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発想力と行動力が挑戦を支え、可能性ある地域をつくる

高岡裕司氏

島根県雲南市吉田町
株式会社吉田ふるさと村
代表取締役社長 高岡 裕司 氏

1985年、雲南市(当時は吉田村)で第三セクター「吉田ふるさと村」が設立された。地域住民が27%を出資した同社の目的は、著しい人口流出と高齢化が進むなかでの地域産業の振興と雇用創出であった。地元農産物の加工販売、水道工事、バス運行などの事業を手がけるなか、2002年に発売した卵かけごはん専用醤油「おたまはん」が大ヒットし、専用調味料ブームを巻き起こす。同社はこれを足がかりに数々の新事業に乗り出し、地域活性化のトップランナーとして、柔軟な発想力と行動力を全国に示し続けている。

主な取り組み

◎餅、乾し椎茸、「おたまはん」などの特産品の開発・製造・販売
◎雲南市民バスの運転業務
◎簡易水道施設の管理、および水道施設工事業、管工事業
◎温泉宿泊施設 くつろぎの掛け流しの宿「清嵐荘」(国民宿舎)の経営
◎野菜や原木椎茸の栽培などの原料生産事業
◎地域資源を活用した旅行商品の企画・販売などの観光事業
◎立ち寄り軽食「TATALOVER~たたらば~」の経営
◎道の駅「たたらば壱番地」の共同運営
 など

たくさん挑戦させ、地域のための仕事をつくる

――御社は「おたまはん」をつくった第三セクターとして全国に知られましたが、御社設立の目的や課題をお聞かせください。


高岡:当地はかつて吉田村といい最盛期は人口5000人を擁しましたが、1960年代末から高齢化と人口流出が進み、この状況を打開するために地域産業の振興と雇用創出を目的とする当社が設立されました。それが1985年で、当時の人口は2800人になっていました。最大株主は自治体(現在は雲南市)ですが、設立の目的上、村民全員の賛同を得て運営したいという考えで、100人以上の町民に株主となっていただいているのも当社の特徴です。

 独立採算なので経営の厳しさは一般企業と同じで、売り上げは重要です。ただ、利益は地域を元気にするために生かします。例えば、加工食品の原材料は地元農家から仕入れる。刻んで漬物商品にするなら曲がったキュウリでもよいので、農家にとっては、従来お金にならなかったものがお金になるというわけです。

 雇用面では、当社設立時は6人でしたが、食品加工と水道工事、バス運行から始め、現在では原料生産部(農業)、観光事業部など9つの事業部があり、パートを含む69人の社員が働いています。また、製造には地域の方々が大勢臨時で来てくださいます。70代でまだまだ元気な農家のおばあちゃんもたくさんいますよ。


餅 吉田ふるさと村の原点の1つ、お餅。

――加工食品のラインナップも豊富ですが、業種を増やす理由は何ですか。


高岡:当社の特徴は商品の多角化より事業の多角化にあり、後者はむしろ必然の流れです。というのも、食品加工は安心・安全な原料を基本的に地元で調達するため、生産量に限界があるからです。商品に加工するための原料は無限に調達できるわけではありません。ならば、つくれる量だけ製造し、ほかの仕事で雇用の場をつくるのが本義だという発想です。

 当地の人々は、昔からいろいろなことで収入を得る工夫をしてきました。父は勤め人、母はパート、土日は全員で農業。祖父母も作物をつくってお小遣い稼ぎ――。当社も同じです。大変そうに聞こえるかもしれませんが、そこには新しいものをつくり出す面白さもあるのですよ。


――新しい事業の企画は、どのように行っているのですか。


高岡:新しい事業のアイデアを社員から募集し、アイデアが採用されたら金一封を出すなどしています。ハードルを低くし、たくさん挑戦させたいので、やりたいアイデアを自由に出してもらい、大概“採用”のハンコを押します。私はせいぜい雑談でヒントを口にする程度。ただし、途中で厳しく評価し、見込みのある事業を伸ばすという方針です。

 ですから、失敗する事業もあります。でも私は、「若いうちに失敗しておいたほうが勉強になるけん、失敗せい」といつも言うのです。失敗は成功のもと。失敗すると、フォローやら陳謝やら、ふだんの何倍ものスピードとパワーが必要ですよね。その経験値が以後、役に立ってきます。

“人づくり”の前提はまず本人の“やる気”

たまごかけごはんシンポジウムチラシ 「第12回日本たまごかけごはんシンポジウム」のチラシ。毎回企画に工夫を凝らし、今回の目玉は「早食い」。早食いは過去に一度行ったが、今回は3人1組、My箸持参で約3合のご飯を食べ切るという新しいスタイルだった。

