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広域連携DMOで瀬戸内のブランド化による地域活性化に挑む

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瀬戸内7県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)
一般社団法人せとうち観光推進機構
事業副本部長 岩瀬 俊一 氏

一般社団法人せとうち観光推進機構は、瀬戸内エリアのブランド化による地域活性化を目的に、2016年4月に活動を開始。兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県の7県が2013年に設立した任意団体・瀬戸内ブランド推進連合を前身とし、観光、交通、メーカー、流通など、さまざまな民間企業、団体が加わって発展改組した団体である。7県の金融機関などを中心に設立された株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションとともに「せとうちDMO」を形成し、瀬戸内エリアの集客と周遊促進、瀬戸内をテーマとしたプロダクト開発などを促進することにより地域が潤う仕組みづくりに取り組んでいる。

主な取り組み

◎従来、各県単位で実施されていない機能の充実を図り、瀬戸内エリアのブランド化に向けたプラットフォームの整備を実施
 ・マーケティングプロモーション:インターネットを効果的に活用したデジタルマーケティング機能を実装し、旅行博出展や招聘事業と組み合わせた効果的なプロモーションを実施
 ・エリアマネジメント:エリア全体のコンセプトに基づく観光地域づくりに向けた整備水準の設定およびそれに資するツールの開発等
 ・プロダクト開発の促進・支援:観光産業の成長を図るため、せとうち観光活性化ファンド等による直接的事業者支援のほか、メンバーシップ事業による包括的事業者支援やテーマ別部会によるプロダクト開発促進を実施
 など

広域連携の必要性

――瀬戸内7県という広範囲での連携が、なぜ必要なのでしょうか。


岩瀬:まず、我々のミッションですが、瀬戸内ブランドの確立による地方創生の実現を掲げています。瀬戸内が一度ならず二度、三度と訪れたい場所として定着し、国内外から人が集まり、地域が潤い、輝かしい未来に向けて住民の皆様に誇りと希望が満ちている。そんな瀬戸内のあるべき姿の実現に向けて取り組んでいます。

そのためには、瀬戸内を観光地として確立させ、交流人口の増加を図ることは大前提となりますが、交流人口の増加をビジネスチャンスと捉え、域内に観光ビジネスを創出し、地域が潤う仕組みをつくる。それによって、住民満足度を高めるということが最終的な組織目標になるものと考えています。

 こうした基本方針のもと、旅行消費額をいかに増やしていくか。いかに地域が潤う仕組みにつなげていくかが重要であると考えています。

 そのためには、効果的に誘客を行い、お客様を増やすことはもとより重要ですが、瀬戸内各地の周遊を促進し、できるだけ長く瀬戸内にご滞在いただき、繰り返し訪問していただけるようにすることや、瀬戸内の酒や旬の食材を楽しんでいただき、お土産にも瀬戸内の産品をご購入いただく。そんな取り組みが重要であると考えています。

 このような取り組みを行うためには、周遊ルートを形成できる相当広域での取り組みが不可欠であり、またこれくらいの規模でなければ、海外からの目にはとまらないのではないでしょうか。瀬戸内7県が広域の周遊ルートの形成に向けて連携していくことは必然の動きであったものと考えています。

 事実、海外の旅行代理店などでは、ゴールデンルートに続く新たな広域の周遊ルートが求められており、商品造成のためにそうしたルートを提案してほしいとの話はよく耳にしますし、現にトラファルガー社には、大阪から淡路・琴平・松山・広島を周遊する旅行商品を造成していただきました。


――7県には、地理や自然条件など多くの共通点がありますね。


岩瀬:瀬戸内地域は、南と北を中国山地・四国山地に挟まれた温暖で清らかな水資源を有し、美味しい食材がたくさんあるという点や、古くから海上交通の要として栄え、有名な源平合戦や海賊衆活躍の舞台となるなど、瀬戸内を共有することで、気候・風土、歴史・文化など、多くの共通項があります。

 その一方で、瀬戸内の各地域には多彩できらめくような個性があります。そもそも瀬戸内海の海の色ひとつとっても山陽側からと四国側からでは、光も色も、印象そのものはまったく違うものとなりますし、各地には、よく知られているものだけでも魅力的なアート資産やブランド産品がたくさんあり、もっと知ってほしい魅力的なコンテンツとなると数え切れない資産・産品があります。

