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自治体の地方創生を支える組織・人材の育成

牧野光昭氏

東京都
一般社団法人日本能率協会 経営人材センター 経営支援グループ
公共体ソリューションチーム 自治体経営革新センター長 牧野 光昭 氏

地方創生が実行段階に入った現在、地方自治体職員が果たす役割は大きい。しかし、自治体の組織・人事管理や意思決定のあり方が施策や事業の成果創出に及ぼす影響は大きく、今後のレベルアップが求められる。地方創生への取り組みが実を結ぶための「組織力向上」、「職員の人材育成」の課題と方向性について伺った。

主な取り組み

◎自治体の人材育成、PDCAサイクル構築支援、行政評価、総合計画策定、業務改善、定員管理
◎地方創生につながる企業やNPO団体等へのアワード(表彰制度)の実施
◎地方創生を支援する展示会開催等の産業振興
 など

日本能率協会が取り組む地方創生支援活動

──地方創生に関連して、現在どのような支援活動に取り組まれていますか。


牧野:日本能率協会(JMA)では、大きく3つの視点で地方創生や自治体の価値創造を支援しています。

 第1の視点は、各自治体への個別支援です。行政評価や総合計画策定・進行管理等のPDCAサイクルの構築支援、業務改善や定員管理等の効率化支援、職員の人材育成などを行っています。人材育成については、民間に比べ研修予算が少ないため、単体の研修業務ではなく、個別支援テーマの業務委託内で行う形が多くなっています。業務改善支援では、テーマ選定から発表会までの段階ごとにサポートする形で進めています。

 第2の視点は、社会価値を生み出す企業やNPO等の取り組みを称える「KAIKA Awards」などのアワード(表彰制度)の実施、情報誌発行、研究会等の社会全体の価値観を変える普及啓発活動を行っています。ここで得た知見をいかに官民連携に発展させるかもJMAの役割だと考えています。

 第3の視点は、特産品振興支援、移住や交流人口増加等につながる展示会を開催しています。生産性向上策や女性活躍のための農業振興支援など産業別テーマに特化した支援も行っています。


地方創生を進める自治体職員、組織の改善点

自治体職員が重要とする能力 自治体職員が今後重要とする能力(複数回答の上位5能力)
出典:一般社団法人日本能率協会「政策形成力・人材育成に関する調査」(2016)

──これからの自治体職員が必要とする能力は何でしょうか。


牧野:政策形成力や企画力が重要になると思います。JMAが2016年3月に企画・財政・人事部門に実施した「政策形成力・人材育成に関する調査」でも重要な能力として、企画力が58.1%と1位で、2位の関係者との協働力・調整力の43.2%を大きく上回っています。

 しかし、地方公務員は10年間で約2割減少している一方、行政課題への対応は多様化・複雑化しています。そのようななかで自治体職員は企画を考える時間が確保しづらい状況にあります。前述の調査でも、日常業務を回すことが中心となり、新規事業立案や課題解決に消極的であると回答しています。その傾向は自治体の規模が小さくなるほど顕著です。

──成果創出に向けて自治体の人事管理の改善点はありますか。


牧野:各施策や事業の成果創出には、職員能力に依存することなく、人事マネジメントのレベルアップも必要です。成果創出や挑戦に対する適正な処遇(人事評価等の活用)や、職員が達成意欲を持続させるための慣行や仕組みの見直しが求められます。

 1つの例として、人事異動期間の柔軟性確保があります。民間企業では、プロジェクトマネジメントの考え方を人事管理に取り入れ、中期経営計画の達成や期待された成果創出まで一定期間責任者(実務責任者)が変更せずコトにあたります。しかし、自治体の場合には3年程度での定期異動や年功序列的な昇任に伴い、課長や係長の異動サイクルが短くなっている例も多くあります。そうすると、自分がいつまでこの分野や事業を担当するかがわからなくなるため、達成意欲や責任感、成果創出に向けた複数年次計画の現実性・詳細の詰めができにくくなります。

 一般的に、事業を立ち上げた人には“思い”があり、関係する方々とも一定の信頼関係を築いています。しかし、そのキーパーソンが異動した際に、次の担当者に“思い”がつながらなかったり、ステークホルダーとの関係をうまく引き継げないと、事業が停滞することが見受けられます。

 そのため、重要な事業についてはむやみにキーパーソンを異動させないような人事管理をしていくことも有効だと思います(費用はかかりませんので)。私が支援した自治体ではPDCAサイクル構築に10年間キーパーソンの異動がなかった例もあります。


──地方創生の観点から、組織管理やマネジメントでレベルアップすべきことはあるでしょうか。


牧野:戦略や資源配分、PDCAサイクル等のマネジメントレベルの向上も必要です。

 施策や事業の担当者は本当なら1つの分野・事業に予算を集中させたいこともあるでしょうが、多くの自治体が財政的に余裕がないなかでは「交付金や補助金の範囲で進める」との意思決定も多いようです。

