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まちづくりの自分事化を通じてコミュニティを再生

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愛媛県松山市
株式会社まちづくり松山
代表取締役社長 加戸 慎太郎 氏

まちづくり松山は2005年に設立。商店街のマネジメント機能として前身をスタートさせ、現在は松山市、松山商工会議所、地元銀行、公共交通と地元商店街の出資を受けるまちづくり会社だ。2014年に代表取締役社長に就任した加戸慎太郎氏は、まちづくり松山に“まちを経営する”という視点を取り入れ、産・官・学・金・労・言といった他の組織とも連携を図りながら、松山の活性化につながる取り組みを次々と実践している。

主な取り組み

◎大型モニター(ストリートビジョン、ギャラクシービジョン等)、吊りポスター、横断看板などを活用した公共空間での情報発信
◎商店街に設置された目安箱、掲示板の運営
◎お城下(じょうか)スプリングフェスタ、オータムフェスタなどのイベントの支援
◎拠点駐車場の整備と駐車サービス券の発行・集金
◎商店街共通お買物券の発行
◎「てくるん」(まちなかのコミュニティスポット)の運営
◎中心市街地活性化協議会、都市再生協議会等の市政業務への参加
 など

民主導のまちづくりに転換し、流動性を向上

──加戸さんが2009年にUターンされた頃、松山市はどんな課題を抱えていたのでしょうか。


加戸:松山市に限らず地方全体の問題だと思いますが、一番感じたのは人、金、モノの流動性の枯渇です。地方にずっと住んでいると気づきにくいのですが、都会と比べてみると、その違いは一目瞭然です。

 かつては地方においても、人が増え、金やモノが動くという流動性がありました。だからこそ、公共事業、補助金、企業誘致などの手段を使って行政主導でまちづくりを推進しても、うまく回すことができたのです。

 従来のまちづくりの手法が間違っているとは思いません。しかし、流動性がどんどん低下している状況下では、これまでのやり方を改善しなければならない。そこで重要になってくるのが、まちづくりを民主導に改め、特に人と金の新陳代謝のサイクルを上げていくことだと考えています。


──まちづくり松山でも、流動性の向上をメインテーマに掲げていらっしゃいますね。


加戸:そうです。ただし、1つに取り組んだらそれで終わりではありません。まちごとにそこにいる人、人が持つ想い、課題、歴史はすべて異なるため、それを混同して同じ施策をとることはできません。これからは、新しいフレームワークによって、まちごとに必要な施策を効率的に取捨選択し、当然PDCAサイクルを回す。その後の効果検証ができる仕組みや制度をつくるべきです。このフレームワークとなりうるのが、“まちを経営する”視点を持ったまちづくり会社だと考えています。


まちづくりの自分事化がポイント

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2016年で第4回目を迎えた「お城下スプリングフェスタ」。イベント開催中の来街者数は約2.0倍に増加し、小学生以下に限ると、その数は約6.5倍になるという(イベントを開催した日曜日と、その2週間前の日曜日を比較した数字で、計測時間は4時間)。

──近年、まちづくりに無関心な人々が増えているように思いますが、そうしたなかで“民主導”に変えていくのは大変ではありませんか。


加戸:確かに、最近、自分の周りで起こっていることが他人事(ひとごと)になっている人は多いですねでも、ちょっと考えてみてください。地方で暮らしている限り、生活環境、仕事環境、遊ぶ環境の3つは、最低限自分にも関係してくるのですから……。まちづくりとは全部自分に返ってくる言葉であって、他人事ではなく自分事なのです。


──まちづくりを自分事化するには、どうすればよいとお考えですか?


