イベント・調査報告

地方創生人材シンポジウムin北九州

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地方創生人材シンポジウムin北九州
~官民連携による地方創生の深化に向けてーその課題と展望~


レポート

開催日時 

2017年1月22日(日)

13:30 ~ 17:00(開場13:00)

会場 ステーションホテル小倉5F飛翔 福岡県北九州市小倉北区浅野1-1-1
主催 (公財)日本生産性本部
後援

内閣府地方創生推進室

福岡県

北九州市

(一社)九州経済連合会

福岡地域戦略推進協議会

北九州商工会議所

(一財)地域活性化センター

(公社)日本観光振興協会

(公財)九州生産性本部

参加者 332名


※登壇者の所属、役職はシンポジウム実施時点のものです。


100講座開講を予定する「地方創生カレッジ」、地方創生人材の育成に役立てたい
主催者挨拶
松川 昌義 ((公財)日本生産性本部 理事長)
松川氏.jpg 松川 昌義
((公財)日本生産性本部 理事長)

 「地方創生人材シンポジウム」はこれまで東京で開催しており、東京以外では今回の北九州市が初めての開催となります。北九州市は、環境やエネルギー、コンパクトシティなどの新しいプロジェクトを全国に先駆けて立ち上げ、果敢に挑戦する活動を進めています。設置された水素ステーションやリノベーションによる商店街の活性化などを私も拝見し、素晴らしい取り組みだと感激しました。


 日本生産性本部では、サービス産業33業種を対象とした「日本版顧客満足度指数(JCSI)」を調査しています。その中に、国内航空と新幹線が分類される「国内長距離交通」という業種があり、北九州を本拠地とする航空会社スターフライヤーはこの部門で8年連続ナンバーワンに輝いています。連続で1位を取り続けることは大変なことで、企業努力だけでなく、市や地域の支援と協力がなければこうはいきません。


 また、2016年度調査の「顧客満足」では、1位のスターフライヤーに続き2位が九州新幹線、3位がソラシドエアと、上位3位を九州の企業が占めました。九州のおもてなしの姿勢が、こうした結果に反映されていると思います。来年以降も、この状況が続くことを期待します。


 こうした成果を出すためには、企業や自治体をはじめ地域の様々な組織による共創が重要になるかと思います。官民が連携して成長チャンスを創出していくことは、地方創生にむけ、有効な取り組みになりましょう。
 日本生産性本部は、2016年度から国と連携して「地方創生カレッジ」を創設し、地方創生の担い手づくりに取り組んでいます。地方創生カレッジは、官民の連携づくりをはじめ地方創生に必要な知識やスキルを多くの方々に学んでもらうため、インターネットを使ったeラーニングを活用してスタートしました。現在は約40講座を公開しており、新年度までには100講座の開講を目指しています。全国の皆さんに受講いただき、地方創生を担う人材育成に役立ていただけることを願います。


主賓挨拶
山本 幸三 氏(内閣府特命担当大臣(地方創生))
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山本 幸三 氏
(内閣府特命担当大臣(地方創生))

 世界情勢を鑑みると、不確実な時代の始まりを予感させる出来事が続いています。その中で日本は、経済を完全に立て直してアベノミクスを成功させることが重要で、その仕上げとなるのが地方創生だと考えます。アベノミクスの恩恵を地方の隅々にまで行き渡らせることが、私の責務となるでしょう。


 私は2016年8月の大臣就任以来、地方創生を「地方の平均所得を上げること」「稼ぐ地方になること」と定義して取り組んできました。魅力的なプロジェクトであっても、それで稼げなければ持続できません。稼ぐ工夫をするために最も大事なことは「自助の精神」だと、私は地方の行政トップなどに訴えています。


 明治維新後、日本人は「お上の言うことを聞いていればいい」という時代の終焉に戸惑っていました。そのとき、昌平坂学問所出身の中村正直が、イギリス留学時に巡り合ったサミュエル・スマイルズ著『Self-Help(自助論)』を翻訳・出版しました。当時は「西国立志編」という題名でしたが、100万部も売れるというベストセラーになりました。


 自助論では「他人に頼ってはいけない」「自分自身の奮闘努力でしか道は切り開けない」といったことを、さまざまな事例で説明しています。私は、この自助の精神こそが明治維新を成功させ、今日の日本を築く礎になったと思っています。地方創生とは、この自助の精神を取り戻す精神運動だとも言えます。


 昨年、映画『海賊とよばれた男』を観ました。私が一番感動したのは、作品のモデルである出光興産創業者の出光佐三氏にあたる主人公が、終戦からわずか2日後、路頭に迷う社員を集めて激を飛ばしたシーンです。私は地元・北九州に帰ってくると、「北九州も人口100万人を切って96万人になった。なんとか賑わいを取り戻してくれ」という話を聞きます。しかし、「愚痴は止めて、自分たちで何ができるかを考えよう。それが地方創生だ」と思っています。


 私は現在、週末ごとに全国を飛び回っており、これまでに112か所を訪ねました。そのほとんどが北九州よりも小さく、条件もはるかに厳しいところばかりですが、どこも頑張っています。


 例えば、島根県の隠岐諸島に人口2400人の海士町があります。海士町は、町長が「国からの支援がないなら、自分たちでやるしかない」と考え、特殊な冷凍システムの導入を職員と検討しました。しかし、システムの導入には資金が必要です。そこで町長や職員、議員の給与をカットすることで導入資金を用意しました。この取り組みを見て国も補助を決め、ついにシステムの導入に至ったわけです。
 この冷凍システムを導入後、東京の飲食店や居酒屋への販路なども開拓したことで、漁民の年収は上がったそうです。


 海士町は教育改革にも取り組みました。もともと海士町のある中ノ島では高校が1つしかなく、中学を卒業すると若者が島を離れてしまうのが従来の姿でした。しかし「それでは困る。せめて、高校まではいてほしい」ということで、地域の公営塾を設立し、高校と提携しながら子供たちの学力レベル向上を支援しました。


 また、子供たちには自分たちのまちの問題点を考えさせる実践勉強をさせました。そして、学んだ内容を一橋大学で学生に発表する機会を作りました。子供たちの発表内容に興味を持った一橋大学の学生が海士町まで来てさまざまな取り組みに協力したり、卒業生が海士町へ移住してナマコの養殖を始めたケースもあったそうです。こうした努力の結果、海士町ではUターンやIターンが増加し、人口減少がほぼ止まったようです。


 海士町に比べれば、北九州は条件が整いすぎているくらいでしょう。高速道路や新幹線、空港、港湾をしっかり活用していけば、地方創生はこの北九州でも必ずできると思います。国としては、自助の精神を発揮し、稼ぐことに対して真剣に取り組む地域に、情報や人材、財政で全面的な支援をしたいと考えます。その中で、ポイントとなるのは「人材」です。地域の問題を分析して何らかの方策を探し出し、そこに周囲の人たちも巻き込んでいく。そういった人材の育成をしっかりやっていく必要があるでしょう。


 先日、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」を活用して自分たちの地域の課題を見つけ、その解決策を政策に提言しようというイベントの最終審査会と表彰式が、東京大学で実施されました。全国で699組の応募があり、最終審査に残った10組がプレゼンテーションを実施しました。私も出席して地方創生担当大臣賞などを授与しましたが、学生の取り組みは本当に素晴らしく大変感動しました。


 このように、地方創生は「それを担う人材育成が極めて重要だ」ということをご理解ください。地方創生カレッジでは、eラーニングだけでない対面型の講座をこの北九州で計画しています。これらを活用いただき、多くの人が地方創生をリードする人材として育つことを期待します。

地方創生カレッジ、RESAS、交付金を地方創生の「3本の矢」に
来賓挨拶
北橋 健治 氏(北九州市長)
北橋氏.jpg 北橋 健治 氏
(北九州市長)

 北九州市における地方創生のキックオフは、2015年10月に「北九州市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定したことに始まります。その際には、「国、県、市が一体となって取り組む」「産学官が連携し、市民一体となってオール北九州で取り組む」「数値目標をできる限り設定し、着実にフォローしながら前へ進む」という思いがありました。


 2016年は、地方創生に弾みのつく明るい出来事がありました。まず、国家戦略特区に選ばれたほか、「G7北九州エネルギー大臣会合」や「世界獣医師会-世界医師会“One Health”に関する国際会議」といった国際会議が開催され、いずれも成功しました。さらに、200有余年の歴史がある戸畑祇園大山笠がユネスコ無形文化遺産に選ばれたことで、官営八幡製鐵所の関連施設と合わせて、2つの世界的な文化遺産を有する九州初の都市となりました。特にうれしかったのは、「50歳から住みたい地方ランキング」で北九州市が第1位に選ばれたことです。