 しかし、個々の地域がそれらを単体で発信しても限界があり、情報を届けるターゲット自体もはっきりしていないのではないでしょうか。そこを克服し、ターゲットに的確に伝えるには、瀬戸内で連携し、周遊ルートに位置づけて発信力を高め、地域の魅力向上につなげていくことが重要だと思っています。


――プロモーションが巧みでも、観光客がよい旅行を楽しめなければ意味がありません。観光振興の鍵は何だとお考えですか。


岩瀬:アクセス、観光コンテンツ、多言語対応などの受け入れ環境など、観光振興のためにはさまざまな観点からの取り組みが必要であり、これを1つに絞ることは難しいと思いますが、あえて申し上げるとすると、それは“人”ではないかと思います。

 良い旅行とは何なのか、ある旅行者が飛行機や電車で瀬戸内にやってきたとします。オンリーワンのコンテンツを体験し、宿で癒され、地元の食を満喫した。ここまでは100点であり、「また来たい」となると思います。しかし、これはあくまで例えばの話ですが、空港までの帰りのタクシーがひどく感じが悪かったなど、旅の過程に1つでもハズレがあるとすると、旅行全体が台無しになってしまうと思います。

 観光は裾野の広い産業と言われるとおり、1つの旅行にもたくさんの事業者・人々がさまざまに関わっています。

観光を振興するためには、観光に携わるさまざまな事業者・人々が、自らも瀬戸内の観光に携わっているのだということを念頭に、それぞれのサービス、商品の不断のブラッシュアップに取り組んでいただくことが重要だと思っています。

 そのため、我々の活動に対する理解者や賛同者を増やし、より多くの事業者・人々と意識の共有を図っていきたいと考えており、メンバーシップ事業による取り組みや、住民の皆様自身による瀬戸内の情報発信との連携が進むよう取り組んでいます。


瀬戸内ブランド.gif 瀬戸内ブランド登録制度は瀬戸内ブランド推進連合から引き継ぎ、登録数は累計で約600にのぼる。地域産品等に限らず、観光関連サービスも登録対象だ。 

――瀬戸内はあまりに広域です。エリア内の全事業者に施策の恩恵が及ぶとは限らないと思いますが。


岩瀬:「瀬戸内のブランド化を進めていることは認識しているが、自分の地域への恩恵が少ない」などの声も出てくるかもしれません。

 しかし、日本の人口は減少傾向にあり、国内のお客様を奪い合うのでなく、互いに連携して国内外から観光客を呼び込み、活力を維持していくことが重要だと思います。

 他地域が広域に連携し、プロモーションやプロダクト開発、観光地づくりに取り組むことで、認知度を高め、誘客の実を上げていくなかで、連携による取り組みがなければ瀬戸内は大きく地盤沈下するのではないでしょうか。まずは瀬戸内に、今以上にお客様を呼び込むことで底上げを図り、そこからそれぞれの地域や事業者が地域や商品などの魅力を高め、周遊のお客様をどう誘客していくか、我々もともに考えていくことが重要であると思っています。

 瀬戸内の生き残りのためには、広域連携による誘客が不可欠であり、そのために各県が連携し機構を設立したところです。常に初心に立ち返り、意識共有を図れるよう、我々も発信し続けていく必要があると考えています。

人々や企業との連携を促進

瀬戸内ファインダー.gif 瀬戸内在住のライターやフォトグラファーが知られざる瀬戸内の魅力を発掘・発信する「瀬戸内ファインダー」(http://setouchifinder.com/)。

――観光振興、とりわけプロモーションにおいてはどんな人材が必要ですか。


岩瀬:ブランディングに専門的な見地を有する方や、地域活性化・まちおこしを経営的な視点から指導できる方なども考えられますが、個人的には、デジタルプロモーションを含むマーケティングの専門人材が必要だと感じています。

