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地域固有の資源を生かし、島嶼型コミュニティを目指す

中村幸雄氏

沖縄県島尻郡久米島町
久米島町プロジェクト推進室
室長 中村 幸雄 氏

沖縄本島から西に約100km離れた久米島は、美しい海とビーチが広がる、のどかな離島で、一般の観光客が数多く訪れるマリンリゾートのイメージが強い。しかし近年では、島内に設置された海洋温度差発電実証試験設備を見学するために、世界中から大勢の人が訪れるようになっている。2013年に稼働し始めたこの設備を核に、久米島町では海洋深層水の複合利用をさらに推進し、雇用の創出を図るとともに、エネルギー・水・食糧の自給自足を目指している。

主な取り組み

◎再生可能エネルギー(特に海洋温度差発電)の導入推進につながる取り組みを実施
◎海洋深層水の複合利用の推進、新産業の創出につながる各種プロジェクトを展開
◎全島公衆Wi-Fi網の整備など、地域ICTの基盤整備
◎全島公衆Wi-Fi網を活用した地産地消システムや高齢者見守りシステムの整備、観光客向けAR(Augmented Reality:拡張現実)サービスの提供
 など

全島公衆Wi-Fi網は地元民にも観光客にも重要なインフラ

Wi-Fiアクセスポイント アプリ画面

島内28カ所に設置された公衆Wi-Fiのアクセスポイント(上)。こうしたインフラを活用して、観光客には、AR技術で観光スポットを紹介するスマホアプリ「久米島観光なび」が提供されている(下)。

──久米島町は、1人の女性が一生の間に産む子どもの平均数を表す合計特殊出生率が2を超えており、全国でもトップクラスの子宝に恵まれた地域ですが、人口の漸減傾向に歯止めがかかっていません。そうした状況下で、プロジェクト推進室は何を担当されている部署なのかお話しください。


中村:町長からの特命事項に特化した部署で、担当業務は主に2つあります。1つは地域ICTの基盤整備で、2013年度に全島公衆Wi-Fi網を整備し、地産地消システム、高齢者見守りシステム、観光客向けARサービスなどを導入しました。

 久米島は離島で、以前から本土と比べて情報格差が存在しました。大容量の動画を容易にやりとりできるブロードバンド回線がないと、プロ野球のキャンプ誘致にも支障をきたしますので、前町長の政策の一環でNTT西日本や総務省に要請し、光回線を敷設してもらったのです。そして、せっかく都市並みの通信インフラが導入されましたから、それを活用して全島公衆Wi-Fi網の整備を推進したというわけです。


──全島公衆Wi-Fi網の導入効果はいかがですか。


中村:観光面では確実に効果が出ていると思います。というのも、年間の観光客数は十数年間9万人台だったのですが、2015年は10万人を突破しました。Wi-Fiアクセスポイントのアクセス数を見ると、観光客は月平均で7000ですから、その多くは公衆Wi-Fi網を使っているのではないでしょうか。今後は、外国人を含む観光客の誘致はもちろん、国際会議などの産業視察観光にも力を入れていきますので、人をさらに呼び込む上で、全島公衆Wi-Fi網はより重要なインフラになっていくと思います。

海洋深層水の複合利用を推し進めて雇用を創出

太平洋島嶼国記者OTEC視察バーデハウス久米島

2016年8月現在、海洋温度差発電実証試験設備(上)には、60カ国、延べ5500人が視察に訪れた。

島内にあるバーデハウス久米島(下)は、海洋深層水を使った世界初の温浴療法施設だ。

──プロジェクト推進室のもう1つの業務についてもご説明ください。

中村:海洋温度差発電という再生可能エネルギーの導入と、海洋深層水の複合利用を推進するための各種プロジェクトのマネジメントです。
 久米島町では、2000年に沖縄県海洋深層水研究所がオープンして以来、海洋深層水の産業利用を推進していて、現在、クルマエビや海ブドウの養殖、ホウレンソウなどの葉物野菜の栽培、温浴療法施設・バーデハウス久米島などに利用されています。海洋深層水関連産業の生産額は年間約25億円で、クルマエビや海ブドウの生産量はいずれも全国トップシェアを占めるまでに成長しました。
 そして、2013年に世界初の海洋温度差発電実証試験設備が久米島で稼働し始めたのを機に、海洋深層水の利用先をさらに広げることで、新産業の創出、雇用の拡大につながる取り組みを実践しています。目標は、エネルギー・水・食糧を自給自足できる、持続可能な島嶼型コミュニティをつくることで、私たちはこれを“久米島モデル”と呼んでいます。