 市政にとっての最大目標は地方創生を加速すること。それにはまず、強みを生かした産業振興と雇用の拡大が必要です。我々は国家戦略特区を生かし、ワインや民泊、ドローン、介護支援ロボットなどのさまざまな取り組みを進めていきたいと考えています。また、北九州市の強みは環境とエネルギーの分野です。現在は、日本初となる洋上風力発電施設の設置準備を進めています。環境の技術協力をアジアの各都市に30年以上続けている実績もあるので、そこから環境ビジネスにつなげていく努力も必要です。


 次に、新しい人の流れをつくることも重要です。北九州市は人口減少が続いているため、社会動態の改善が不可欠です。そこでまず、学生やその両親、学校の先生に地元企業の未来像や可能性を認識してもらうイベントとして「北九州ゆめみらいワーク」を開催しています。さらに、山本幸三大臣にもご出席いただいた日本初の「ウーマンワークカフェ北九州」をスタート。働く女性に対して国、県、市がワンストップに対応することで、キャリアアップだけでなく創業支援にも力を入れていきたいと考えます。また、市内に就職した社会人の奨学金返済を支援するという制度の実施も検討しています。


 そのほか、早稲田大学は2018年度入学者からの「新思考入学試験(北九州地域連携型推薦入試)」(仮称)を設立。入学者の選抜は北九州地区を中心とした推薦入試(指定校)とし、面接試験は基幹理工学部と情報生産システム研究科(IPS)が協力して北九州キャンパスで実施されます。これに加えて、早稲田大学IPSと北九州の地元企業40社が「早稲田大学IPS・北九州コンソーシアム」を設立。産学官が連携し、教育研究活動を地元で推進していきます。地方創生インターンシップの充実や「生涯活躍のまち」構想の促進などの取り組みを、いかに全国に発信して人の流れをつくるのか。さまざまなメディアを活用した戦略的な広報を根付かせることが、今年の大きなテーマとなります。


 さらに、にぎわいをつくるためには、外国人旅行客(インバウンド)を受け入れる新たな「開国」が必要でしょう。北九州はよく「ものづくりのまち」と言われますが、このインバウンドを積極的に取り込むために、響灘の北九州港で大型クルーズ船の受け入れを決めたほか、関係者の努力によって北九州空港に外国からの便が戻ってきました。東九州自動車道も宮崎市まで直結したので、北九州を物流における地方の重要拠点とした戦略にも挑戦したいと思います。


 また、藤や紅葉で有名な「河内藤園」は、SNSによって世界的に有名になりました。観光については、小倉城周辺の魅力アップをはじめとしてさまざまな取り組みがありますが、「いかにうまく伝えるか」がポイントでしょう。文化においても、地元ゆかりの俳優・高倉健氏の追悼特別展「Retrospective KEN TAKAKURA」が、東京に続いて北九州、北海道で開催されます。スポーツでは、「ミクニワールドスタジアム北九州」が、2017年3月12日にいよいよスタート。初戦は日本ラグビーのトップリーグを招いた「JAPAN RUGBY DREAM MATCH 2017」を開催します。このようなイベントも「人のにぎわいをつくりだす」という意味では、大変有意義といえるでしょう。


 政府からは、「地方創生版・3本の矢」として情報・人材・財政の支援が行われる予定です。北九州市としては、交付金はもとより企業版のふるさと納税なども活用して、地方創生を加速していきます。また、「交付金」「地域経済分析システム『RESAS(リーサス)』」「地方創生カレッジ」という3本の矢をしっかり束ねていくことも、自治体の目標です。官と民が力を合わせ、地方創生の加速に取り組んでいく所存です。

地方創生は「まちごとの競争」、ものづくりの技術や財産を生かして独自の発展を
来賓挨拶
利島 康司 氏(北九州商工会議所 会頭)
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利島 康司 氏
(北九州商工会議所 会頭)

 安川電機で社長や会長を勤めてきた経験も踏まえて、地方創生における人材育成について話したいと思います。地方創生やそのための人材育成は、並大抵の取り組みでは実現しません。まちのGDPの増加や人口減少の改善など、解決すべき問題はいくつもあります。


 1915年、創業者の安川敬一郎によってこの地に設立された安川電機は、「事業の遂行を通じて広く社会の発展、人類の福祉に貢献する」という経営理念を100年間守り続けてきました。その結果、「モーターの安川」から「オートメーションの安川」を経て「メカトロニクスの安川」へと変わり、時代の主力となる事業を支え続けたことで売上は数倍になりました。これにより、新たな事業を開拓し、多くの人材も獲得できたわけです。


 ここまで成功できたのは、もともとこの地方の人件費が比較的安く、いい人材もいたからでしょう。だからこそ、企業が集まりました。しかし現在、北九州市の人口は減少しています。これを解決するには、これまでのものづくりの技術や財産を生かして独自のものをつくりあげ、それを基にこのまちで稼ぐしかありません。そうすれば、企業がまたこのまちに集まってきますし、人口も増えるはずです。人口が増加するまでは、産業観光で流動する人口を増やすのがひとつの手でしょう。さらに、さまざまなイベントで人を呼び込む方法もあります。


 また、人材育成も大切です。これまでにない努力と知恵で産官学が協力し、優れた学校をつくり、そこでしか学べないような学問を教えれば、きっと人が集まるでしょう。そうなれば、このまちは間違いなく蘇るはずです。


 地方創生はまちごとの競争ですから、九州一円が頑張ると思います。その中で、北九州が少しでも抜きに出て頑張ることができれば、これからの先行きは明るいですし、すでにその兆しが感じられます。皆さんには、ぜひともこれまでにない地方創生自治を身につけていただき、商工会議所が進めるまちのにぎわいづくりにご協力ください。

地方創生に果たす官民連携の意義と役割
記念講演
麻生 泰 氏(福岡地域戦略推進協議会 会長/(一社)九州経済連合会 会長)
麻生氏.jpg 麻生 泰 氏
(福岡地域戦略推進協議会 会長
  (一社)九州経済連合会 会長)

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 国は地方の衰退に強い危機感を抱いており、地方創生を重点政策と位置づけています。その国が「地方創生をしっかりやっているところには支援します」とメッセージを発しているわけですから、地方にとっては大きなチャンスとなります。また、官民連携も必要となるので、我々ビジネスマンにとっても大きなチャンスですし、総理や大臣が改革を求めているわけですから、官にとっても改革のチャンスといえるでしょう。官民ともに行動が求められる時代が来ていることを自覚し、現役世代が使命感を持ってしっかりやっていくことが強く求められます。


 まず、現実を確認していきましょう。


 一つ目は日本のGDPの推移です。日本は500兆円のままで25年間横ばいです。一方で、中国は5年前に日本を抜き、現在は日本の2.5倍にまで成長しています。日本は危機感なきジリ貧状態が続いているわけですが、欧州のビジネスマンと話すと「日本はいいね。煮詰まったヨーロッパではなく、伸び行くアジアの中にいるから」と言われます。アジアに近いというチャンスを日本は、とくに地理的に近い九州はどう活かせるのか。それが重要になります。


 次に、日本の名目GDPが世界の中に占める割合です。1990年に日本は世界のGDPの14%を占めていたのですが、現在は6%以下になってしまいました。世界経済の規模は3.6倍に拡大しているので、日本は全く伸びていないことがわかります。居心地のいい日本の中で動けない理由ばかりを言ってきた現役世代の我々の責任でしょう。次世代に役立つ政策を立案し、それをしっかり実行、実現していくことが大事だと思います。


 九州の人口についてもいくつか確認しておきます。


 九州の人口は、2015年から2030年の15年間で150万人減少すると予測されていますが、これは長崎県や福岡市の全人口に相当します。景気予測と違い、人口予測は大幅に外れることはまずあり得ません。深刻な状況にあることを、ぜひ認識してもらいたいと思います。その中で、各地域や企業の特徴をどう伸ばしていくのか。何も動かなければ、いま30~40代の親御さんは、将来子供に「2015~2017年ごろは、安倍政権で安定した時代だったはず。総理自らが地方創生を掲げ、しかも地方創生大臣が北九州市から出ていたのに、あの時父さんたちは何もしなかったのか?」と言われることになります。


 国が貧して補助金も減っています。しかし、ぼやいても仕方がありません。現在、九州経済連合会の会長という立場にあり、さまざまな組織のトップとお会いしますが、そのような中でどうやっていくかが、今のリーダーの大事な役割です。


 九州の人口は総人口が減少する一方で、2020年までは高齢人口が増加し続けます。また、高齢人口は2025年以降減少するものの、出生率が低いために相対的な高齢化率は上がり続けると予想されています。これらの課題に対しても、早期に対応する必要があるでしょう。


