1. ホーム
  2. 地方創生実践事例
  3. 起業志望の若手に社内事業を任せ、地域の経営者人材として育成

起業志望の若手に社内事業を任せ、地域の経営者人材として育成

岡嘉紀氏.gif

長野県下高井郡山ノ内町
株式会社WAKUWAKUやまのうち 代表取締役社長
株式会社地域活性化支援機構 地域活性化支援部 シニアマネージャー
岡 嘉紀 氏

山ノ内町の地獄谷野猿公苑には、温泉につかる“スノーモンキー”目当ての外国人が年間約8万人訪れるが、そこから最も近い温泉街の1つ、湯田中温泉の宿泊者数は低迷を続け、長野オリンピック以降の衰退を食い止められていない。そこで立ち上がったのが株式会社WAKUWAKUやまのうちだ。同社の主な取り組みは、インバウンド受け入れ環境の整備や情報発信、そして経営者人材の育成。昨年1年間で4軒オープンしたホステルや飲食店は、当地での起業を志望する若者たちが運営を担っている。同社は彼らを社員として採用し、一人前の経営者に育て上げるという独特の手法を取っている。

主な取り組み

◎若手経営者人材の育成
◎空き物件の有効利用に関する企画・調査・斡旋・運営
◎地域資源を活用した商品の企画・立案と販売
◎飲食店・宿泊施設・土産品店などの経営
◎ツアーの企画・運営
 ・志賀高原で星景や夜景を撮影する「湯けむりナイトフォトツアー」の企画・運営
◎観光情報の発信
 ・スノーモンキーをフックとした、国内外からの誘客促進
◎イベントの企画・運営
 ・湯田中温泉のメインストリート・かえで通りをランタンのイルミネーションやアートの展示などで飾るYamanouchi Lanternの企画・運営
◎印刷物のデザイン・製造・販売
 ・着地型観光商品の発信、滞在と周遊の促進を主な目的に、周遊マップ、各種チラシなどを作成
 など

社員としてしっかり起業準備

WAKUWAKUやまのうち起業プロセス.gif 独立を目指す若手経営者育成の流れ。給与を支払いながら社内事業として“起業”させ、事業が成長期に入った段階で独立を支援する

――御社が将来の経営者の育成を重視するのはなぜでしょうか。


岡:地域を活性化するには、3つの要素が必要だと考えています。1つ目はその地域に新たな雇用が生まれること。2つ目は職業や夢も含めて、地域の人々の選択肢が増えること。3つ目は、新しい取り組みが次の世代、その次の世代へと継承されていくことです。この3つがうまくつながることこそ、地域の活性化、地方創生だと思います。

 そのためには、まず事業を起こし、地域の雇用を担う経営者が欠かせません。私たちもいくつかの失敗を経て、まずはファンドなどを活用して経営者人材を育成することが必要だという結論に至りました。


――どのような姿勢で、地域で起業したい若手と接していますか。


岡:地域で事業をやりたいという若者は多いと思います。ただし、そうした若者は、地域に対する愛着や意欲は持っていますが、まだ自立していませんし、資金も借りられません。手持ちの資金で始めたはいいものの、経営の知識がなくて、すぐに失敗するケースも少なくないのです。それでは地域の活性化の原動力たりえないし、もったいない。

 経営者人材として育成し、将来、地域の事業者として自立させ根づかせるため、当社は起業家としての見込みがある若手を社員にして給与を支払いながら、起業の初期段階を社内事業としてやらせます。具体的には、彼らが本質的にやりたいことを尊重しながら、きわめて具体的なKPIを設定し、新しいお店の企画・設計や運営を任せます。そして、マーケティングや間接業務など、さまざまな支援を行って事業の安定化を図り、いずれ成長段階に入ったら、当社から独立することも歓迎する。これが当社の“ひとづくり”の考え方です。

若手が担う店や宿で賑わいをつくる

wakuwakuやまのうち図1.gif 「WAKUWAKUやまのうち」の事業スキーム。

HAKKO.gif ビアバー&レストラン・HAKKO。夜の滞在環境を補完するため、青果店だった建物をリノベーションした。長野の発酵文化や地域食材の発信をテーマにメニューづくりをしている。CHAMISE.gif旧洋品店を改装したCHAMISE。飲食を楽しみながら次の行き場所を考える周遊の起点、地域の情報発信基地となっている。

――岡さんが関わる“まちづくり”、湯田中温泉の活性化は、どのように推進してこられたのですか。


岡:湯田中温泉の活性化は、もともと長野県の地銀・八十二銀行の取り組みでした。さまざまな経緯を経て、2015年3月に八十二銀行をはじめとする県内の全地域金融機関と、私の所属する地域経済活性化支援機構(REVIC)が出資して、ALL信州観光活性化ファンドを立ち上げ、山ノ内町が「観光まちづくりモデル」のパイロット地域とされました。

 その“まちづくり”をリードする司令塔的な役割を担い、前出のファンドの投融資第1号として、合同会社WAKUWAKUやまのうちを株式会社に改組して設立されたのが当社です。社長の私と副社長がREVICから派遣され、八十二銀行から2名の支援をいただいています。そして事業責任者(取締役)2人。この計6人が主要メンバーです。

 「WAKUWAKUやまのうち」の取り組みは、観光まちづくり会社である株式会社WAKUWAKUやまのうち、不動産を扱う株式会社WAKUWAKU地域不動産マネジメント、情報発信や商品企画を行うWAKUWAKUやまのうちまちづくり協議会で構成されます。活用する物件は、所有と運営を分離する形としており、株式会社WAKUWAKU地域不動産マネジメントが物件を取得もしくは賃借してリノベーションを行い、当社やほかの事業者に貸し出すのです。我々はこれを“まちづくり”と位置づけています。