 いわゆる“心に刺さる”プロモーションとはどんなものか。アジアの人々には画像や映像、欧米の人々にはテキストによるプロモーションが定番とされていますが、国・地域ごとに、また世代ごとに“刺さるプロモーション”、“刺さるコンテンツ”はどういうものかを理解されている方が我々とともに活動していただけると大いに助かると思います。そのための的確な調査手法を考えていただけるだけでもありがたいと思います。

 また、我々は、「瀬戸内ファインダー」というWebサイトを設けて情報発信に取り組んでいますが、そのライターの方々も、どんな表現を用いて、どのように伝えれば、瀬戸内の魅力を届けられるのか、工夫を重ねながら、熱心に取り組んでいただいています。住民の皆様のなかにも、瀬戸内の魅力発信に主体的に取り組まれている方もいらっしゃるので、そうした方々とも連携し、さまざまな方面からの情報発信が進むようになればと思っています。


――「瀬戸内ファインダー」ではそのような思いを持つたくさんの方々が活躍されているように思います。


岩瀬:「瀬戸内ファインダー」は我々の自社メディアと位置づけられるWebサイトであり、瀬戸内在住のライターやフォトグラファー25人が、地元に密着し瀬戸内の魅力を発信しており、3年前の開設以来、着実にファン数を増やしています 我々のプロモーションは、“ありのままの瀬戸内の魅力”を発信することを基本に、観光資源を一からつくるよりも、瀬戸内にあるコンテンツに対して親和性の高い人々をターゲットと考えており、そのためには、“刺さるコンテンツ”を掘り起こし、“刺さる表現”による発信が必要になります。インバウンド対策の一環として、本年度から、外国人ライターにも加わってもらい、外国人目線での情報発信にも取り組んでいます。


――活躍できる環境があれば、発信の担い手はどんどん増えるかもしれませんね。


岩瀬:住民の皆様にも発信の場を持ってもらえるような仕組みをつくろうと取り組んでいます。

 また、外国人留学生との交流を深めるなかで、瀬戸内の魅力を母国にSNSなどで伝えてもらえる場も設ける予定です。こうした取り組みを7県で展開すれば、留学生同士のネットワークづくりにもつながるものと考えています。

 また、当機構と株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションが連携した「せとうちDMO」により、メンバーシップ事業(会員制度)を2017年2月から実施予定(取材当時)です。域内の観光関連事業者の皆様との連携のための一方策と考えており、新サービス・商品の開発や発掘、販路拡大をお考えの事業者の皆様のビジネス支援と提供されるサービスなど、ブラッシュアップが一体的に図られるような事業を考えています。

 外国人顧客とのトラブル時における多言語コールセンターや、ECサイト活用など、事業者の方々が、個々には対応することが難しい業務サポート機能を提供するほか、各種情報提供、勉強会の開催、「瀬戸内ファインダー」への記事掲載による情報発信など役立つサービスの提供を考えており、今後、たくさんの事業者の皆様にお声がけし、連携の基盤づくりが進むよう、全力で取り組みたいと考えています。



■ ■ ■


プロフィール

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岩瀬 俊一(いわせ・しゅんいち)


1981年、香川県庁に入庁。住宅課長、県産品振興課長、香川県大阪事務所所長などを務め、2015年10月から一般社団法人せとうち観光推進機構設置準備室副室長。2016年4月に同機構発足に伴い出向、事業副本部長に就任した。

DATA

組織・団体名 一般社団法人せとうち観光推進機構

住所 〒730-0011 広島県広島市中区基町10番3号 広島県自治会館2階

設立 2016年4月

Webサイト http://setouchitourism.or.jp/


参画県および企業

・兵庫県

・岡山県

・広島県

・山口県

・徳島県

・香川県

・愛媛県

・中国経済連合会

・イオンリテール株式会社中四国カンパニー

・株式会社近畿日本ツーリスト中国四国

・サントリーホールディングス株式会社

・四国旅客鉄道株式会社

・株式会社JTB中国四国

・タイムズモビリティネットワークス株式会社

・西日本旅客鉄道株式会社

・日本航空株式会社

・株式会社日本旅行

・三井物産株式会社中国支社

・楽天株式会社トラベル事業

・株式会社リクルートライフスタイル


「せとうちDMO」としての関連図

瀬戸内ブランド組織図.gif

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