 トヨタ自動車九州は宮田に約8,000人の社員がいるのですが、この8年間に社員の家庭に約4,000人のお子さんが生まれたそうです。1年間に平均500人生まれている計算になります。その秘密を二橋会長に伺ったところ、景気が悪く人材雇用がまだ楽だった5~6年前に、この先の景気上昇を見越して臨時雇いの社員を正社員として採用したとのことです。当然、企業としてはコストアップだったでしょうが、これによって社員が家を建て始め、結婚して宮田に定着し始めたそうです。夫婦共働きの家庭では近くに住む祖父母が大喜びでサポートに来てくれるほか、託児所などのさまざまなバックアップも整備されたのだと思います。これらを通じて明るい職場づくりが進み、企業環境もさらに良くなることが大事だと、二橋会長はお話になっていました。「さすがトヨタだ」と感心しました。


 一方で、外国人のインバウンド数は高い伸び率になっています。そのグラフは、日本のバブル期を彷彿させるほど右肩上がりでした。先日も上海から多くの訪日観光客が来ましたが、彼らは「今まで東京に行っていたけれど、福岡の方が近くて便利。東京にあるものが、全部ここで安く買える」と言っていました。こうしたリピーターによって、まだまだ伸びることでしょう。


 2016年は、熊本地震の影響で訪日客が一時減少しました。しかし、現在は回復しており、2017年は360万人まで伸びるでしょう。九州にはいろいろな奥座敷があります。福岡と太宰府だけまわって帰るのではなく、訪日観光客にもう一泊してもらって北九州の博物館なども見てもらえば、一人当たり5万円程度の消費増加が見込めます。当然、そのためには惹きつけるものが必要ですが、観光による増収は狙い目だと思います。もちろん、その対象が日本人観光客でもいいでしょう。


 次に九州の地域産業の現状を見てみます。


 トレンドとしてITやサービス産業の雇用が増加傾向にあり、インターネットのノウハウを使った無形資産へのシフトが大きな流れの1つにあります。観光でもITが絡んできており、例えばスマートフォンの電波でリピーターを判別できる時代になっていくでしょう。これらによってホスピタリティや満足感を高めることに、観光消費を増加させるヒントが隠れているように思えます。


 こうしたことが進むと、オフィスが東京にある必要性がなくなるかもしれません。先日お邪魔したITベンチャー企業は、サーフィン好きの社長が宮崎でスタートさせました。AI(人工知能)の技術で成功しているソフトウエア会社なのですが、朝の打ち合わせで必ず成功した話をさせるようにしているそうです。また、現在の社員数は100人ほどですが、将来的にはこの地で1000人を目指しているとのこと。非常に明るく、活気がある会社で、私は「きっと1000人を実現させるだろう」と感じました。産業のトレンドを見ていると、通勤に1時間前後かかる東京よりも、魅力的な地域の方が可能性を秘めていると思います。


 ここまで見てきましたように、地方創生の推進には「内外からの需要の取り込み」と「地域独自のサービス提供」がポイントになります。そのためには、官民がまちづくりのベクトルを合わせて連携し、まちの魅力をつくっていくことが重要です。これと同時に、サービスを広域で連携することも不可欠で、例えば福岡市が溢れるほどの需要を産み出せば、それを周囲でシェアすることも可能です。地域経済が教育機関や市民団体、金融機関などと連携していくという戦略的なまちづくりが必要だと思います。


 ちなみに、私のいる飯塚市は10年前と比べて人口はあまり減っていません。10年後も人口を減らさない努力をしているわけですが、人を引きつける魅力となっているのが医療と教育です。10年前の飯塚病院のドクター数は47人でしたが、現在は300人に増え、ドクターを選ぶことも可能です。また教育は、もとが平均より低かったとはいえ、その伸びは県内一です。これにより、医療を重視して飯塚に残る人や、子供のために移ってくる家庭も出てきています。雇用の創出ができればさらに伸びるでしょう。旧産炭地の模範となるようなまちをみんなでつくっていきたいと思います。北九州市や福岡市のような大都市でなくても、魅力があれば人は集まります。今の時代は、地方にアドバンテージがあるのですから、リーダーがしっかりビジョンを示していただきたいと思います。


 九州経済連合会は、「Let's move Japan forward from 九州」をミッションとしてかかげております。私は会長の使命として、この「九州から日本を動かす」というミッションに基づいて「九州からモデルをつくっていきたい」と考えています。例えば、訪日外国人観光客を2500万人とした場合、一人当たりの消費額が5万円増えれば収入は1兆2500億円増加します。そのためには、英語アナウンスの対応やWi-Fiの設置、BBCやCNNチャンネルの導入など、外国人の居心地が良くなるようなサービスを真剣に考えていく必要があるでしょう。英語だけでなく、中国語や韓国語などへの対応も同様です。コミュニケーションスキルを真剣に上げてもらい、よりビジター・フレンドリーになっていくことが大切です。


 九州では、戦略的な発展のために9県の知事と経済団体が集まって「九州地域戦略会議」を組織し、定期的に会議を開催しています。こうした取り組みは全国で九州だけです。我々は行政側に、「数値目標を示し、期限を区切ってKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を入れるなど、民間のマネジメントのやり方を導入してもらいたい」とお願いしています。


 私は、福岡を戦略的に発展させる「FDC(福岡地域戦略推進協議会)」の会長も務めています。福岡地域ではMICEを進めたいと考えていますが、国際会議の開催にあたっては、ホテルのレベルやサービスがシンガポールや香港にはかなわないと感じています。しかし、九州には「奥座敷」があります。シンガポールや香港はほかに行くところがあまりないですが、九州には温泉をはじめとしたさまざまなものがあり、奥様向けのレディースプログラムの人気が高まっています。そういったアドバンテージがあるわけです。現在は、MICE*を軸に工夫や仕掛けを用意することで、実績も出ています。2016年に日本で開催された国際会議は全体で160件増加しましたが、そのうち83件が福岡で開催されました。国際会議場としての福岡の認知が上がってきており、この流れを取り込んでいきたいと思います。


*MICE:Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention またはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字をとった造語で、ビジネストラベルの一つの形態。参加者が多いだけでなく、一般の観光旅行に比べ消費額が大きい。出典:JTB総合研究所・用語集


 FDCでは、2つの動きがあります。1つは、この地域で連携したアジアへの貢献として、国連人間居住計画(国連ハビタット)を通じて我々の経験を海外に出していく取り組みを進めています。もう1つは、空港で荷物を預けてそのまま動けるというサービスを準備しています。これは、例えば福岡空港でチェックインした際、荷物はホテルへ届けられ、旅行者はそのまま太宰府などに行けるというものです。


 最後に申し上げたいのは、リーダーが持つビジョンの大切さです。過去の延長でなく、3年後や5年後といった将来像から現在を照らしてビジョンを作っていくことが重要です。例えば、医療の未来や老人の推移などを踏まえ、自分の住む地域ではどのような魅力を持つ必要があるのか、それを考えなければなりません。「やはり医療が不可欠だ」となれば「では、医師を惹きつける魅力は何か?」と考え、「それなら研修教育だ」と進めてビジョンを作っていきます。ビジョンのないところに、チャンスはないのです。


 ご存知かと思いますが、日本は「NATO」と言われています。これは「北大西洋条約機構」ではなく、「Not Action Talk Only(会議ばかりで決断しない)」ということです。今後、ジリ貧になるところはどんどん落ちていくだけに、動くかどうかで大きな差がつきます。子供世代から「あのとき何をやっていたんだ」と責められないように、これから成長する道を選びたいものです。九州はアジアに近く、インバウンドも多い。まさに太陽が燦々と輝いていると言ってよいでしょう。


 「Let's move Japan forward from 九州」。みんなと一緒にこのチャンスを活かして、九州から日本を動かしましょう。

パネルディスカッション
「官民連携による地域活性化について」

【発言順】
モデレーター:渡辺 公徳氏(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 参事官)
パネリスト:梅本 和秀氏(北九州市副市長)、羽田野 隆士氏(北九州商工会議所 専務理事)、石丸 修平氏(福岡地域戦略推進協議会 事務局長)、大曲 昭恵氏(福岡県副知事)、見並 陽一氏((公社)日本観光振興協会・前理事長/(株)びゅートラベルサービス・顧問)、原 忠之氏(セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリテイ経営学部 准教授)、岩崎 正敏氏((一財)地域活性化センター 常務理事)

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渡辺 公徳 氏
(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部
事務局 参事官)
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「地方創生版・3本の矢」、
その一つである「人材支援の矢」として地方創生カレッジ設立


渡辺 公徳 氏
(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 参事官)


 私からは、地方創生と今回のテーマである人材育成の取り組みについて説明します。まず、今なぜ「地方創生」が必要なのか。その理由の1つは、人口減少があります。将来の見通しがはっきりしている以上、危機感を持って取り組まなければいけません。もう1つは、従来の方法では対応できなくなっていることが挙げられます。これまでは、必要に応じて補助金を取りにいき、補助金があるうちは事業を続けるものの、なくなると止めてしまうことが多かった。しかし、今後は将来的に自立する取り組みを生み出していかなければなりません。


