地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介日本全国 地域の宝 郷土食×地方創生地域が誇る伝統野菜

  古くから各地でつくられ、現代につたわる地域独自の伝統野菜。旬の時期にしかつくれず、つくるのに手間がかかり、生産量も多くありません。
 最近は各地の食文化への見直しがすすみ、伝統野菜への注目があつまっています。伝統野菜そのものや加工品が人気を博したり、新たなレシピがうみだされたりしています。また、食育を目的に子どもたちが伝統野菜を基点に交流したり、給食に取り入れたりする地域も出てきました。
 各地の「まち・ひと・しごと」を支えてきた伝統野菜をご覧ください。

青森県

 大鰐温泉の温泉熱と温泉水を利用した、温泉の町ならではの独特の栽培法により育てられるもやしで、長さは40cmもなります。
 約400年前から受け継がれてきた津軽伝統の冬野菜で、在来種の大豆「小八豆」を用い、温泉熱で地温を高め栽培する土耕栽培でつくられます。仕上げに至るまでのすべての工程で水道水をつかわず、温泉水のみを使用し育てられます。
 土耕栽培ならではの、ほのかな土の香りと独特のシャキシャキ感が特徴。地元のラーメン店でのトッピングをはじめ、ホテルや旅館では和食、洋食を問わず様々な料理に用いられるなど、大鰐町を代表する食材として親しまれています。

山形県

 鶴岡市の山間部・一霞地区を中心に伝統的な焼畑農法で栽培される温海かぶは、山形県が指定する「やまがた伝統野菜」の一つに指定されています。400年以上も昔、中央アジア、シルクロードを経て日本に伝わったとされ、皮は色鮮やかな紫色、内部は白色で、実は歯ごたえがあり、甘みがあるのが特徴です。
 栽培は水はけの良い山の斜面の杉伐採跡地で行われます。刈った草や木が乾燥した8月に焼畑を行い、灰の余熱が残っているうちに種が蒔かれ、10月に入ると収穫が始まります。収穫された温海かぶのほとんどは、塩、砂糖、酢で甘酢漬けにされます。
 皮の色が実に染みわたって紫色になり、独特の辛味と甘酸っぱさが合わさった地域伝統の漬物は、庄内地方を代表する特産品として、各地の小売店で販売されるようになりました。

群馬県

 株分れのない一本ねぎで太くて短い形が特徴です。熱を加えると、とろけるような舌ざわり、そして独特の甘みがひろがります。
 江戸時代に少数の農家で栽培され、大名や旗本など身分の高い者たちが食していたとの言い伝えが残ることから「殿様ねぎ」の別名をもちます。
 大正時代以降になると、下仁田町馬山地区で栽培が盛んになりました。昭和に入り、皇室献上や、郷土かるた「上毛かるた」で「ねぎとこんにゃく下仁田名産」と詠まれるなど、ブランド力と地域での人気は高くなっていきました。
 現在は冬の鍋料理の具材やお歳暮用の贈答品として定番の品となりました。下仁田ねぎが旬を迎える冬に開催される「下仁田ねぎ祭り」では、農産物の直売や地元料理の販売が行われ、鶏肉と下仁田ねぎを交互にさし、全長25mにも及ぶ「巨大『ねぎま』づくり」を目当てに観光客が訪れるなど、賑わいをみせています。

新潟県

 日本一の長さを誇る信濃川の恵みを背景に新潟県ではなすの栽培が盛んです。巾着なすは長岡市の中島地区で栽培される「中島巾着なす」と南魚沼市で栽培される「魚沼巾着なす」の、2種類が存在します。
 「中島巾着なす」は直径10cmほどの大きさで、絞った巾着袋のような縦皺が入っており、全国的にも珍しい巾着型の見た目が特徴です。明治時代に他の地区で栽培されていた品種が持ち込まれ、それを中島の農家が受け継いできたと伝わります。蒸かすと、「茄子のトロ」とも表現される味わいとなり、醤油やからし醤油で食べるのが特に美味しいとされます。
 「魚沼巾着なす」は明治時代に和歌山から持ち込まれた品種と在来種との交配によって作られました。中島巾着よりやや小ぶりで、味噌漬けや、蒸かしても炒め物にも最適です。
 巾着なすは流通量が少ないため「幻のなす」と呼ばれることもありますが、地元における再認知の活動や首都圏への売り込み、観光イベントの実施など、積極的な情報発信を行っています。