――御社が求める人材像とは、どのようなものでしょうか。


高岡:採用で重視するのはスキルより“やる気”です。面接は必ず複数回行い、その都度面接官を変えて採用の可否を判断します。当社には、特殊な資格が必要な業種もありますが、資格がなくても“やる気”があれば採用します。バスなら第二種免許の取得費用を会社で立て替えますし、水道工事なら専門業者に派遣して資格取得に必要な経験年数を積ませます。“人づくり”は、本人の“やる気”が前提です。

 もう1つ、誰の話でもきちんと聞ける能力を重視しています。新事業を進める上では、この能力が特に重要です。周りが何を望んでいるのかを理解できなければ、新事業を成功に導く“攻めどころ”がわかりませんし、自分の考えが周囲に理解されなければ、取り組みが新しいほど周りの人はついてこられない。思いやりを持って人に接するためにも、必ず身につけてほしい能力ですね。

 また、事業が多岐にわたるだけに、バランス感覚とリーダーシップを持ち、全体を見回せる、プロデューサー的な役割を担える人が何人か必要です。


――プロデュースや新しい仕事づくりには、“やる気”と同時に高いスキルが必要になってくると思いますが、そのためにはどのような人材育成をされていますか。


高岡:養成プログラム的なものは特にないのですが、意識的に取り組んでいるのが、昨年で12回目となる「日本たまごかけごはんシンポジウム」です。地域のイベントですが、企画・運営はほとんど当社が担い、内容を自由に決められるので、これが非常に大きな社員教育・人材育成の機会となっています。

 春、希望する社員10名ほどでプロジェクトチームを結成し、毎年違う企画を考えます。その後、全社員に役割を与えて秋の開催に向けて動いていくのですが、事業分野にかかわらず全員で知恵を出し合って進めます。ふだんしないことをするので外部との新しいお付き合いも始まるし、いろいろな交渉事もある。学園祭的な楽しさもある一方、一連の経験を経て社員が大いに成長していくのがわかります。

観光事業に追い風、定住促進にもつなげたい

おたまはん 卵かけご飯専用醤油「おたまはん」。「関東風」と少し甘めの「関西風」がある。「出雲國たたら風土記」の日本遺産認定を受け、「菅谷高殿」のステッカーを貼付。

ギフトセット 製品詰め合わせギフトセットもある。

――今後の事業の展望と、それに伴う人材面での対策についてお聞かせください。


高岡:今、当地では観光事業に追い風が吹いています。例えば、“たたら製鉄”産業の景観や文化が今もこの地に息づいていることを描いたストーリー「出雲國たたら風土記」が、2016年に文化庁の日本遺産(複数の文化財を結びつけて、地域に根付く“物語”を認定する制度)の認定を受けました。また、第40回モントリオール世界映画祭で最優秀芸術賞を獲得した『たたら侍』が2017年5月に公開予定となっており、同年6月には豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」が走り始めます。瑞風のお客様は、町内のたたら製鉄の遺跡「菅谷たたら山内」にも来られる予定です。

 観光は地域全体で取り組む必要があるので、地元組織との連携を深め、地域資源を生かした交流型事業にこの追い風をつなげていくつもりです。そこでまた農業が生き、林業が再生し、定住促進につながると一番いいですね。

 また、12年間指定管理者を務めてきた国民宿舎「清嵐荘」が、今年いっぱいで建て替えに入ります。1300年も続く、よい温泉です。歴史はお金で買えません。地域資源をフル活用すべく、2019年秋のリニューアルオープンまでに新しい清嵐荘を前提にした経営ノウハウを学びたいです。リーダー人材の養成のため、ほかの温泉旅館に何名か研修に出すつもりです。

 地方創生の要(かなめ)は人であり、その育成にコストをかけるべきです。また、繰り返しになりますが、ハードルを下げ、たくさん挑戦させ、それを支えることが重要です。それが、やりたいことができる、可能性ある地域であることを外に示すことになり、Iターン、Uターンの促進につながるはずです。


■ ■ ■


プロフィール

高岡裕司氏  

高岡 裕司(たかおか・ゆうじ)


1957年雲南市(旧・吉田村)生まれ。東京の大学を卒業後、広島県内の写真店に3年間勤務。1984年に父親からの誘いで株式会社吉田ふるさと村の設立準備のため帰郷。翌1985年、同社設立に伴い、入社。主に営業を担当するが、同時に新規事業も手がけ、2002年に「おたまはん」を大ヒットさせ、経営安定化と新事業創出の基盤構築に貢献。2005年に専務取締役、2012年6月より現職。

DATA

組織・団体名  株式会社吉田ふるさと村

住所      〒690-2801 島根県雲南市吉田町吉田1047-2

設立      1985年

Webサイト   http://www.y-furusatomura.co.jp/


組織図


吉田ふるさと村組織図.png

おたまはん

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