 こうした基本的な認識に基づき、国では「まち・ひと・しごとの創生に向けた政策5原則」をまとめました。この5原則の中で、一番重要なのは地方の「自立性」です。国の支援がなくても、事業を継続していくことが求められます。次に、国が補助金で地方を誘導するのではなく、地方が自ら取り組んでいける「将来性」を重視した環境づくりも重要です。このほか、「地域性」(データに基づいた地域にあった施策支援)、「直接性」(関係者との協力による高い効果)、「結果重視」(目標を立て、プロセスを検証していくこと)が必要です。


 地方創生の取り組みは、先ほど山本幸三大臣が隠岐諸島にある海士町の事例を紹介されました。その他に、私から2つほどご紹介いたします。


 岩手県紫波町は、盛岡市から南に約15キロ行ったところにある町です。人口は約2万人ですが、魅力あるまちづくりのため、半径30km圏に住んでいる人々向けに、まずは有機野菜や加工品、海産物などが並ぶお店を作ったほか、新設したバレーボール専用体育館は365日ほぼフル稼働するような状態となり、交流人口が80万人を超える状態になっているそうです。代表取締役を務める岡崎正信氏は、これらの施設を補助金なしに運営しています。


 島根県松江市に本店を置く山陰合同銀行では、知的障がい者の優れた絵の才能に着目し、銀行の景品の予算を削減して障がい者のための作業場を整備しました。そして、その障がい者が描いた絵を銀行の景品に採用するだけでなく、伊藤園やイオンなどの他社にも使用してもらい、その収入によって障がい者支援を行う仕組みを構築されています。


 このように、自立に向けた取り組みは既に随所で行われていますが、国が行う地方の支援には3つの重要なポイントがあります。1つ目は「情報支援の矢」。山本幸三大臣が紹介した情報経済分析システム「RESAS(リーサス)」により、データに基づいて各地域の発展の可能性を関係者と議論します。2つ目は「財政支援の矢」。将来的に持続可能な取り組みを財政面で支援していきます。


 3つ目は「人材支援の矢」。これはまさに「地方創生カレッジ」で、自治体や商工会議所などが取り組む地域の発展やその全体戦略、あるいは観光の分野での自立的な取り組みやDMO(Destination Management Organization)の運営などが学べる場となります。北九州にはさまざまな学校がありますが、全国には交通の便が悪い地域もたくさんあります。そういった地域でも勉強できるシステムとして、この地方創生カレッジではeラーニングを活用して運営しています。


 地方創生カレッジでは「基盤編」と「専門編」としていくつかの講座を用意し、2016年12月から運営を開始しました。詳細はホームページでご確認いただければと思いますが、例えば、経営共創基盤の冨山和彦CEOにご協力いただいた講座をはじめ、神戸大学のビジネススクール、関西学院大学のビジネススクール、あるいは紫波町の取り組みを教材とした東洋大学のまちづくりコースなどを用意。大前研一先生が学長を務めるビジネスブレイクスルー大学(BBT大学)や日本観光振興協会、地域活性化センターにも講座の開発・提供にご協力いただいています。2016年12月末現在、約40講座ほどを公開しており、今後順次拡大していく予定です。

梅本氏.jpg梅本 和秀 氏
(北九州市副市長)
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産官学が一体となって議論し、実践できる環境を


梅本 和秀 氏(北九州市副市長)


 

 今日は、このシンポジウムを北九州市で開催いただきありがとうございます。北九州市が官民連携で取り組んでいる地方創生について、ご紹介させていただきます。


 北九州市では、仕事と新しい人の流れをつくって若い世代の結婚や出産、子育ての希望をかなえ、魅力的なまちをつくろうという総合戦略をまとめています。「転入と転出の差」ですが、北九州市では51年間マイナスが続いています。そのため、このプラス化を大きな目標として掲げています。


 私どもと産業界、市民が一緒になってこのまちの魅力や人の流れをつくる「官民連携モデルプロジェクトによる賑わいの創出」については、2つのイベントを紹介しましょう。1つ目の「東京ガールズコレクション北九州」は2年連続開催しており、約1万3000人の若い世代、特に女性で賑わっています。しかも、2016年10月に実施した2回目では、SNSの実況中継を数十万人の若者が同時視聴しました。その後の反応では「北九州でこんなことをやっているの?」「こんなことできるまちってすごいよね」といったつぶやきが投稿されており、このまちのイメージチェンジに大きな成果があったと感じています。来年度も、3回目を開催できればと思います。


 もう1つは、2014年からスタートした「北九州マラソン」です。健康志向の高まりの中で全国から1万人以上のランナーが集まり、宿泊もしています。ランナーからの評価が非常に高く、常にマラソン大会の満足度上位にランクインするなど、北九州のイメージアップやイメージチェンジに大きく寄与しているのは間違いないでしょう。


 北九州市は2016年1月に「国家戦略特区」に指定されました。民間からの発案によって特区申請を行い、規制改革によってこのまちで実践していくわけですが、民間企業の提案を我々が内閣府に直接訴えることで、内閣府が所管省庁と調整して話が進んでいきます。私どもの主眼は、介護施設にロボットを導入して生産性を上げることで、現在は実証事業を行っています。さらに、特区民泊やワイン特区などの取り組みも進めています。


 若者の地元就職を促進する取り組みも行っていますが、その中には実は「地元企業の認知」も入っています。そもそも、北九州市の有効求人倍率は1.3を超えており、新規求人数は1万人以上、求職数は約8000人となっています。これはつまり、求職する人が全て市内の企業に就職できるほどの枠があることを意味し、そうなれば社会動態のマイナスも解消できるわけです。ただし、いくつか問題があります。その1つが、「就職希望者が、企業のことをあまり知らない」ということ。大学側もあまり企業のことを知らなかったため、就職希望者と企業のマッチングにまず立ち上がったのは大学でした。現在は、市内と下関の13大学が一体となって学生の地元就職を促進する「COCプラス」事業を実施しています。


 これに加えて、インターンシップの充実も積極的に進めており、東京圏の理系・文系学生を対象とした地元企業のインターンシップを拡大。中小企業向けの新卒採用支援としては、民間就職情報サイトの活用を行っています。例えば、市内の企業から「人が採れない」という話をよく聞きますが、人を採るために何をしているのかを聞くと「ハローワークに求人を出す」と答えます。しかし、学生はマイナビやリクナビといった民間の就職情報サイトから仕事を探していくため、ハローワークに人が来ないばかりか、北九州市の企業にまでたどり着いてくれません。そこで、マイナビのサイトに北九州市の特集を組んでもらったところ、10人の求人枠に400人以上の応募が来ました。内定者も出ていますので、今後も続けていこうと考えています。


 そのほか、中小企業を対象に、市内の企業に就職した方々の奨学金返済を数年間支援する制度も計画しています。こうした取り組みを大学、産業界、行政が実施することで、地元就職率の10ポイント上昇を目指します。


 また、直近に発表したものとしては、北九州市若松区ひびきのに大学院を設置する早稲田大学の取り組みがあります。関東の私立大学は学費や生活費が高いため、早稲田大学も地方から入学する学生の割合が激減している現状にあります。それを解決するため、北部九州に限定した指定校推薦の入試枠を10名程度で設立。3年までは東京で、4年と大学院は北九州市で授業をするほか、授業では北九州地区の企業が約40社参画するコンソーシアムと連携した共同研究も行います。これにより、北九州市の企業を知ってもらい、就職につながればと考えています。


 次に、遊休不動産(空き店舗など)をリノベーションの手法で活用・再生する取り組みを紹介します。魚町で立ち上げたリノベーションスクールでは、市内外含めて多くのまちづくり人材が育っています。これまでの事業化件数は20件、新規の創業雇用社数445名、魚町の通行量も3割増加しました。これが注目され、全国から264件、1572名の視察が来ています。定住・移住の促進については、北九州の住みやすさが雑誌などで評価されるようになりました。この機を逃さずに定住・移住の促進を進めるため、官民一体となって37団体が「住むなら北九州市!応援団体登録制度」に参加しています。100人弱いる移住希望者は、「北九州市すまいるクラブ」に会員登録することで情報の常時提供やお試し居住などを受けることが可能です。移住相談員や移住コーディネーターを、市役所や市の東京事務所に配置し、移住に関する相談をワンストップで受ける体制も組みました。これも産業界、学界、金融機関などのコラボレーションで実現できたものです。


 女性の活躍では、女性の就業やキャリアアップ、創業などをワンストップで支援する全国初の「ウーマンワークカフェ北九州」を2016年5月に設置しました。ここでは、国のマザーズハローワーク、福岡県の子育て女性就職支援センター、市の子育て支援、創業支援が一体となってサービスを提供しています。さらに、ワーク・ライフ・バランス推進協議会を「北九州市女性活躍・ワークライフバランス推進協議会」に改め、これまで以上に働く女性を重視した政策を実施しています。