加戸:第一段階は、きっかけを与えて、自分のまちに興味を持ってもらうことです。すると、まちに関してもっと知りたいと考えるようになり、それが行動につながります。例えば、あるイベントに参加したいと手を挙げた人がいたとしましょう。その人は、イベントの準備を進める過程でそれに対する思い出が蓄積され、結果として、まちに対する愛着が深まっていきます。その際、何のためにやるのかというビジョンを話し、まちづくりに関わる全員で共有することがポイントです。志を同じくする仲間が増えていかなければ、まちづくりは継続・進展しません。

──ビジョンを語ると、共感してくれる人は多いのでしょうか。


加戸:いいえ、そう単純な話ではありません。地道なコミュニケーションが必要です。例えば、何か会合を持つ場合、僕は商工会議所を通じて連絡してもらったり、一人ひとり回って参加を呼びかけたりしたのですが、「あの人が行くなら、俺は行かなくてもいいよね」と言われたこともあります。積極的に動いてくれる人もいましたが、様子見する人、自分の利益にならなければ動かない人が大半。だからこそ、一人ひとりに会って話をする際、ビジョンを語ると同時に、皆さんの想いも聞いていったのです。そして、何か想いが出てきたら、必ずそれを取り上げて、皆でつくり上げる形に持っていきました。自分の提案が取り上げられたら、「ノー」とは言えないのが人情ですよね。そうする過程で、皆の頑なな態度を“溶かして”いき、様子見する人を活動の場に引き出していったのです。

 地域の活性化で重要なのは、中心になって動く人の円卓の輪を少しずつ広げていくことと、世代を超えてまちづくりに関わる人々の連携を強化していくことです。リーダーだけ、やれる人だけでやるのはタブーで、リーダーには人々をつなげていくためのファシリテーション能力が必要になります。

“まちの経営者”を地方で発掘して育成

──加戸さんのこれまでの活動を踏まえ、地方創生にはどんな人材が必要だと思われますか。


加戸:地域経営で重要な項目は、外貨の獲得、地域内の資源循環、省エネ都市構造の3つです。これに寄与できる人材──言い換えれば、“まちの経営者”を地方で発掘し、育てていくのが重要です。都会からコンサルタントを呼んで、処方箋を書いてもらうだけでは、ほとんどの場合、地方の活性化にはつながらないでしょう。コンサルタントには当事者意識がありませんし、リスクをとれないので、実行力もありません。PDCAのうち、一番の“カギ”となるのはActionです。


──そういった意味では、まちづくり松山は人材育成の場であるとも言えますね。


加戸:そのとおりで、実際、そういう意識を持ちながらまちづくり松山を運営しています。例えば、あるイベントを行う場合、お金の管理から、地主さんの説得、ビラ配り、後片付けに至るまで全部自分たちでやります。自分で経験したことは、スキルやノウハウとして蓄積されますし、将来、別の人がそのイベントを主導したとしても、気持ちがわかりますから、足を引っ張るのではなくフォローに回るわけです。そういったことも考えているので、例えば、2013年から毎年実施している「お城下スプリングフェスタ」では、立ち上げ期こそ僕が委員長を務めましたが、4回目以降は次のリーダーに引き継いでいます。

 頭のいい人、知識のある人を育てることが人材育成ではありません。まちづくりは思い出(記憶の集合体)づくりです。地方創生の根本に、人づくりに対するこういった基本的な考え方がないと、僕は絶対うまくいかないと思っています。


■ ■ ■


プロフィール

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加戸 慎太郎(かど・しんたろう)


1982年松山市生まれ。2005年慶應義塾大学経済学部を卒業し、同年、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。2009年、松山にUターンし、家業である株式会社とかげやの代表取締役社長に就任。2014年3月より、株式会社まちづくり松山の代表取締役社長も兼務。現在、愛媛県商店街振興組合連合会副理事長、松山銀天街商店街振興組合理事長、一般社団法人お城下松山理事長なども務めている。

DATA

組織・団体名 株式会社まちづくり松山

住所     〒790-0004 愛媛県松山市大街道1丁目3-3 サンコーセントラルビル3F

設立     2005年7月

Webサイト  http://machi-matsuyama.com/


組織図

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他組織との連携図

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