住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

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氏名

阿部 勝義さん(あべ・かつよし)
所属・肩書 北海道枝幸町 まちづくり推進課・課長
プロフィール 1970年北海道枝幸町生まれ。
1989年旧枝幸町役場に入職。水産商工課、農林課、産業振興課などで民間との共同事業を行うなど現場中心の業務を経て、2015年より企画政策課でグループ主幹としてまちづくり・地方創生関連の業務に従事。町民を交えたワークショップなども開催する。2019年よりまちづくり推進課・課長。

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地元キーマンとともに進めるまちづくり事業

2020.7.17公開 
 

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枝幸高校では、タブレット端末を活用した教育が進められている

 

地方創生に欠かせない人材とは

──最初に、枝幸町の課題についてお聞かせください。

阿部:オホーツク海に面した枝幸町は、水産と農業の町です。毛ガニやホタテが有名で酪農も盛んですが、人口減少に歯止めをかける事業を行うには、越えなければならない壁もあります。私は2015年に企画政策課に異動したのですが、当時は地方創生というと職員が役場のなかから何らかの物を作るのが主流で、町民目線、現場主義の施策は不十分でした。さらに、事業を推進する30代の中堅層の人材が薄いという役場の構造的な問題もありました。

したがって、企画政策課で総合戦略を立てる際に最初に目指したのが、町民とコミュニケーションを取り、町民の目線で事業を進めることができる人材の育成でした。私自身も町民の中に入って、30回以上ワークショップを行いました。


──そのような意識から、人材育成のために地方創生カレッジを活用されたわけですね。

阿部_IMG_9373.JPG阿部さんは職員向け研修会で講師を務めた

阿部:役場の業務は多岐にわたっていますが、全体を見通した構想を展望する力はまだまだ足りません。そのような状況のなかで人材育成について考えていた時に、内閣府の参事官から教えていただいたのが地方創生カレッジです。活用してほしいというお話を聞いて、すぐに登録させていただきました。わかりやすい内容で、長さも10分~20分。昼休みに受講可能でした。

そして役場でも社会人採用枠が増えてきました。民間で働いた人のノウハウを取り入れ、役場目線の頭を柔軟に切り替えるには地方創生カレッジが一番です。まず私が「事業構想の基本講座」などを受講して事業の進め方の考え方を学習し、次は私が講師になって、30代から40代の職員に対して研修を行いました。

阿部_IMG_9373.JPG 阿部さんは職員向け研修会で講師を務めた

 

事業を成功させるには明確なビジョンをしっかり伝える

──事業構想を作ることにプラスして、重要なポイントとなるものは?

阿部:事業を推進するには町民に対する説明責任が必要になります。地元のキーマンに対して、何をやりたいのか軸になるものを伝えるのですが、それには町民との接し方や人脈に加えて、クリエイティブ・ディレクションの能力が求められます。

地方創生カレッジには多くの講座が用意されていますが、「事業構想の基本講座」に加えて、枝幸町でネックになっていたコミュニケーション、フィールドリサーチなどの講座も受講しました。これらの講座を受講して、特に心に残っているのは「何を目指すか、明確なビジョンを示すこと」です。

──やりたいことをしっかり伝えないと、人はついてこないということですね。

阿部:そのように思います。人に大切な事柄を伝える力をつけるために、「クリエイティブ・ディレクション基礎講座」を受講しました。1枚のペーパーにコンセプトを簡潔かつ明瞭にまとめるというやり方を学び、資料の作り方は格段に変わりました。

そして、私一人で受講しても意味がないので、30歳以下の若手職員70名(消防職員を含む)を対象に自己啓発研修という形で2018年10月から11月まで1回1時間30分、計5回の研修を行いました。研修資料には地方創生カレッジからダウンロードしたコンテンツを、出所を明記した上で活用、枝幸町特有の事情も入れ込みながら作成したのですが、資料作成は私自身の勉強にもなりました。

研修というものは、誰かが偉そうにしゃべるだけでは面白くありません。私は形のあるものを創り出すことを目標に、参加者を4グループに分けて「枝幸町の魅力を発信する」ことをテーマにポスターを作る実践を行いました。あるグループが作成したポスターは、「枝幸町職員募集」を目的として作られ、今でも役場や地元の高校、町内に貼ってあります。この研修を通じて、若手職員も「楽しかった」と言ってくれていますし、相手に簡潔に思いを伝える重要性を認識し、日頃の業務にあたっている職員も増えました。

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若手職員が研修時に作成したポスター。職員募集ポスターとして現在も使われている

 

町のキーマンからの声を受け、次々と始まる事業

──すでに成果が出ている事業もあるそうですね。

阿部:「地域子育て支援事業」は、町の人たちと話をするなかでキーマンを見つけて実現した事業です。ワークショップを行うなかでキーマンとなる人材を掘り起こし、そうした方々の声を受けて子育てサポート拠点施設「にじの森」を整備しました。

もともとは個人病院だった建物をリノベーションした施設で、奥さんたちが主体となって運営するカフェや、小中高校生が勉強できるスペース、奥には高齢者のための健康マージャンなどもあります。子育て世代と高齢者が交われるようなイベントも仕掛けています。核になった3名の方が法人登録して、主婦の方を14人ほど雇って運営していますが、これは枝幸町としては画期的な事業です。こうした町民と共同で行う事業を進めるには、日頃から総合的に見る目を養い、町の将来を町民と語ることができる人材が必要なのです。

