をもとに作成しています)
https://www.chihousousei-hiroba.jp/recruitment/recruitment_NEW_inquiry.html
人材紹介業務は人の御支援に関する仕事のためリスクやトラブルもゼロではありません。
寧ろ人材紹介業務に着手したどの地域金融機関でも取組みが進み実績が上がるにつれ多かれ少なかれリスクやトラブルに見舞われた経験もあるかと存じます。
ただそんな側面があっても、4年近くの取り組みになっている金融機関もある中で、一行もレピュテーションリスクのようなトラブルに発展した事例はありません。
そんな点も意識しながら前回内容に続いて第二弾をお送りしてみたいと思います。
従来通り、他行様と情報交換をできた中で得られた事例を中心にご紹介します。
特に今回は成約後のトラブルについてお伝えさせていただきます。
(成約前のトラブル対策については前号の第30回をご参照ください)
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1.成約後のトラブルと対策について
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■1. 成約後のトラブルと対策について
〇必須項目が明示されない内定通知・労働条件通知による採用となった
内定通知や労働条件通知が明示されないまま入社に至ってトラブルとなったケースや、内定通知や労働条件通知の内容が提示されたものの必要項目が満たされていなかったまま採用通知となってトラブルとなるケースは実際に起きえます。
地域の中小企業は大企業のようにしっかりした人事機能を持たない会社も多く、内定通知や労働条件通知を入社前に行う必要があることを御存知ない場合もあるため、ここを人材紹介担当としてフォローすることも重要で必須となります。
一般的に「内定」とは、雇用契約における企業の採用意思表示と候補者の入社意思表示、双方の合意が取れた状態のことを示します。
尤もこの「内定」という状態は、法令で明確に定義されているわけではありません。
本来、労働者を採用する場合に重要となってくるのは、「条件提示」です。
「内定」を提示する時点で「条件提示」まで行われない場合は勿論ですが、具体的な待遇の条件が記載された「労働条件通知書」を明示することが必須です。
これは労働基準法第15条で定められています。職種、入社時期、勤務地、給与、労働時間などの雇用において重要な項目となるため、必ず労働者との契約締結(雇用契約)までに交付いただく必要があります。
(勿論この必要項目を内定通知書の時点で盛り込む形で労働条件通知と兼ねる場合もあります)
一般的に内定通知書や労働条件通知書に明示が必要な項目は以下のとおりです。
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(3)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
(4)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(5)賃金(退職手当及び⑧の臨時に支払われる賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
人材紹介業務の担当者の責務として、求人企業側から内定の内示があった場合は、上記項目を明記した内定・労働条件通知書が発行されるようフォローすることが重要です。
また求職者に対しても、「正式な内定通知書や労働条件通知書が発行され、きちんと受領してから現職の会社に退職交渉や退職届の提出を行うよう指導」する必要があります。
労働条件通知書を受け取らず口頭のやりとりだけで内定受諾した求職者が退職届を出し、その後に求人企業から提示された条件を容認できず内定辞退に至ったケースも実際にあります。
「内定通知書」「労働条件通知書」は候補者が意思決定する上で、また人材紹介会社が入社時までフォローしていく上での、重要かつ必須の媒体であることを認識する必要があるでしょう。
なお労働条件の書面での通知は、自行の人材サービス申込書にも求人企業の義務として、本来明記してあると思いますので申込の段階でその内容を直接提示しながら、地域中小企業である求人企業に詳細説明・フォローをすることは必須です。
更に配慮すると、こういった条件通知に明るくない求人企業に対しては、予め自行の人材紹介の部署側で内定通知書や労働条件通知書のテンプレートを用意し、作成・提示すべき内容を具体的に案内することも重要かと思います。
