ユニークなアイデアと強靭な実行力で“厄介もの”を観光資源に
青森県五所川原市金木町
津軽地吹雪会
代表 角田 周 氏
主な取り組み(角田氏個人の活動も含む)
◎モンペ、角巻(かくまき)、カンジキのいでたちで地吹雪のなかを徒歩や馬ソリで進む「地吹雪体験ツアー」を、毎年1~2月に実施
◎津軽鉄道の冬の名物「ストーブ列車」で、モンペ姿のおばちゃんがスルメ焼きと燗の地酒を振る舞うツアーを実施(現在は津軽鉄道が単独で運営)
◎真っ赤に塗られた列車のなかでサンタクロースが子どもたちにお菓子を配る「サンタ列車」を、津軽鉄道と協力して12月の毎週日曜日に運営
◎毎年12月に子ども向けのイベント「かなぎサンタフェスティバル」を開催
◎地元の伝統芸能が堪能できる「金木夏まつり」を実施
◎青森県の自治体、観光事業者と連携し、広域観光ネットワークづくりを推進
など
誰にも頼らず立ち上がった“七人の侍”
1%に望みを託して


モンペ、角巻、カンジキの3点セットが津軽の冬の“正装”で、地吹雪体験はこのいでたちで臨む。
──ツアーを最初に企画された時、周囲の反応はいかがでしたか。
角田:「何をやってくれるんだ」と総スカン状態です。地吹雪は地元住民にとって“厄介もの”にすぎなかったので、地元住民からは「金木の評判を落とすことはやるな」と非難されましたし、県庁からも「企業誘致に支障をきたすから」と反対されました。旅行代理店からは、地吹雪を血吹雪と間違えられる有様で……。僕たちにはきちんとした肩書きがないから相手にされなかったという側面もあったでしょう。
──そんな状態でよく実現できましたね。
角田:地元住民は総反対してもいいから、よその地域、南に住む人たちの関心を呼び起こして味方につけようと思ったのです。99%が反対するなか、残り1%に望みをかけた。だからプロモーション活動は、沖縄県の新聞社・放送局にダイレクトメールを送るところから始めて、徐々に北上させていきました。そうすると、地域ごとの反応の良し悪しがだんだん見えてきて、「この企画だったらいける」と確信が得られました。
テレビの人気情報番組でツアーを取り上げてもらうために、東京に馬ソリを持っていくイベントを仕掛けたこともあります。この時は、東京駅や上野駅に人だかりができて、パトカーが出動するほどの大騒ぎになってしまって……。警察にはあらかじめ電話で連絡しておいたんですが、警察では「張りぼての馬だ」と勘違いしていたようで、あとで警察には始末書を提出しました。こんな感じで、安全性を確保しつつも最大限のインパクトを与えるギリギリのラインでイベントを仕掛ける。かなり無茶なことをやっていたと思います。


金木町は津軽三味線発祥の地で、太宰治、吉幾三の出身地としても知られている。上は津軽三味線会館、下は太宰治記念館「斜陽館」。
──その甲斐もあって、「地吹雪体験ツアー」は30年近く続く人気ツアーになりました。
角田:国内外の累計参加者数は1万3000人弱です。国内メディアはもちろん、海外メディアでも紹介されていますので、海外からの参加者も増えていて、前回は外国人観光客が8割近くを占めました。海外では、台湾、ハワイ、タイなど、暑い国・地域からの参加者がほとんどですね。
──地元住民の見方も変わってきましたか。
角田:一番大きな変化は、子どもたちが、太宰治、吉幾三と並んで、「地吹雪体験ツアー」を金木名物の1つに数えてくれるようになったことです。僕は、これが嬉しいし、ありがたいと思っています。
地域の独自性を生かすシステムが必要
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