長野県

 長野県埴科郡坂城町で栽培されてきた辛味大根で、県が認定する「信州の伝統野菜」の一つです。一説によれば江戸時代に薬用として 長崎から導入されたと伝わり、俳人・松尾芭蕉が「身にしみて/大根辛し/秋の風」と詠んだともいわれています。
 首より下の部分がふくらんでおり、根の先端はねずみの尻尾のように見えることが名の由来とされています。肉質は緻密でかたく、味は「あまもっくら」と称される、辛さの後からほのかに感じる甘さが特徴です。
 ねずみ大根は、漬け大根やたくあん、郷土料理「おやき」の具材などに幅広く用いられており、ねずみ大根の絞り汁に味噌、ネギ、かつおぶしなどの薬味を入れ、釜揚げうどんを浸けて食べる「おしぼりうどん」は地域を代表する郷土食となっています。
 生産振興組織として「坂城町ねずみ大根振興協議会」が組織されており、地域の小学校で生産者が種まき体験を行うなど、伝統野菜を次世代に伝える取り組みが行われています。

東京都

 江戸よりつづく野菜文化の継承と、在来種またはその栽培法に由来する野菜として定義される「江戸東京野菜」のひとつです。
 内藤とうがらしは、ふるくは徳川家康から20万坪以上の屋敷を受け取った内藤家の菜園(のちの新宿御苑)で栽培されていました。真っ赤にそまる畑は壮観で、そばが流行していた江戸で薬味として人気のものでした。
 新宿都市化のながれで一度栽培がなくなりましたが、2010年に「内藤とうがらしプロジェクト」が発足。2013年には江戸東京野菜の一つに認定されました。
 「内藤とうがらしプロジェクト」では、内藤とうがらしをもちいた地域活動として、街バルイベント、プランターによる景観づくり、学習院女子大学による栽培、加工品の開発、レシピ考案などをはじめ、地元小学校での栽培、観察、研究、調理など、さまざまな取り組みが行われています。

石川県

 加賀れんこんは独特の粘りと節が詰まっていることが特徴で、煮物、酢の物、汁物をはじめ、給食でも供される郷土料理「はす蒸し」など様々な料理で親しまれています。
 その歴史はふるく、加賀藩五代藩主前田綱紀の頃には城中で栽培されていたともいわれています。城下町金沢では藩政時代から受け継がれてきた野菜が存在しており、加賀れんこんもその一つ。季節感に富んだ地域の伝統野菜15品目は「加賀野菜」として「金沢市農産物ブランド協会」が認定し、生産振興と消費拡大を目的に、生産者の取材記事やレシピを公開したり、取扱店の紹介を行ったりするなど、地元の食関係事業者と協力し継続的な情報発信を行っています。
 2019年、映画「武士の献立」で助監督を務めた井上監督のもと、一次産業を応援する「種まく旅人」シリーズの4作目として、加賀れんこんをテーマとした映画が作成されています。

写真提供:金沢市農産物ブランド協会

京都府

 栽培の歴史はふるく、およそ1300年前に栽培されていたとの記録が残ります。京都市南区の九条辺りを中心に栽培されていたことからその名が付きました。甘くて風味がよく、やわらかさが特徴の青ねぎ(葉ねぎ)で、みそ汁の具、鍋、すき焼き、和え物など様々な料理の具として、また薬味としてもひろく活用されています。
 京都の料理店や流通関係者の京野菜への期待・関心の高まりを受け、京の伝統野菜などの産地育成と新たな消費者ニーズの開拓、京の食文化の継承・発展等を図ることを目的に、1989年「京野菜ブランド戦略」を開始。京都らしいイメージを持つ品質の優れたものを「ブランド産品」として認証。初年度は7品目を認証し、2020年現在、九条ねぎを含めて31品目が認証されています。府内外でのPRとして「京野菜マルシェ」や料理教室などのイベント、販売店や飲食店の認定制度も行われ、ブランドの認知と出荷額は拡大をつづけています。

写真提供:(公社)京のふるさと産品協会

大阪府

 勝間村(現:大阪市西成区玉出町)特産の日本かぼちゃの一種で、大阪府認定の「なにわの伝統野菜」のひとつです。小ぶりで、縦溝とこぶがあり、果肉はねっとりとして水分が多く、果皮は熟すと緑色から赤茶色になります。西洋かぼちゃと比べると、甘みはさっぱりしていて皮が柔らかく、味付けしやすいのが特徴とされます。
 江戸時代末期から栽培されていましたが、明治時代、西洋かぼちゃの伝来と普及のなかで、1930年代には栽培が途絶えてしまいました。しかし2000年、勝間南瓜の発祥地である大阪市西成区にある生根神社の神事「こつま南瓜祭」において参拝者にふるまわれたことが話題に。伝統的な食文化の見直しがすすみ、栽培が復活しました。
 以降、学校給食や地元飲食店での活用をはじめ、お菓子などの加工品の開発、家庭における調理法の提案など、地域で伝統野菜を中心としたさまざま取り組みが行われています。