──新産業として、具体的に何を想定されていますか。

中村:1つは海洋深層水を利用したカキの陸上養殖です。受精から成貝への生育まで、陸上で一貫してカキを養殖する試みは世界初で、ウイルスフリーの食あたりしないカキを2017年度末に初出荷する予定です。
 ほかにも、海藻栽培、海水淡水化と水素の製造などを視野に入れていて、海洋深層水を核にして大きな産業に育てていこうと考えています。
 人口の減少を食い止めるために、全国どこの地域でも移住政策に力を入れていると思います。しかし、魅力的な仕事を生み出さない限り、子どもを産める世代の女性は増えず、根本的な解決につながりません。また、国内の地域同士で人口を奪い合ってもしかたがないので、グローバル化して人口を増やすことも1つの方法ではないかと考えています。実際、久米島にもグローバル化の波は確実に押し寄せていて、東南アジア諸国から来た若者が地元企業で研修しています。皆、すごく真面目で、地域の行事にも積極的なので、研修後は定住してほしいですね。

グローバル化も視野に入れて人材の多様性を確保

──全体として大がかりで、まだ基礎研究段階のプロジェクトも含まれていますが、必要な人材はどうやって集められていますか。


中村:一般社団法人国際海洋資源・エネルギー利活用推進コンソーシアムという組織をつくり、産学官と金融との連携で進めています。基礎研究段階にあるものから商用化されているものまで幅広いですが、いずれにしても一番必要なのは研究者で、島内にはそうした人材がいませんから、外部から個別に来ていただく形で対応しています。

 ただし、将来は“久米島モデル”のなかで人材育成までできたらいいなと思っています。こうした人材には少なくとも高専レベルの知識が必要になりますから、島にある唯一の高校・久米島高校を高専化してはどうかといった議論もしています。


──久米島高校は、島根県立隠岐島前高校(おきどうぜんこうこう)にならって島留学制度を設けていますね。子どもたちのために町営塾を運営されている点も画期的です。


中村:地元の子は、留学生から刺激を受けて、いい意味で意識が変わってきましたね。それに、昔だったら東大を卒業した人が久米島に来るなど夢物語にすぎなかったのですが、今ではそうした人たちも当たり前のように久米島に来るようになりました。

 地元で人材を育てられればいいのかもしれませんが、自分たちに不足しているものがあれば、外部から補えばいい。アメリカを見てください。あれだけの大国に成長できた理由の1つは、人種の多様性にあると思うのです。何かを新しく始めようとする時は外部の刺激が必要で、人材の多様性を確保することが重要になってくるのではないでしょうか。


■ ■ ■


プロフィール

中村幸雄氏  

中村 幸雄(なかむら・ゆきお)


1962年久米島生まれ。久米島高校卒業後、民間企業に4年間勤務。1986年具志川村教育委員会に採用され、1992年具志川村に出向。2002年、具志川村と仲里村の合併に伴って久米島町が発足すると、久米島町総務課に所属し、情報システムを担当した。2011年より現職。現在、海洋資源活用、再生可能エネルギー導入推進、地域ICT基盤構築など、町長からの特命事項を総括している。

DATA

組織・団体名  久米島町プロジェクト推進室
住所      〒901-3193 沖縄県島尻郡久米島町字比嘉2870番地
設立      2011年
Webサイト   http://www.town.kumejima.okinawa.jp

組織図

久米島町組織図

一般社団法人国際海洋資源・エネルギー利活用推進コンソーシアムのメンバー

コンソーシアムメンバー

バーデハウス久米島

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