 こうした取り組みは、自助でやっていかなければなりません。しかし、何かの支援が必要な場合もあります。そのため、積極的に「地方創生推進交付金」や「地方創生拠点整備交付金」を申請しています。推進交付金では、関門連携や北九州都市圏域(6市11町)連携により、観光資源の開発、6次産業化、産業観光の領域で振興を行っています。


 なお、渡辺公徳内閣参事官からご指摘があったように、こうした取り組みにおいては官民のコミュニケーションが重要です。一方的に要請やお願いをするのではなく、共通の議論ができる環境をつくって互いの意見を議論することが大切です。企業との対話においても、互いのメリットとデメリットを挙げながら議論をするように心がけています。

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羽田野 隆士 氏
(北九州商工会議所 専務理事)

「北九州のために」という企業姿勢と地元貢献で
利益を生む環境を育てる


羽田野 隆士 氏(北九州商工会議所 専務理事)


 私どもは利島康司会頭のもと、北九州で商売をする人たちに稼げる材料を提供することが一番の役割だと考えています。そのため今回の地方創生は、地域経済を活性化させて景気を上向かせることを目標に、日々活動しています。先ほど梅本和秀北九州市副市長からお話があったさまざまな取り組みに関しては、行政と一緒になって進めています。


 私どものまちを振り返ってみると、八幡製鐵所の設立以後、製造業全般を中心に繁栄してきました。当時から、まちの繁栄・発展のために、行政が中心となって地域活性化の取り組みを進めてきました。その意味では、地方創生事業を数十年前から実施してきたことになり、現在でも企業誘致などがまちを活性化させる基本になっています。さらに近年は、道路や港湾、空港などのインフラ整備や、門司港レトロなどの観光スポットづくりも大幅に進んできました。その結果、全国的にも住みやすいまちとして非常に高い評価を受けています。


 しかし、八幡製鐵(現在の新日鐵住金)の一部移転以降、人口減少にはなかなか歯止めがかかっていません。少子高齢化も避けて通れませんが、生産性の向上によって経営の効率化が進み、生産現場で雇用がなかなか伸びにくいという背景もあると思います。このまちには優秀な工業高校がたくさんありますが、卒業生が北九州の製造業に就職するパターンも徐々に崩れつつあります。第2次産業の製造業が中心のまちですが、既に8割近くが第3次産業に従事しているのも事実です。


 就職の状況や若者の様子を見てみると、「この地域で魅力的な職場を創造できたのか」という反省があります。しかし、悲観することばかりでもありません。北九州市には、ものづくりのまちとしての資源が蓄えられています。交流人口を増やすために、これをいかにして活用するかが、今後のビジネスチャンスとなるでしょう。


 例えば、観光資源をサービス産業の素材として活用し、観光客を増やすインフラ投資は行政でできますが、これまでは増えた観光客にお金を落としてもらう仕組みが多少欠けていました。現在は、日本中から北九州の産業観光、特に安川電機のロボット村やTOTOミュージアムに注目が集まっています。今後はアウトカムの視点で、産官が連携して進めることが大事でしょう。


 それから、交通網の整備も必要です。例えば、福岡空港は現在混雑空港に指定されています。福岡県全体の最適化という観点から、福岡空港の余剰分を北九州空港で対応することが、必ず北九州の繁栄につながると思います。さらに、北九州空港は「今後増加するアジアからの需要を受け止める最適な空港である」という視点も重要です。24時間空港の強みを生かすため、滑走路の延長などは喫緊の課題といえるでしょう。商工会議所としても、これまでと同様に産と官が連携しながらまちのにぎわいづくりに全力で取り組んでいきたいと思います。


 なお、官民でのコミュニケーションの重要性については、梅本副市長が話されたように、商工会議所の幹部役員会で市の局長と意見交換を定期的に行っております。経済界の意見は必ず行政に伝わりますし、行政からも説明があります。こうした取り組みによって目標の目線が一致してPDCAが回しやすくなり、成果につながっていると思います。


 各地商工会議所と話しても、北九州は非常に上手くいっていると感じます。その理由の1つにあるのは、北九州市側の対応の良さです。例えば、観光をキーワードとするワンストップサービスを、北九州市や商工会議所の観光部門、観光協会、コンベンション協会が展開していますが、各担当者は同フロアーに集まって業務を行っています。その結果、この取り組みが「足し算」でなく「掛け算」になり、交流人口を増やすためセールス活動でさまざまな仕掛けを打つところにまで及んでいます。


 最後に、どうしたら官民連携の取り組みに企業が関心を持ってくれるのか。そのポイントを、北九州のケースで2つ紹介します。まず、福岡市は地域密着型の企業が多いのですが、北九州市はどちらかというとグローバル企業が多く、こうした企業の売り上げは九州全体を対象にしても約10%しかありません。しかし、八幡製鐵が「鉄は国家なり」の時代からまちを大事にしてきたような伝統が、ここでは現在も生きています。例えば、安川電機やTOTOは世界を相手に稼ぐ企業ですが、このまちで生まれた企業として利益が出る限り「北九州に協力する」という姿勢を持っています。これが1つ目のポイントです。


 もう1つは、北九州市に協力するとしても、「企業の利益につながる側面がある」ということ。利島会頭は常々「まちの事業を担う人たちが、一生懸命稼げる仕組みを考えなければいけない」と言われていますが、それがあるからこそ、北九州の企業は好感を持ってくれていると思います。こうした背景から、例えば交流人口を増やすために企業へ声をかけると、直近では「大発会」という夜、みんなで集まって乾杯し、まちに繰り出すイベントに1000人以上の企業の人が集まるようになりました。これは、企業間の交流が増えて新しい友達ができるという発想でもやっています。ものづくりの文化から、ものづくり自体がサービスやマーケット的な発想を生んでいくというところが、うまく機能していると思います。

石丸氏.jpg石丸 修平 氏
(福岡地域戦略推進協議会 事務局長)
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産官学が一体となり、
福岡都市圏を東アジアのビジネスハブに
 


石丸 修平 氏(福岡地域戦略推進協議会 事務局長)


 

 FDC(福岡地域戦略推進協議会)は、福岡都市圏の成長戦略を策定から推進まで一貫して行うシンク&ドゥタンクで、福岡市を中心とする福岡都市圏9市8町を1エリアとして活動を進めています。九州経済連合会会長の麻生泰会長を筆頭に、大学ネットワークふくおか会長である九州大学の久保千春総長、福岡都市圏広域行政推進協議会会長の高島宗一郎福岡市長で産官学の座組をつくっており、現在は企業、団体、大学、行政からなる137の会員が参画しています。


 福岡都市圏という視座で成長やより良いまちづくりを考えると、福岡は東京のようなメガリージョンにはなれません。では、我々はどのような道を進んでいくべきか。そこで着目したのが、都市圏という単位で活動している地域でした。例えば、シアトル、サンフランシスコ、メルボルン、ヘルシンキ、コペンハーゲン、アムステルダム、ベルリンなど、人口200~300万人の規模の都市圏は、いわゆるメガシティにはないコンパクトさを強みとして、都市を成長させています。


 この福岡都市圏も約250万人の都市圏ですが、このような都市では今まさにイノベーションという言葉が流行っています。これらの都市の特徴としてまず挙げられるのは、高い生活の質です。満員電車に1時間半乗って通うようなところはなく、自然の近接性、生活や食の豊かさ、イノベーティブなエコシステムを支える先駆的な教育機関など、新しいクリエイティブな環境が新しい価値を生んでいます。


 また、産学官民によって大学の知見を活かしたり、ナレッジを地域に活用したり、民間企業が主体となって地域を先導していくような仕組みをつくったりすることが、事例として挙げられます。コペンハーゲンのデンマーク・デザイン・センターのように、域外の知見を取り組むような仕組みを持ったり、サンフランシスコなどが導入するアントレプレナー・イン・レジデンス(客員起業制度)のように、地域の新しいソリューションを行政が取り入れて成果をあげたりしている例もあります。我々も、広域連携や官民連携の仕組みがあれば、こういたことができるのではないか。そう考えて、FDCをスタートさせました。


 次に、イノベーション都市を標榜するにあたって、福岡都市圏の強みを改めて考えてみましょう。福岡を中心にしてビジネスで日帰りできる距離で円を描くと、世界最大の人口はこのエリアになります。ここから生まれる内需に我々が取り組んでいけば、東京にできないこともできるはずです。福岡都市圏には起業家やクリエイティブな人が多いという特徴もありますし、アジアとの近接性は以前から言われてきました。そうした特徴を生かせば、生きる道もあるでしょう。


 この観点から、福岡都市圏の現状を定量的、定性的に把握したとき、短期・中期・長期の3ステップで東アジアのビジネスハブを目指そうと考えました。福岡都市圏は他地域と比べて第3次産業の割合が非常に高いことから、短期的には交流人口をしっかりと増やすためにMICEに関する施策を打ち、インバウンドを拡大して付加価値を高めていきます。特にMICEは付加価値の高いインバウンドという捉え方ができるので、お金をたくさん落としてもらう仕掛けづくりや地場企業とのマッチングなど、ビジネスにつながる仕掛けで短期的な経済波及効果を狙っています。


