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地域住民と連携したエコツアーを通じて地域に貢献

江崎貴久氏.gif

三重県鳥羽市
有限会社オズ(海島遊民くらぶ)
代表取締役 江崎 貴久 氏

「海島(かいとう)遊民くらぶ」は、地域住民と連携し、観光客が鳥羽の自然と暮らしを体験できる各種エコツアーを実施することで、地域の活性化に貢献してきた。その活動を先導してきたのが、地域住民から“きくちゃん”の愛称で慕われている、有限会社オズ代表取締役の江崎貴久さんだ。

主な取り組み

◎鳥羽の自然や暮らしなどを体験してもらう各種エコツアーの実施
◎環境省レンジャー(自然保護官)の仕事を小中学生に体験してもらう環境教育プログラムの実施
◎菅島、神島の小学生が外部から来た人に自分の島を案内する「島っ子ガイド」「神島っ子ガイド」を実施
◎ガイド志望者、行政関係者などに研修・視察プログラムを提供
◎観光や地域づくり、エコツーリズムなどに興味がある学生、社会人を一定期間受け入れ
◎観光・地域活性化の講師・アドバイザーの派遣
◎バリアがそのまま残っていても、障がい者等が楽しい旅を送れるようにするバリアフリーエコツアーの実施
◎海女漁の被害を防ぐため、密漁パトロールを実施(ツアー中)
など

“観光から感幸(かんこう)へ”がファーストステップ

海島遊民くらぶ前.gif 「海島遊民くらぶ」のオフィス

「海島遊民くらぶ」のスタッフ.gif 「海島遊民くらぶ」のスタッフ(左から海外営業担当のDwindaさん、江崎さん、事業部長の兵藤智穂さん)

──江崎さんは、生家の旅館を継ぐために1997年に鳥羽に戻り、女将になられました。女将業で日々お忙しいなか、「海島遊民くらぶ」を始められたきっかけについてお話しください。


江崎:女将になったのは、一度倒産した実家の旅館・海月(かいげつ)を立て直すためです。戻ってきた当時は、預金通帳に残高がほとんどない状態でしたが、あまり難しく考えない性格なので、がむしゃらにいろんなことに挑戦しました。すると、数字は徐々に上向いていったのですが、4年後ぐらいから再び数字が落ち込んだのです。「何でやろ?」と思ったら、周りの旅館がバタバタと倒れているのに気がつきました。自分だけ頑張っても、地域が落ち込めば、自分のところもだめになる。鳥羽の自然、住民、暮らし、全部大好きでしたから、地域のために何かやらなきゃと思うようになったわけです。


──地域のためにやれることはいろいろあると思いますが、とりわけ体験実習型のエコツアーに着目されたのはなぜですか。


江崎:今までの観光のあり方で、鳥羽の本当の魅力がお客さんに伝わっているか、そんな疑問を感じたからです。子供の頃から海で釣りをしたり、釣った魚を焼いたりといった日常が身近にあり、それが楽しくてしかたありませんでした。自分たちが楽しいと思うことを形にしたら、つまり鳥羽の自然や住民の暮らしをもっと深く知っていただけるように案内したら、お客さんや地域住民にも幸せを感じてもらえるのではないか。そう考えて、“観光から感幸へ”を最初のミッションに掲げて、体験実習型のエコツアーの企画・運営を始めました。

共助のなかから新しい何かが生まれる

島っ子ガイド.gif  「島っ子ガイド」は現在、菅島だけでなく神島でも実施されている

──「海島遊民くらぶ」では、地域住民に協力してもらうツアーを多数取り揃えていますが、このスタイルは最初からですか。


江崎:最初は「釣りツアー」から始めたのですが、当初は地域住民との交流はなかったですね。このツアーにしても「漁師さんに迷惑をかけちゃあかん」と思って、「堤防で釣りをさせてください」とお願いしただけです。でも、離島は共助の精神やコミュニティがしっかりしているので、目の前で黄色い帽子をかぶった子どもたちが釣りをしていると、漁師さんのほうから関わってくれるようになりました。例えば、亀がたまたま網にかかったら、海に戻す前に、子どもたちに見せてくれるとかね。

 菅島の小学生たちが島を案内する「島っ子ガイド」も、菅島に住むお母さんやおばあちゃんの何気ないひとことから生まれてきました。


──いろいろやっていくなかで、地域住民との絆が深まり、協力者の数も増えていったわけですね。


江崎:周りの人にずいぶん助けられました。例えば2004年に始めた「無人島ツアー」でも、法律に触れてはいけませんから、どこに何を申請したらいいのかなど、わからないことだらけ。四苦八苦していたら、三重県庁の観光を担当するセクションの方が、「きくちゃん、ちょっと調べてみますよ」と言って、考えられる限り必要な人たちに声をかけてくれました。こうして集まった方々からいろんな知恵を出していただき、無事「無人島ツアー」を募集できるようになりました。