〇面接時の職務要件と入社後の業務内容が変わった
こちらは面接工程での初歩的なフォロー不足が原因かと思います。
求人企業が求職者に求めている業務内容について具体的に確認することはもとより、社内組織での担当者ごとの役割分担や業務状況も確認し且つ、現在他の部署や他の担当者が行っている業務に関わることや代行することがあるか等まで確認しておくことを推奨します。
人材不足の状況が続く地域中小企業において各業務ごと一人の担当者しかアサインされず、その担当者が退職や求職をしてしまった場合等をはじめ、入社後に突然担当業務変更や担当業務負荷の増加を余儀なくされるという場合もあり得るためです。
〇業務環境や業務状況にギャップがあった
これも面談・面接時に具体的に確認を入れておく形で大方カバーできると思います。
面接に同行しつつ業務の現場の案内をしていただき、業務環境の詳細(従業スペースやファシリティ・業務上使用するPCの活用状況etc)や業務効率化の状況に関する質疑応答を行ったり、更には入社後一緒に業務を行う方との会話(差支えない範囲)も必要に応じて行ったりしていただき、求職者に業務環境や業務状況を具体的に把握してもらうところまでフォローできれば、入社後も早々にギャップは生じにくいかと思います。
〇社内の関係者に対して幹部(候補)採用に関する共有が図られていない
片手型・両手型の如何に関わらず、これを一度は経験されている専担者の方も少なくないかと思います。
ただこれも求人を立てる時点で対処できることかと思います。
(次世代組織づくりや事業承継に絡んで)現在の役員や部長の後任を採用したい、という求人はよくあると思いますが、実権者のみが希望している幹部採用であり、他の幹部や業務の現場の担当者には求職者が入社確定したタイミングで知らされたということも実際にありました。
中には求職者の入社を懐疑的に受け止めてしまう現任の部長や役員が出てくることもあり、人間関係や業務引継ぎがうまくいかず折角入社した求職者が早々に流出してしまった、というケースも出てきます。
これを防ぐためにはやはり求人をたてる早い段階で、求人を依頼された実権者に対して、当求人が他の関係者の方や幹部の方に共有されているかを確認し、されていない場合は何らかの形で共有することを促す提案や必要に応じて、その関係者にも話を聞かせてほしいと依頼をすることも一計かと思います
(より現実的で効果的な求人をつくるためと称すれば受け入れられることも多いと思います)
〇入社した求職者が退職に至った場合の返金要求や責任追及
入社した求職者が早期に退職してしまった場合の返金要求や責任追及に関しては、人材紹介サービス申込書にある内容に準拠し求人企業の如何に限らず統一のルールで対応していくことが重要かと思います。
尤も返金ルールはじめ対応の例外を設けない一方で、日頃からの取引先という立場、伴走型支援を行っている金融機関としての立場という点からは、道義的な配慮をもって許容の範囲で誠心誠意フォローしていくことは場合によって必要かと思います。
ただし繰り返しになりますが基本的には根本的・最終的には「(人材サービス申込書や確認書・同意書に明記した)ルールに則って対応する」ことが肝要です。
更には、ごくまれにですが御支援した求人企業から「金融機関の紹介だから採用したのに」「金融機関の人材紹介は失敗があってはならない」等のクレームをいただくケースもあるかと思います。
そんな事態を防ぐためには、以下二つのことが肝要かと思います。
まずは求人申し込みを受ける段階で自行の人材紹介サービス申込書に記載されている、基本的な内容を一つ一つ詳細に丁寧に説明しておくこと。
そして実際の人材紹介の工程に入ってからも「リーガル面や進め方等について、地域金融機関の人材紹介も民間のルールと基本的には同じであること(例外ある場合はそれも含め説明)」を折に触れて、丁寧に説明しつつ相互理解を得ていくことかと思います。
この二つ押さえた上であれば、その後に退職の事態が起きた場合も、申込時から説明してきた内容をあらためて振り返りながら対応が図りやすいため、大事には至らず収束できることとなります。
いかがでしたでしょうか?
基本的なリスク・トラブル対策については、その事態が起きないようまず人材紹介サービス申込書に記載を盛り込むこと、そして常に前段のプロセスやさらに上流のプロセスで講じる内容を業務として織り込み、定型化しておくことかと思いますが、一方で発生した場合についても、同様に対応の仕方を定型化・標準化・可視化しておくことも重要かと思います。