 中期的には、社会実験などでビジネスが生まれる環境づくりを狙っています。さらに長期的には、福岡都市圏からの輸出産業を成長させていくとともに、アジアの近接性という強みを生かして、新たに輸出できるソリューションを産業化させていくことを考えています。麻生会長もおっしゃられたように、国連はアジアの各都市との連携の中で、都市の課題に対するソリューションを求めています。国連と連携して、民間のソリューションとマッチングできるような座組を我々がつくっていければ、効果的な輸出産業の成長につながるはずです。


 そうした取り組みの実現に向けた戦略テーマの絞り込みも進めており、福岡都市圏の産業構造を踏まえて、食、観光、スマートシティ、それらを支えるまちづくり、人材育成などで、付加価値を出していくことを考えています。さらに、各所と連携してその効果を九州全体へ波及させたいとも考えています。私たちは、構想の発案だけでなく、構想を実現する担い手の確保も意識しています。まずは16の戦略テーマの中から5つ取り組んできましたが、今後はヘルスケアやコンテンツなどを中心にすすめていく予定です。


 先ほど「福岡都市圏を東アジアのビジネスハブにしたい」と申しましたが、FDCではまず産学官が一緒になって戦略を議論し、必要な政策の作成や実行方法の検討、施策の担い手の確保などに反映させています。次に、官民連携が基本となるため、当該施策を事業として実施するためのコンソーシアムの座組をつくり、フィジビリティスタディで事業性や収益性を検討し、事業として回していける環境をつくります。このコンソーシアムが当該事業を推進していく場合もあれば、コンソーシアムから合弁会社などの事業体を創生して事業化することもありますが、そこに政策が寄り添う形で持続的な成長につなげていきたいと考えます。我々は1つの形として、自治体の枠にとらわれない広域連携や自治体をまたぐ施策推進などを目指しています。


 我々としては、現在の社会制度で対応できなくなった、新しい社会的ニーズに対応するサービスモデルを創出するための社会実験のプロセスを、このFDCのプラットフォームでやりたいと考えています。それはまさに、地方創生や国家戦略特区で現在やっていることだと思います。


 例えば、地方創生は国が指示するのではなく、やる気のある地方のアイデアを強力に支援するため、民間からはこれまでの規制が想定していないソリューションも生まれてきます。国家戦略特区は、この規制を緩和して当該事業者に実施してもらうとともに、政策サイドはそのソリューションをベースに制度を変えていくわけです。つまり、地方や現場からどんどん生まれるソリューションに、社会制度がしっかりと対応していくための先端的な政策こそが、地方創生であり国家戦略特区だといえるでしょう。


 私どもは、官民連携でプロトタイプをどんどんつくり、新たなサービスや商品をつくっていこうと思っています。民間で対応できる環境があれば、どんどん社会実装して地域の課題解決やビジネス機会の創出につなげていく。対応できない場合は国家戦略特区を活用し、地方創生の中で政策的な位置付けをすることで地域の活性化につなげていきます。


 なお、官民でコミュニケーションを取るための努力として、福岡都市圏の場合は特に広域という背景もあるため、大きなビジョンを描いてそこに寄り添ってもらうプラットフォームづくりを選択しました。一緒に連携できるものを可視化して賛同する人に集ってもらったことが、最も効果的だったと思います。そもそも、FDCが出来上がった経緯には、「みんなで一緒に連携してまちづくりをしていこう」という点にあります。共通の目的を持って、一緒に活動していくということが重要だと感じます。


 今後は、いわゆる協賛金モデルからの脱却が必要となるでしょう。これまでは地域のためにみんながお金を出し合い、支え合ってきました。それは尊い話ですが、その先にはビジネスとして稼いでいく座組が必要です。その座組を、このプラットフォームを活用したマッチングなどで形づくっていきたいと思っています。

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大曲 昭恵 氏
(福岡県副知事)
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「働き方改革」が地方創生を後押し、
安心して子供を産み、育てられる地域社会に
 


大曲 昭恵 氏(福岡県副知事)


 本日、私以外のパネリストは皆さん男性ですので、女性の視点ということも踏まえてお話をさせていただきます。


 福岡県の地方創生についてお話をします。本県の人口は、まだ増加していますが、程なく減少に転じると見込まれています。
 地方創生に対する本県の基本的な考え方は、「誰もが住み慣れたところで働き、安心してお子さんを生み育て、長く元気に暮らすことができる、そうした地域社会をそれぞれの地域に作っていくこと」です。これを実現するため、「福岡県人口ビジョン・地方創生総合戦略」を策定しております。その特色は、県内15の広域地域振興圏ごとに現状分析と施策の方向性を示し、県全体として計画を立てている点にあります。


 本日は、地方創生の実現のためには、それぞれの地域に「魅力のある雇用の場」をつくっていくこと、女性や障がい者、高齢者など、多様な主体がその能力や意欲に応じて社会で活躍していくことが重要であるということについてお話をさせていただきます。


 1.働き方改革


 はじめに、働き方改革です。全ての方が働いていくためには、これまでの男性モデルの働き方では難しく、誰もが働きやすい環境をつくることが大事です。これは行政だけで出来ることではありません。官民が連携し、改革を推進することが必要です。
 そのため、官民労使が連携して2015年3月に、「福岡『働き方改革』に向けた共同宣言」を採択し、2016年12月に「チャレンジふくおか『働き方改革推進会議』」を発足しました。ここで策定した「働き方改革に向けた地域推進プラン」について、それぞれの団体で取り組んでいます。
 また、県では「仕事と子育ての両立」「非正規雇用の正規雇用化の促進」「長時間労働の是正・有給休暇の取得促進」「『70歳現役社会づくり』の推進」「生産性向上の支援」という5本の柱で取組みを進めているところです。


 2.子育て支援


 次に、子育て支援です。働く女性の多くが妊娠・出産を機に仕事を辞めてしまうという課題があります。実は、子育て支援の取組みは、働き方改革に繋がっていくと考えております。
 そのため、県では2003年度から「子育て応援宣言企業」登録制度を創設し、企業のトップ自ら従業員の仕事と子育ての両立支援を宣言していただくという取組みを始めました。これまでの登録数は約6000社、従業員数は約54万人で、これは本県で働く人の約4割になります。まだ宣言されていない企業には是非宣言していただき、働き方を変えていただければ、女性の力はもっともっと強くなっていくと思います。
 また、2006年度からは子育て家庭を地域社会全体で応援する環境づくりの一環として、子育て家庭に対する様々なサービスを提供する「子育て応援の店」の登録を行っています。安心して子供を産み育てる環境があれば、出産する子供の数も1人から2人、3人と繋がり、人口減少に歯止めがかかることが期待されます。
 さらには、家族の素晴らしさや子育ての楽しさを広げようという家族月間キャンペーンも、官民連携で取り組んでいます。このように、様々な企業に賛同いただき、県全体で子育てしやすい社会づくりを進めています。


 3.女性の活躍


 そして、女性の活躍です。本県は、非常に女性が活躍している県です。人口構成を見ますと、20代以上は女性の数が男性を上回っており、8社に1社は女性社長です。少子高齢化に伴う人口減少社会では、女性の活躍は重要な鍵となっていくと思っております。
 まず、企業の中で女性に活躍をしていただくため、2016年6月に「福岡県女性の活躍応援協議会」を設立しました。行政や経済団体、関係団体が一体となって、女性が力をさらに発揮できる土壌をつくっていく考えです。
 また、行政においても、国、県、北九州市が連携してワンストップで女性の活躍を応援する「ウーマンワークカフェ北九州」を2016年5月に開所しました。この連携により相談件数が大幅に増加しています。
 さらに、このような環境整備に加えて、女性自身の意識を変えることも大切です。企業や地域のリーダーとなる女性を育成するため、「ふくおか女性いきいき塾」「女性トップリーダー育成研修」など、様々な応援講座を実施しています。


 4.障がい者雇用の促進


 最後に、障がい者雇用の促進です。多様な主体が活躍していく中で、障がい者の方に雇用の場で活躍いただくことは非常に重要です。障がい者の方々も「社会に出て活躍をしたい」「働く場がほしい」と強く願っておられます。平成28年の県内民間企業における障がい者雇用率は1.95%です。法定雇用率2.0%には到達していませんが、全国平均を上回る数字となっています。
 まず、障がい者の就業支援については、「障がい者就業・生活支援センター」において、国が就業支援を、県が生活支援を担い、一体的な支援を実施しています。
 また、県独自に無料の職業紹介を行っており、障がい者と企業をマッチングしています。平成30年には、精神障がい者が算定基礎に加えられ、法定雇用率が引き上げられる見込みです。精神障がい者は身体障がい者や知的障がい者と比べて雇用が進んでおらず、今後は、精神障がい者と企業のマッチングが一層重要になってまいります。
 さらに、障がい者雇用を入札参加資格審査の評価項目として加点する制度の導入、企業に対する障がい者雇用促進セミナーの開催、特別支援学校に企業を招いての技能発表会の開催など、企業の障がい者雇用に対する理解や意欲の促進を図っています。