広島県

 広島を代表する特産品「広島菜漬」。長野県の「野沢菜漬」、九州の「高菜漬」と並んで「日本三大菜漬」の一つとされます。原料となる広島菜は、白菜と同じアブラナ科の一種です。
 諸説ありますが、江戸時代に藩主の参勤交代に随行した者が京都の本願寺で種子を入手し、帰郷して広島菜の栽培を始めたのが起源とされています。その後、何度も品種改良がなされ、明治中頃に品種固定され現在の草姿となりました。「広島菜」は「京菜」や「平茎菜」など様々な名前で呼ばれていましたが、1933年に広島県産業奨励館(現在の「原爆ドーム」)で命名展示され、「広島菜」がひろく周知されました。
 漬菜として古くから親しまれていましたが、菜巻きむすび、古漬けのお茶漬け、カキ飯など、ご飯ものとの相性は抜群。戦後は贈答品として珍重されるようになり、栽培は広島市以外にも広がりました。
 地元農業や伝統的な食文化を守り伝えるべく「広島菜まつり」が開催され、広島菜の品評会や試食販売など、広島菜を中心とした地域交流が行われています。

写真提供:広島市農業協同組合

香川県

 一般的な千両なすの3倍もある大きな丸い形が特徴の三豊なす。水分を多く含んだ実は皮までやわらかく、様々な料理に合うほか、糖度が高いために生のままでも美味しく食べられます。
 昭和初期に朝鮮半島へ出向いた三豊市の農家が種を持ち帰ったのが始まりと言われています。開花してから収穫までに時間がかかり、傷がつきやすく収穫量も少ないため、長年ほとんどが地元で消費されてきましたが、近年その美味しさに注目があつまり、生産量が増えつつあります。
 2010年、栽培技術の向上と栽培面積の拡大、そして伝統野菜文化の継承を目的に、農家有志が「三豊ナス研究会」を発足。生産者へむけた講習会や学校給食への提供、オリジナルキャラクターの開発や販売イベントなどの活動を行った結果、都市部への出荷増加などの成果があがっています。

福岡県

 高菜に近い葉野菜で、博多で古くから栽培されてきた在来の野菜です。葉は鮮やかな緑で、大きなものだと40cm~50cmになります。煮物や汁物に使うと、「かつお出汁」のような風味が出ることがその名の由来とされます。「勝男菜」と記載されることもあり、縁起の良い野菜として博多では正月の雑煮の具として欠かせません。
 正月需要に留まり生産量は減少していましたが、伝統野菜の良さを見直そうと地域での研究が進められました。その結果、ビタミン、アミノ酸、カルシウムを多く含み、抗酸化活性を有するなど、かつお菜のもつ栄養への見直しがなされ、消費拡大とブランド化の推進、お雑煮以外の消費者への提案が進められています。

写真提供:福岡市

鹿児島県

 安納いもは、国内におけるさつま芋栽培発祥の地であるといわれている種子島で栽培されています。ねっとりとした食感と蜜のような甘さが特徴です。甘さの秘密は、他のさつま芋と比べてショ糖が多く含まれているとされており、その甘さから焼き芋やスイーツの材料として人気があります。
 種子島では300年以上も昔からさつま芋が栽培されていました。安納芋は戦後、スマトラ島から兵隊が持ち帰った芋苗を安納地区で栽培したのが起源とされています。
 種子島の通気性・排水性に優れた土壌と、冬でも温暖な気候が、さつま芋の栽培に適していたとされ、優良品種育成の研究がされた結果、1998年に「安納紅」と皮が黄褐色の「安納こがね」の二種類が「安納いも」として品種登録されました。
 2010年には「安生いもブランド推進本部」が設立され、品質管理と安定供給に関する取り組みが行われています。近年は鹿児島県種子島の特産品として全国の小売店で販売されるようになり、安納いもの加工品やスイーツを目にする機会も増えてきました。

沖縄県

 沖縄県は平均気温の高さや降水量の高さなどの気候的な特徴、夏の台風被害などの厳しい環境下ながら、ヘチマ、島にんじん、島らっきょうなど、地域の人々が伝統的な島野菜をはぐくみ続けてきました。その代表ともいえる「ゴーヤー」は、沖縄県の郷土料理である「ゴーヤーチャンプルー」、そして地球温暖化対策の「緑のカーテン」などで、全国的にその名を知られるようになりました。
 独特の苦みと、夏バテ対策の栄養的側面が特徴となるゴーヤーは、チャンプルー(炒め物)、サラダ、天ぷらなどの料理や、加工品としてはお菓子やジュースなどがつくられており、沖縄県の郷土食文化の魅力とともに、今や全国区で愛されている伝統野菜といっても過言ではありません。