農村型DMOによるゼロから観光地となった日本文化体験の観光
栃木県大田原市
株式会社大田原ツーリズム
代表取締役社長 藤井 大介 氏
大田原ツーリズムは、大田原市と民間会社の合弁で2012年に設立された旅行会社だ。代表取締役社長の藤井大介さんは事業者としての意識を重視した経営で、大田原の魅力を内外に発信し、農家民泊とさまざまな体験ツアーを行うグリーンツーリズムを推進。国内企業や団体の体験ツアーのほか、海外からの団体客も受け入れている。
主な取り組み
◎農家民泊と農業体験を中心とした旅行の企画運営
◎企業旅行の企画および受け入れ
◎海外からの団体体験旅行の企画および受け入れ
◎ネイチャーゲームやリバートレッキングなど自然体験プログラムの実施
◎座禅や写経体験、寺社巡りなどによる日本文化体験プログラムの実施
◎陶芸や竹細工などクラフト工芸体験プログラムの実施
など
年間3万人の受け入れを視野に入れるグリーンツーリズム
──藤井さんはどのようなきっかけでグリーンツーリズムを始められたのでしょうか。
藤井:「グリーンツーリズムによる地域活性化」はもともと大田原市長の公約でした。その具体的な事業計画をつくり、事業運営をしてほしいとの要望を受諾したのがきっかけです。当時、市長の「これは本気で取り組む」という言葉で事業を始めました。埼玉生まれの私は、実はそれまで大田原は観光としても訪れたことがない場所でした。
──では、事業の立ち上げ当初はかなり苦労されたのではありませんか。
藤井:大田原ツーリズムと言えば地元では皆さんに知られてきましたが、当初はさまざまな誤解や妄想もありました。
民泊を受け入れてもらうのも最初は大変でした。一軒一軒回って挨拶をして、それを何度も繰り返して信頼関係を築いていきました。ただ、地方の人が閉鎖的かというとそんなことはありません。まったく知らない人でもきちんと挨拶にいくと、家に上げてくれることもあり、お茶やお菓子まで出していただき、1時間話していただくこともあります。
──集客数は順調に増えているようですね。
藤井:観光交流人口では、事業を立ち上げた1年目の2012年度が189人、2年目が806人、3年目が3923人、4年目が概算で約6500人だったのが、2016年度は8000~1万人と見込んでいます。内訳は、国内からが約7割で、残り3割は外国人の旅行客となっています。そして、受け入れ農家が増えれば、もっと多くの集客に対応可能です。現在、農家民泊の軒数は約120軒ですが、300軒まで増やし、3万人の受け入れ体制をつくるのが目標となっています。
地域経済に貢献するアクティビティの広がり
大田原市の牧場では、ホルスタインの放牧のほか、牛の排泄物を発酵させた堆肥で野菜を育てる循環型農業を行っている農家もいる。
──地元への経済効果はいかがですか。
藤井:大田原は観光地ではないので、大きなホテルがあまりありません。宿泊先は農家民泊の形で提供することが多いですが、実はこちらのほうが拡散型で、経済効果が分配されます。例えば、宿泊料だけ考えてみても、ホテルだったら1カ所ですが、民泊だと120軒の農家に分配されます。経済効果の本質は、来ていただいたお客様に、いかに地元にお金を落としていただくかにあります。大田原に来て長く滞在していただければ、お金は地元に落ちていきます。
──具体的にはどのような波及効果があるのでしょうか。
藤井:私たちのお客様は1日で100人、200人規模でいらっしゃることが多いですが、宿泊する際に地元に何軒かある温泉施設に立ち寄られるので、その日は混み合うような時も見受けられます。また、大田原は鮎が有名で、バーベキューをする際のいろいろな具材は地元の事業者さんから購入されますね。田植え体験など、大勢でいっせいに農作業をやるような場合には、事前にお弁当も発注します。
企業のなかには、夜に宴会をしたいという方もいらっしゃいます。その場合、昼間は大田原でさまざまな体験をして、夜は那須や塩原に泊まりにいくなどもあり、広域的な波及効果もあります。
今ご紹介した交流人口の数字は、私たちがアテンドしている数のみです。個人的につながって、会社を通さずに個人で再び大田原にいらっしゃる“リピーター”の数は入っていません。また、お土産を地元で買ってくれる人たちもいますので、それらを含めると、大田原で事業をやっている人たちはもちろん、周辺部の人たちにも経済効果を生んでいます。農家の農村レストランといったものも徐々にできており、地域づくりも進んでいます。
地方創生に必要な優秀な人材とは
──地方創生事業を推進する組織には何が必要でしょうか。
藤井:まず、しっかりした経営者がいることだと思います。そしてブレない役所。事業の中身を面白くできるかどうかは、トップの資質にかかっていると思います。あくまでも組織なので、ビジネスが面白いとか、お金が潤沢だとかという以前に、トップがどうあるべきかです。トップがしっかりしていないと、いい戦略も出てきませんよね。しかし、数あるまちづくり会社のなかには、もともと経営者ではない方やビジネスを知らない方がやっておられるところも多い。経営や事業の現場がわかっていない人がやっても、うまくいかない場合が多い気がします。
──そのようなトップの人材を確保するにはどのようなやり方があるでしょうか。
藤井:私は、地方に人材がいないとは思っていません。ただ、優秀な人材が地方から流失したまま戻ってこない現実も、直視しなければならないと思います。地方から出て行った優秀な若者の多くは、大企業の社員あるいは国家公務員として、その能力を発揮しています。
そのような人たちを地方に呼び戻し、まちづくり会社に迎え入れる仕組みづくりに取り組む必要があります。その方策がなされないと、地方創生は難しいと思います。なぜなら、物事の成功の良し悪しは、人で決まるからです。
現実的な方策としては、トップに支払う報酬を惜しまないこと。そして、優秀な人材が地方を知ったり、経営者として勉強したり、相互にネットワークをつないだりすることをしっかりとサポートすることが重要だと思います。
――具体的な営業を展開し、継続する人材も必要ですね。
藤井:着地型旅行業での人材育成というのは、営業といっても、接客やサービス業的な部分が強いので、人への気遣いの教育は必要です。地道な根気も必要ですし、体験プログラムも考えなければいけない。そして、それが収益につながる必要がある。人柄と根性を兼ね備えること。
さらに、農村自体がライフスタイルに合っていること。そして、これは普通の企業でも同じなのですが、継続する力は大切ですよね。
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プロフィール
藤井 大介(ふじい・だいすけ)
1975年埼玉県岩槻市(現・さいたま市)生まれ。1998年に防衛大学校を卒業後、2002年にThe University of Texas at Austinで航空宇宙工学修士取得。農・食を軸にした経営支援、講演活動に従事しながら飲食・惣菜事業を経営。現在株式会社ファーム・アンド・ファーム・カンパニー(FARM & FIRM COMPANY Corporation)代表取締役を務めながら、2012年より株式会社大田原ツーリズム代表取締役社長を兼務。中小企業診断士。
DATA
組織・団体名 株式会社大田原ツーリズム
住所 〒324-0041 栃木県大田原市本町1丁目3-3 大田原市総合文化会館2階
設立 2012年7月
Webサイト http://www.ohtawaragt.co.jp
他組織との連携図