 私は人に「助けて」となかなか言えないタイプでしたが、その一件以来、困った時は「誰に、何を、どのように話せば一番いいかな」と考えるようになりました。きちんと人に頼れること、頼るコツを学ぶことが必要なのです。もちろん、いつも頼ってばかりではなくて、きちんと相手にお返しするという当たり前の理屈もわかっていないとだめだろうなと思います。そして、最終目的は、幸せを感じるだけではなく、事業によって幸せになる“成幸”です。

多様な能力を持った人材の育成が本当の地方創生

お礼の色紙.gif
ほかの地域で「島っ子ガイド」に取り組んだ子どもたちからは、江崎さん宛にお礼の色紙が届いている

──頼り、頼られるとは、先ほどお話に出た“共助の精神”に通じるものがありますね。


江崎:地方創生に関連して、しばしば連携の重要性が叫ばれますが、連携とは結局、相互依存関係をどうやってつくっていくか、どういう接点で相互依存が生まれてくるのかがとても大事だと思います。知り合いになりさえすれば連携できるというわけではありません。

 今は、エコツーリズムのなかで相互依存関係を──言い換えると、“いいしがらみ”をいかにデザインするかを考えています。それをたくさんつくれば、そこから新しい接点が生まれ、何かを生み出せる。その際、人と人とをうまくつなげていく必要があり、それができるのはやはり人しかいません。人と人をうまくつなげられる人は、相手にとって今何が必要かを考え、そのための対応ができる人だと思います。そういう人材をこれからも育てていきたいと思っています。


──今、地方創生で求められている人材は、“いいしがらみ”を数多くつくれる人、デザイン力のある人ということでしょうか。


江崎:もちろん、それだけではありません。プロデュース能力、マネジメント能力、新しいものを発掘する能力など、多様な能力を持った人材が必要で、本来、これらの能力を持った人材が地方にいるべきなのです。

 今までは地方に対して、雇用の創造、つまり仕事という枠をつくることしかやってきませんでした。そして、何かをプランニングする時に必要な調査分析能力、調整能力などは、都市部から呼び寄せた人材でまかなってきたと思います。でも、地方が自立するためには、枠ではなくて、その中身をつくることが重要で、これらの能力を持った人材が地方にいないといけないし、地方で育てていかなければなりません。そうした人材を地方で増やしていくことが本当の地方創生ではないでしょうか。人材こそ、地方の一番の社会資本なのですから。


■ ■ ■


プロフィール

江崎貴久氏.gif
 

江崎 貴久(えざき・きく)


1974年鳥羽市生まれ。1996年京都外国語大学外国語学部を卒業、株式会社エトワール海渡入社。1997年、生家の旅館・海月を継ぐためにUターンし、5代目女将に就任。2001年に有志とともに有限会社オズを設立し、「海島遊民くらぶ」を立ち上げた。現在は観光事業所・関連団体、産業関連団体、行政などが参加する鳥羽市エコツーリズム推進協議会の会長も兼務。

DATA

組織・団体名 有限会社オズ(海島遊民くらぶ)

住所 〒517-0011 三重県鳥羽市鳥羽一丁目4-53

設立 2001年9月

Webサイト http://oz-group.jp/


組織図

オズ組織図.gif

鳥羽市エコツーリズム推進協議会の組織図・構成団体

鳥羽市エコツーリズム推進協議会の組織図_s1.gif

一般財団法人伊勢志摩国立公園協会/鳥羽市観光課/いせしま森林組合/鳥羽市観光協会/NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンター/鳥羽市自治会連合会/海の博物館/鳥羽志摩農業協同組合/相差海女文化運営協議会/鳥羽商工会議所/海島遊民くらぶ/鳥羽市水産研究所/環境省中部地方環境事務所/鳥羽市旅館組合連絡協議会/島の旅社推進協議会/鳥羽まちなみ水族館/鳥羽磯部漁業協同組合/パドルコースト/鳥羽ガイドボランティアの会/兵吉屋はちまんかまど/鳥羽観光施設連合会/三重県雇用経済部観光・国際局観光誘客課/鳥羽市環境課/三重県農林水産部みどり共生推進課公園管理G

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