 その結果、成果創出に至らずに実施したという証拠づくりや、同じ交付金をもらう近隣市と差別化できないこともあります。また、取り組み内容・メニューが多いほうがよいという意向のある自治体では、特定の分野や事業に予算を集中しにくく、「どれも重要」、「総花的」になる傾向もあります。

 民間でも新規事業がうまく立ち上がる確率は1割か、それ以下と言われる場合もありますが、中期経営計画で決定した重点分野に開発費等の経営資源を集中させています。

 自治体においては、中期経営計画の位置づけである総合計画や総合戦略を、経営戦略・PDCAの基点として運用・高度化することが求められます。

 これらの経営戦略的な取り組みの運用・高度化の方法として、経営資源配分に関わる部署の連携による組織力強化、行政経営推進の専門家の活用、市民協働の促進などがあります。どのやり方で進めるかは、各自治体の経営課題、組織風土や特性に合わせることが重要です。

 経営資源配分に関わる部署の連携による組織力強化は、最も重要なことと考えます。具体的には、企画・財政・人事・行革の4部署がバラバラに経営資源配分を進めるのではく、有機的・機能的な業務プロセス設計を行い、意思決定を統合化していくことが必要です。民間の場合、社長室や経営企画室がヒト・モノ・カネの経営資源の方向性を統合的に管理し、選択と集中の成果が出るようにしています。4部署が連携していない場合、求められる成果と経営資源がアンバランスとなり、事業課の成果達成への意欲が減退する場合もあります。

 行政経営の専門家の活用では、現在のシティマネージャー制度は有益な部分もありますが、市長との相性を踏まえた選定が重要であると思います。

 市民との関係では、自治体の財政状況の理解を踏まえた合意形成や既存団体や地方運営組織等の新たな団体などの担い手との価値観共有による市民協働の取り組みの“深化”が求められます。また、そのためには、行政と住民を結ぶ“コーディネーター”的な存在が重要となります。


コミュニケーション能力の高い人材が必要

地方創生人材の充足度と優先度 地方創生を担う人材の充足度と必要の優先度
出典:一般社団法人日本能率協会「政策形成力・人材育成に関する調査」(2016)

──地方創生の推進にあたって、どのような人材が不足していると思われますか。


牧野:その点に関しては、前述の「政策形成力・人材育成に関する調査」のなかで地方人材育成プラン(2015年12月内閣府)に示された機能区分4人材、フェーズ区分3人材の充足度を聞いています。

 機能区分での不足人材は「地域の戦略を策定し、戦略全体を統合・管理する人材」でした。また、必要の優先度では「個別分野において地方創生関連事業の経営にあたる人材」、つまり事業を推進し、成果創出できる人材の確保の優先度が高いという結果が出ています。

 フェーズ区分の「オーガナイザー」「ファシリテーター」「プランナー・クリエイター」の3人材とも同様な不足傾向、優先度も高くなっています。

──必要とされる人材の具体的能力や確保の方法については、どのようにお考えですか。


牧野:冒頭の「企画力」に加え、「顧客視点」、「マーケティング」、「コミュニケーション」等の能力が必要と思われます。特にコミュニケーション能力は、組織内での説得、市民等のステークホルダーの説得など、施策の意思決定や成果創出に非常に重要だと思います(これは民間も同様です)。

 人材確保の方法には、民間企業的に選抜型で経営幹部や事業創造人材を創出する方法と、全職員の全体的能力の底上げによるレベルアップが代表的です。後者の進め方が全体的組織力向上にはよいですが、時間と工数と費用を要します。

 また、研修と実務を乖離せず、実際の事業課題や地域課題をテーマに進めていくなどのPBL(プロジェクト・ベースト・ラーニング)などによる実効性や実践性が重要と考えます。

 地方創生の推進基盤の1つとして、自治体の組織力、職員力の向上・レベルアップが急務と考えます。


※本文中の「政策形成力・人材育成に関する調査」は、一般社団法人日本能率協会が2016年3月に全国の地方自治体の企画、人事、財政部門に配布し、894自治体1387件の回答をいただいた調査結果の抜粋


■ ■ ■


プロフィール

牧野光昭氏  

牧野 光昭(まきの・みつあき)


1968年千葉県生まれ。1990年社団法人日本能率協会入職。入職以降、民間企業の品質改善、小集団による改善会活動の教育研修、本社部門の業務改善等に従事後、1995年より自治体や学校等の公共的な経営組織への支援を開始。行政評価等によるPDCAサイクル構築や業務改善、定員管理に従事。主な委員活動として、地方公共団体における行政評価についての研究会 研究委員(2000年 自治省)、各自治体の外部評価委員長(愛媛県等)。

DATA

組織・団体名  一般社団法人日本能率協会

住所      〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋1丁目2-2 住友商事竹橋ビル14階

        (2017年12月より下記移転)

        〒105-8522 東京都港区芝公園3丁目1-22

設立      1942年3月

Webサイト   http://www.jma.or.jp/


組織図

日本能率協会組織図地方創生人材の充足度と優先度自治体職員が重要とする能力

能率協会グラフ .gif

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