 以上のような取組みを通じて、全ての方が社会に参加し、働いていける社会づくりを進めてまいります。

見並氏.jpg見並 陽一 氏
((公社)日本観光振興協会・前理事長
  (株)びゅートラベルサービス・顧問)
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観光立国を目指すには、
「マネージャー」層の人材育成が必要
 


見並 陽一 氏((公社)日本観光振興協会・前理事長/(株)びゅートラベルサービス・顧問)


 

 私どもは、観光の力で地方創生を目指す活動をしています。そこで現状の問題点を挙げるとともに、地方創生でなぜ「観光DMO」の必要性が叫ばれているのかをお話しします。


 現在、約2400万人の外国人が来日し、インバウンドによる外需の内需化が起きています。しかし、このインバウンドの大半は大阪から東京まで、いわゆるゴールデンルートに集中しています。均衡ある日本をつくっていくためには、このインバウンドを全国の地方に展開させる必要があるでしょう。そして、日本人が自分たちの地域の魅力に気付くこと、つまり国内旅行を活性化させることが不可欠となります。


 インバウンドの地方展開と国内旅行の活性化を実現するために、どうすればいいのでしょうか。ひと言でいえば「世界に通用する観光地をつくること」です。これは地域文化を基軸とした観光開発をするということで、そのためには観光資源の掘り起こしが必要となります。さらに、訪れる人々は地元の人との交流や、素晴らしい自然環境との共生なども期待するでしょう。そのためには、地域ブランドをつくり上げ、持続的な観光の実現を図らなければなりません。


 これには、3つのことが必要だと私は考えます。1つ目は「魅力ある商品づくり」。産業連携や6次産業化を進め、地域の稼ぐ力を強化することが必要です。このような取り組みは現在、各地域で進んでいます。


 2つ目は「日本版DMO」です。魅力ある商品は、キャンペーンなどによって結成される協議会によって、全国各地で生まれるようになりました。しかし、このような旧来型の手法では、キャンペーンが終了するとその協議体も解散してしまいます。これを改め、数値目標を設定してPDCAを回していくような方法論を、観光分野にも取り入れなければなりません。日本版DMOは、これまでの日本企業が当たり前のようにやってきたこの方法論を導入し、地域全体を商品としてマネジメントしていくものです。


 3つ目は観光振興を担う「人材の育成」です。実は、日本版DMOをやろうとしている地域はすでにあるのですが、「それを推進する人材がいない」という課題を抱えています。そこで国は、観光人材の育成も目的の1つに含め、実学の場となる「地方創生カレッジ」をスタートさせました。


 北九州は観光を重視する方向へと歩み出しています。官民あげて少しずつ進もうとしておりポテンシャルも感じますが、その成果が出るのはまだこれからでしょう。
 大事なことは、日本もグローバルの中に置かれているという認識を持つこと。新しい時代の観光地経営が問われていますが、この問題認識を一番持っているのは九州だと私は思っています。記念講演で麻生会長がお話されていたように、3年後や5年後を見据えた「未来からの反射」という視点をどれだけ取り入れられるかが大切になるでしょう。


 原先生から、インバウンドの観光収支が自動車部品の輸出高と同じレベルに達した日本が、将来的に、さらに自動車そのものの輸出高をしのぐところまで観光収入を拡大させていこうと努力しても、人材育成に手を打たなければ、マネージャークラスのポストを外国人に取られ、日本人の席はなくなっていくというご指摘がありました。


 日本人が地域連携で観光産業という果実をつくりあげても、単純労働は私たち日本人が分担し、マネジメントは外国人が分担するようでは「観光大国ではない」という結論は、衝撃的な未来像です。そのような動きは既にアメリカで起こっており、日本のグローバル企業でも同様だという話でしたので、そうしたことも考えていく必要があるでしょう。

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原 忠之 氏
(セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリテイ経営学部 准教授)
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「利益を出すこと」を必須とする、アメリカのDMOに学ぶこと 


原 忠之 氏(セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリテイ経営学部 准教授)


 私からは、アメリカのDMOについてお話しします。アメリカのDMOでは、地域の経済的恩恵、つまり地域に住んでいる人々の生活水準を維持および向上することを共通の目的としており、それには「利益を出すことが必要だ」という考え方は絶対にぶれません。一方で、日本の観光協会などと話をすると、「おもてなしでお客さまに満足していただくため」や「この地域の良さをわかっていただくため」にやっていると言われます。しかし、それは「手段」であって「目的」ではないのです。


 アメリカのDMOは、基本的に組織として人材や人事の独立性を保っているのが特徴で、地方自治体との人材交流はありません。次に、財務予算の独立性。地方自治体の一般財源からは一切お金が出ませんが、特別地方税で独立の財源を持っています。また、DMO自体が利益を追求することもあります。例えば、フロリダ州オーランドでは観光収入の3分の1をDMO自身が稼いでいます。地方自治体との契約も特殊で、地方自治体のバランスシートの負債側に長期負債として計上する必要のない、1年を超えない年間請負契約を結びます。1年契約によって理論的に「来年は契約しない可能性もある」とすることで、財務的な緊張感をもたしているようです。


 人材に関しては、民間の出身者が主体です。これは、民間出身者は費用対効果の意識が高く、追加の投資や撤退の判断を迅速に行えるという理由からです。撤退に関しては事前につくった数字で判断するなど、民間企業と変わらない感覚です。例えば、あるマーケットの成長が目標値に達しなければ、来年度予算はゼロにするといったことをします。


 このような人材は、自分から相手のニーズを聞いて解決案を提供できるなど、マーケティング的な発想を強く持っているテーマパークやホテルの出身者が多いのですが、そういった人は女性の方が多いようです。例えば、オーランドのDMOの役員は男性4人、女性8人なのですが、女性はユニバーサルスタジオやマリオットホテルなどの出身です。マリオットは世界展開するホテル会社ですから、収益に関する意識が高いのもうなずけます。


 観光インフラの建設においては、地元政府が一般財源として資金を出し、域外から企業を誘致することで雇用が生まれ、そして売り上げが増えるという流れが一般的です。しかし、特に国際会議場の場合では、周辺のホテルやレストラン、タクシー、バスなどは 黒字であっても、本体の運営は赤字になるというケースが多くあるようです。


 その対応としてオーランドでは、まず地方債を発行して投資家から資金を集め、その資金で観光インフラを建設します。これによって人が集まり、売り上げが増えることで雇用も生まれます。その際、オーランドでは6%のホテル宿泊税(現地では「観光客開発税」と呼んでいます)を徴収します。これを一般財源でなく、特定の使途でしか使えない「特別勘定」に入れます。その税収の使途を「地方債の元利償還」か「観光地のマーケティング(つまりはDMOの運転資金)」に限定するためです。


 なお、この地方債に関しては地方政府が補償をしないので、地方政府のバランスシートの負債側に偶発債務として載ることはありません。ひと言でいえば、プロジェクトファイナンスの手法といえるでしょう。また、このような地方債も格付け機関によってしっかり格付けされるため、投資家は安心して投資することが可能です。


 オーランドの場合、6%のホテル宿泊税によって、2016年に約250億円($239百万ドル)の地方特別税収を得ました。ちなみに、東京都の宿泊税は2015年で約21億円でした。例えば、リッツ・カールトンホテルの宿泊者が8万円支払った場合、オーランドではホテル税として4800円の税収が入ります。一方、東京都の宿泊税は1万円まで100円で、それ以上は200円となるため、この場合は200円になります。これが、オーランドの250億円と東京都の21億円の違いとなって現れるわけです。


 地方特別税の使途は、現在は約40%が観光インフラ開発に起債した地方債元利返済に使われ、DMOとの年間請負契約が約20%となります。DMO側の収支を見ると、特別地方税収をベースとした請負契約収入は約3分の2で、残りの3分の1はDMO自身が稼いでいます。DMOの支出側は、MICEのマーケティング等に約25%を使っています。


 日本の場合、DMOの話をしてもMICEという言葉は出てきません。一方アメリカでは、レジャー客の季節性変動が激しいため、「季節性と関係のない客を連れてきてほしい。そのためならDMO運転資金と国際会議場建設資金の財源として地方特別税を導入してもかまわない」と観光業界が地方政府に陳情したことでDMOが誕生したという経緯があります。ここが重要なポイントで、地方特別税(=ホテル宿泊税)は新しい客層を得るという目的のために、地元の宿泊業界が観光客から地方政府のために代理徴税している税金なのです。その代わり、観光インフラである国際会議場の建設資金やその元利金支払いにその税収を利用するほか、「DMOをつくって新しい客を呼んでください」となるわけです。このあたりの全体像がわかると、DMOの中になぜMICEの予算が含まれているかが見えてきます。