――2016年には、起業志望の若手社員が運営する宿泊施設や店を4軒もオープンされています。


岡:4月に開店したビアバー&レストラン・HAKKOが最初です。5月には英語対応もできる案内所兼カフェ・CHAMISEを開店しました。これは周遊の起点になる“情報発信基地”でもあります。10月にはバックパッカーなどが安く泊まれるホステル・AIBIYAもオープンさせました。

 4つ目のZENというホステルも9月に開業しましたが、これは当社直営ではなく、取得・改修した建物を外部の新規事業者に賃貸しています。不動産の所有と運営を分離するのは、連鎖倒産を回避するだけでなく新規に参入しやすくする狙いもあるのです。

 4店舗とも、インバウンドの受け入れという点で湯田中温泉には不足していた機能で、かつて湯田中駅前のメインストリートであったかえで通り沿いに設けました。1998年の長野オリンピック以降、観光客が減って休廃業旅館が増えたかえで通りに賑わいを取り戻すことを目指しています。

 ちなみに、我々がつくった周遊マップを見るとわかりやすいですが、既存事業者の店舗がいくつかあるところへ今回の4店ができ、駅からCHAMISEを起点にして街全体を周遊できるようになっています。

地域に育てられ一人前の経営者人材に

AIBIYA.gif  ホステル・AIBIYA。廃業旅館を取得、リノベーションした。バックパッカーは、まだ来訪の少ない層の1つ。県内に宿泊する外国人の70%が成田空港で入国するなどの背景から、東京のホステルに拠点を設け、山ノ内町に誘客する計画もある

──若手社員が店や宿を運営するに至るまでの例を、1つお聞かせください。


岡:AIBIYAを運営している社員は当社の取締役で、宿泊事業部長でもあります。彼は海外のホステルで3年ほど働き、12カ国21都市のホステルを泊まり歩いた経験もあります。彼は帰国後、こうした経験を生かして地元でホステルを始めたいと考えましたが、資金調達やノウハウ面の課題がありました。ちょうどその時にファンドができる話があり、彼と八十二銀行の出会いがWAKUWAKUやまのうちへの支援へと発展したのです。彼は、「8年間思い続けてきたことをようやく実現できた」とやりがいを持って事業を運営し、近い将来の独立を目指しています。


――若手社員が運営する店や宿に対しては、どのように関与するのですか。


岡:基本的に、私からは「こうしなさい」と指示は出しません。宿でも店でも各自がやりたいことをやってほしいのですが、詳細なKPIで制約はかけます。当社があらゆる支援をするとはいえ、責任と権限のバランスは肝要です。


――ふだんどのように支援されているのか、具体的にお話しください。


岡:週に2度は現場に出向くとともに、隔週水曜日に経営会議を開いて数字などの進捗を確認します。また、経営会議などを通じて、彼ら自身が戦略的思考や事業運営の勘どころを身につけるためのヒントを提示し、成功する思考の深さや細かさ、仕掛けた打ち手と収支の関係性などを体感してもらうように留意しています。

 例えば最近、HAKKOでは、開店時は賑わったもののリピーターが少ないなどで伸びてこないなどの悩みが出てきました。そこで、サービスを分析するフレームワークを提示して競合とも比較し、足りないところを補うようにしました。また、戦略的に広報をする考え方や具体的にどのくらいのスパンで取り組むべきかなどをアドバイスしました。彼らにはもともと、自分たちで何とかしようという気概があるので、自分の失敗を踏まえて考え方や手法を提示することで、ぐっと成長します。


――若者のよいところは、どのようなところでしょうか。素直で吸収が早いとか……。


岡:素直というのは、どうでしょうね……。自立志向のある人を社員として採用していますが、そういう若者は主張があり、アドバイスを鵜呑みにすることはないと思います。でも、将来経営者になる人材は、そうあるべきです。そして、こちらにも彼らの主張を受け止めて、それを上回る力量が求められます。

 地元の若者の一番の強みは、地域から応援されることです。若者は不思議と温かく見守られ、地域に育ててもらえるものです。地方創生には、多くの人が心を合わせる必要があると思います。

 地域の若手人材が頑張っていると、SNSなどを通じて自然とそういう若者が集まってきます。我々は、彼らのネットワークも含めて、地域に埋もれている人材を常に探しています。例えば、離職率が高いと言われる旅館の従業員などにも、埋もれている人材は多くいると思いますし、都市部で働いていても条件が整えば地元に戻りたい若者は呼び戻したいですね。

 地域に愛される若者の、若者であるがゆえの力は大切にすべきで、成長したあかつきには彼らが地域を先導していってくれるでしょう。


■ ■ ■


プロフィール

岡嘉紀氏.gif 

岡 嘉紀(おか・よしのり)


1977年兵庫県三原郡西淡町(現・南あわじ市)生まれ。2000年関西学院大学経済学部を卒業。繊維メーカー勤務ののち、投資会社やコンサルティング会社において観光・流通・環境・災害復興支援など幅広い分野で事業プロデュース・事業戦略コンサルティングに携わる。2015年から現職。地域での起業支援や地域活性化のモデル創出に取り組んでいる。

DATA

組織・団体名 株式会社WAKUWAKUやまのうち

住所 〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏2997-4

設立 2014年4月(2015年8月、合同会社から株式会社へ組織変更)

Webサイト http://wakuwaku-yamanouchi.com/

WAKUWAKUやまのうち図.gif

wakuwakuやまのうち図1.gif

AIBIYA.gif

この事例に対するレビュー






    タグ

    • 地方創生実践事例
    • 観光・DMO
    • 人材育成
    • インバウンド
    • 周遊型観光
    • 中部地方

    シェアする