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    「にじの森」にあるカフェ。施設内にはほかに、交流スペース、サークル活動室・研修室、学習室などがある
    出典:にじの森カフェ
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    「にじの森」の1階には、靴を脱いで遊べるキッズスペースがある
    出典:にじの森 館内ご紹介

──高校と連携した公営塾も開設されたそうですね。

阿部:枝幸町には枝幸高校がありますが、都会の高校生と違い、学校と家の往復で手の届く範囲でしか世界を知ることができません。そして身近なはずのホタテ養殖についても、枝幸町では海を4つに区切って稚貝を放流する地撒き方式で育てているのですが、それさえ知らない高校生も多いというのが実情です。

高校卒業後、札幌や東京に出て行った際、枝幸町のホタテを「おいしい」というだけではなく、育て方などを含めた魅力を語ることができれば、商品価値を上げることができます。

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タブレット端末を見ながら談笑する枝幸高校の生徒

そこでまず、地域の大人が先生となり、枝幸町の産業を高校生に深く学んでもらう「ふるさと教育」を実施していきます。この取り組みを通じてシビックプライドを形成することで、枝幸高校で学び、卒業後はそれぞれの進路で自由に頑張る若者たちに、最終的には枝幸町に帰ってきてもらうわけです。都会に出るのは悪いことではありません。そして枝幸町の歴史・文化や産業を深く知っていれば、どこからでも枝幸関連の事業を行えます。

若者の視野を広げ、将来の選択肢を増やすために、枝幸町では2020年7月に高校や「ふるさと教育」と連携した公営塾を開設しました。塾長さんには、通常科目の勉強を教えていただくだけでなく、ご自分の経験を高校生に伝え、学びのモチベーションを上げていただきたいと考えており、実際に教育に携わるスタッフのマネジメントや、地域の人たちと話をしながらうまく溶け込んでいくコミュニケーションスキルがある方を選びました。公営塾では生徒全体の学力の底上げだけでなく上位層の学力向上にも対応することを目指し、生徒一人ひとりのレベルに合わせた学習環境を整備。将来は新入生を全国から募集することも視野に入れています。枝幸でしかできない「教育のカタチ」を、地域の人々と一緒に作っていきたいです。

高校_DSC_0615.JPG 公営塾の開設と並行して、枝幸高校ではICTを活用したアクティブラーニング環境の整備も進められ、生徒たちにタブレット端末が配布された。通常の授業だけでなく、「ふるさと教育」や公営塾との連携、学習支援にも活用されている


──外国人人材の登用もされているとお聞きしました。

【トリミング】多文化共生_IMG_0650.jpg 多文化共生アドバイザーとして、多文化共生サポートデスクの窓口を務めるベトナム出身のレ・ホアン・キム・ガンさん。在留外国人が枝幸町で安心して暮らせるように、日常的な相談に対応している

阿部:人口減少に歯止めをかけるには、産業振興によって経済を回していくのが一番です。枝幸町では外国人の方も増えていて、人口約7900人のうち、140人が中国やベトナム、タイなどの方です。私たちは外国の方を単なる労働者としてではなく、生活者、学習者と位置づけています。

そんな状況に対応し、在留外国人の方に安心して町に定着していただくために、私の課では、ホテルに勤めていらっしゃったベトナムの方を職員として採用し、2020年4月に多文化共生サポートデスクを開設しました。今後は全国にネットワークを広げて、枝幸町で働きたい外国の方に声をかけるなどの人材確保も行っていきます。

将来、地方創生カレッジに、外国人人材の活用などに特化した講座が開講したら、ぜひ活用していきたいと思います。

【トリミング】多文化共生_IMG_0650.jpg多文化共生アドバイザーとして、多文化共生サポートデスクの窓口を務めるベトナム出身のレ・ホアン・キム・ガンさん。在留外国人が枝幸町で安心して暮らせるように、日常的な相談に対応している


阿部勝義さんからひと言アドバイス

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教育は従来、教育委員会が主体となって進められてきましたが、「地域教育、学校と地域との連携」講座を受講して以来、町長のイニシアティブのもと、進めることが重要だと痛感しました。講座の中の「若い世代に教育をしない自治体はすたれていく」という言葉は印象的でした。変革を考える自治体の方にはぜひお勧めしたいと思います。枝幸町ではこの講座を参考にしながら、町長直属の部局でスピード感をもって地域と高校の連携教育を進めています。
行政は民間と違って事業の見直しが苦手です。これからは既成概念を捨て、無駄なものをそぎ落とし、民間企業のノウハウを取り入れることも重要になってきますので、自治体に勤める方々には、今の時代に合わせた長期構想の展望力を養える「事業構想の基本講座」をお勧めしたいですね。そして自分の区市町村に合うように内容を置き換え、さらに他人に教えるためのコンテンツを作成することで、あいまいだった知識を整理するとともに、自分の町の課題を広く深く見直すこともできます。

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阿部 勝義さん
(あべ・かつよし)

北海道枝幸町 まちづくり推進課・課長

[プロフィール]
1970年北海道枝幸町生まれ。
1989年旧枝幸町役場に入職。水産商工課、農林課、産業振興課などで民間との共同事業を行うなど現場中心の業務を経て、2015年より企画政策課でグループ主幹としてまちづくり・地方創生関連の業務に従事。町民を交えたワークショップなども開催する。2019年よりまちづくり推進課・課長。