 次に紹介したいのは、世界で使われている言語の話です。第1言語で見ると中国語は13億人が使っているので、「中国語を勉強しなければ」と考えがちです。しかし、それは違います。第2言語を見てみると、世界で日本語を勉強しているのが3百万人、中国語を勉強しているのが3000万人に対して、英語は15億人にものぼります。つまり、世界は圧倒的に英語であり、世界に観光を売っていくには英語が必須なのです。


 なお、日本語を使っているのは、日本人と日本語を勉強している外国人の合計1億2900万人。世界の1.7%にしか通じない言語です。これを踏まえると、日本語の通じない98.3%のインバウンドに何かを売るには、英語が不可欠となります。


 観光庁では、訪日外国人数の目標を2020年に4000万人、2030年に6000万人と設定しています。また観光消費額は、現在の3.7兆円に対して2020年に8兆円、2030年に15兆円を目標としています。観光奨励の目的を地方経済の活性化と捉えれば、金額目標の方がはるかに重要な目標といえるでしょう。


 外貨獲得の輸出産業を見てみると、今一番多いのは自動車の15%で、金額規模は約10兆円強になります。先ほど示したように、観光消費額の2030年目標は15兆円ですから、自動車産業超えを目指していることになります。観光産業の規模を2030年までに数倍にすることが目標なのですから、今後の人口減少を踏まえると、目標達成には今から人材を育成する必要があります。


 ここで本当に重要なのは、中間管理職になれる日本人を育成しておくことです。なぜかというと、中間管理職は給料が高いため、しっかりとした人材育成をしておかないと、その「おいしい部分」を英語の上手い近隣アジア諸国の人たちに取られてしまうからです。また、仮に日本人の中間管理職を採ろうと思っても、優秀な人材がいなければ他国の人材を採用せざるを得ません。それを防ぐためにも、今からそういう中間管理職に適した人材をつくっておくべきだと考えます。


 最後に、北九州の観光の可能性について話したいと思います。観光戦略を考えたとき、アメリカではまず現状と将来の目標を線で結び、「何年間でどこまで成長させるか」というそれぞれの数値目標を設定します。例えば、現在の北九州の外国人消費額を2000億円とした場合、日本政府は2030年に数倍の15兆円を目指すわけですから、北九州も2000億円を数倍にして8,000億円から1兆円を目指すことになります。そして、毎年の数字を設定していき、進捗状況をチェックするわけです。


 では、この目標を達成するには何を売ればいいのでしょうか。売れる資源を見極めることが重要となります。例えば、私はアメリカ人の同僚と出張すると、基本的に成田空港に到着し、東京駅から東海道新幹線で京都や奈良などへ行きます。その同僚は「素晴らしい。君の国は本当美しい」と大いに感動してくれます。一方で、「これはやっぱりすごいよね」と新幹線やトヨタ自動車の高級車「レクサス」などにも感動します。


 そうしたなかで、必ず出てくるのが「新幹線やレクサスも、それから京都や奈良もすごいけれど、どうしてこれが同じ国にあるんだ。伝統と歴史の国から工業最先端国に変遷した経緯がわかる観光資源はないのか?」という質問です。最近、日本でもいくつかの施設が産業遺産として世界遺産に登録されました。こういった施設は、外国人に大きなインパクトを与えるストーリーがつくれるコンテンツとなりうると私は思います。


 例えば、最初に山口県萩市の松下村塾に外国人を案内し、吉田松陰の思想や松陰が感じた阿片戦争への危機感、欧州帝国主義に対抗するための近代化の必要性などを紹介します。そこからさらに、長州藩が関門海峡で列強4国に完敗し、倒幕へ舵を取るきっかけとなった下関戦争や、明治維新以降の近代化の流れとして八幡製鐵所や遠賀川の取水場につながり、最後は長崎の造船所や軍艦島などを巡るというのはどうでしょうか。これまでは1つの点でしかなかった各地の観光資源が、ストーリーをつくってつなげていくことで、3泊4日や4泊5日の商品になりうるわけです。これをやれば、中心地は確実に北九州となると思います。


 では、そのストーリーはどうやってつくるのか、それには、やはり「マーケティング」です。点の観光資源を面として売るには、マーケティングが不可欠なのです。また、それを英語で行う必要があるのは言うまでもありません。

岩崎氏.jpg岩崎 正敏 氏
((一財)地域活性化センター 常務理事)
資料のダウンロードはこちら(その1) (534KB; PDFファイル)
          こちら(その2) (484KB; PDFファイル)

地域住民が「気づき、行動する」、
これが地域創生の成果につながる


岩崎 正敏 氏((一財)地域活性化センター 常務理事)


 

 地域活性化の具体的な方法は千差万別です。それぞれの地域で事情や背景が異なるため、ひと言で言い表すことは不可能でしょう。ただ、そのきっかけが外部からの刺激であれ内発的であれ、住民自ら気付いて行動を起こした地域が成果を上げているのは、事実だと思います。


 我々の組織は、地方の中小都市や区域、集落など、まさしくコミュニティレベルでの地域力の創造を支援しています。とくに人材育成は我々の核心であり、人づくりにほとんどの資源を割いてさまざまな活動を実施しています。


 代表的な活動としては、28年目となる「全国地域リーダー養成塾」が挙げられます。全国の自治体の職員を対象としており、1年で30日ほどの日程を組んで東京で開催しています。カリキュラムは、地域活性化に関する研究者を指導教官としたゼミナール形式の講座を採用し、座学や実地調査、そして最後にはレポートを作成します。卒業生は900名を超え、なかには首長経験者も何人かいらっしゃいます。


 「地域づくり人材養成塾」は地方公共団体から地域活性化センターへの研修生派遣制度です。現在、センター職員60数名のうち、8割以上が地方公共団体からの出向者です。彼らは、地域活性化センターの実務を通じたOJTに加えて、自主的な調査や研究、自治大学校等への派遣、民間団体へのインターンなどで知見を蓄積するとともに人的ネットワークを構築し、地元に戻っていきます。


 また、「土日集中セミナー」では、地方公共団体職員など平日忙しい方を対象に、土日2日間にわたって集中的に、地域活性化に関する実践者・研究者による講義やグル―プワークを行っています。


 さらに、「地方創生実践塾」があります。この塾では、地域活性化や地方創生の先進的な取り組みを行っている場所に直接訪れ、現地でそのノウハウや手法を学ぶ機会を提供しています。旅費は自分持ちなのですが、毎回全国から数十人規模の参加者があります。


 このほかにも、当センターの関連組織である「移住・交流推進機構(JOIN)」では、起業を目指している地域おこし協力隊員を対象に「起業者研修会」を実施しています。


 このように、我々は従来から地域おこしや地方創生へ主体的に関わる人材の育成を、細々とではありますが取り組んできました。今回の地方創生カレッジのカリキュラムは、単独の組織では実施が難しい必要な考え方やスキルなどをできる限り体系的にまとめた形で構成されていると思います。


 地域の人材育成を支援しながら全国の様子を見ていると、九州は地域活性化が最も盛んな地域だと感じています。地域活性化の取り組みにおいて、九州で有名なのは鹿児島のやねだん(鹿児島県鹿屋市串良町柳谷集落)でしょう。ここは、行政に頼らない地域おこしの教科書的な事例です。それから、2016年の熊本地震におけるNPO等地域づくり団体の素早い対応や、長崎県島原のこだわり野菜の通販を志す地域おこし協力隊の活躍など、このご当地のおける活動は、我々からすると非常に活発だと思います。全国でも先進的な取り組みの多い九州は、地域活性化や地方創生の先端地域だと言っていいでしょう。


講演の様子
松川 昌義((公財)日本生産性本部 理事長) 


山本 幸三 氏(内閣府特命担当大臣(地方創生))


北橋 健治 氏(北九州市長)


利島 康司 氏(北九州商工会議所 会頭)


麻生 泰 氏(福岡地域戦略推進協議会 会長/(一社)九州経済連合会 会長)

パネルディスカッション「官民連携による地域活性化について」


「国の地方創生と人材育成の取り組みについて」

モデレーター 渡辺 公徳氏(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣参事官)

セッション1 「官民連携について」

 梅本 和秀氏(北九州副市長) 
 羽田野 隆士 氏(北九州商工会議所 専務理事) 
 石丸 修平氏(福岡地域戦略推進協議会 事務局長) 


セッション2「働き方改革・女性の活躍について」
 大曲 昭恵氏(福岡県副知事)

セッション3「観光振興について」

 見並 陽一氏((公社)日本観光振興協会 前理事長/(㈱びゅうトラベルサービス 顧問)
 原 忠之氏(セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ経営学部 准教授)
 岩崎 正敏氏((一財)地域活性化センター 常務理事)

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