「ひたpay」による地域の消費喚起と地域経済の活性化
大分県日田市
日田市 商工観光部 商工労政課
商工労政課長 髙倉 保徳 氏
大分県日田市は、大分県の西部、福岡県と熊本県に隣接した北部九州のほぼ中央に位置し、九州一の大河川である筑後川を生み出す阿蘇・くじゅう山系や英彦山系の豊かな山々に囲まれ、江戸時代には幕府直轄地・天領として西国筋郡代が置かれるなど、九州の政治・経済・文化の中心地として発展しました。
当時の歴史的な町並みや伝統文化は今なお脈々と受け継がれており、私塾「咸宜園」や塾と共生したまち「豆田町」等が近世日本の教育遺産群として日本遺産に認定されているほか、「日田祇園の曳山行事」はユネスコ無形文化遺産に登録されています。
豊富な森林資源により木材関連産業が基幹産業として発展してきた人口約6万3千人を有する地方小都市日田市は、古くから山紫水明の里「水郷日田」と呼ばれ、四季の移ろいと共に長い年月を重ねながら多様な風景をみせています。
主な取り組み
◎新型コロナウイルス感染症の影響拡大・長期化により大幅に落ち込んだ地域の消費喚起と地域経済の活性化を目的とした、プレミアム付き商品券「ひたpay」の発行。
── 非接触型となるキャッシュレス決済の普及促進、コロナ禍での商品券発行事業における感染拡大防止対策、商品券利用者のすそ野の拡大を目的として、これまで唯一の発行手段であった紙の商品券とは別に、新たにスマートフォンアプリから商品券の申込、抽選、購入、利用、精算まで一貫して行う電子商品券「ひたpay」を2020(令和2)年12月に発行した。
※「ひたpay」とは、九州電力株式会社(本社:福岡県福岡市)がSBIホールディングス株式会社(東京都港区)の分散台帳技術を活用して提供するシステム(アプリ)を利用し、日田信用金庫(本店:日田市)が運用を行う電子商品券アプリ。
プレミアム付き電子商品券「ひたpay」
――事業の内容について教えてください。
高倉:新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大幅に減少した消費の喚起と、地域経済の下支えを図るため、2020(令和2)年12月に実施したプレミアム付き商品券発行事業の中で、県内で初めて電子商品券「ひたpay」を導入しました。 これまで発行してきた紙の商品券では、市民が主なターゲットとなっていましたが、「ひたpay」は全国のコンビニエンスストアからチャージすることができます。これにより、域外からの観光客等の消費獲得による地域経済の景気浮揚策としてヒト・モノ・カネを呼び込む商品券事業の枠を超えた新たな活用策が実施可能となりました。 2021(令和3)年4月から順次実施中の「日田式GoToトラベルキャンペーン(ひたの恩返しキャンペーン)」事業においても、商品券事業の派生・発展型として、「ひたpay」に3千円分をチャージすると、9百円分の電子商品券と5千円分の電子宿泊券が特典として獲得できるなどしているため、当市への誘客獲得に大きな効果が見込まれ、近隣の福岡市・大分市等において事業展開を行ってきました。 その結果、「ひたpay」のスマートフォン等へのアプリダウンロード者数は、21年11月末時点で約2万9千人、アプリの登録者数では約2万人(市内9千人、市外1万1千人)に達しており、日田市内外も含め非常に多くの方に認知されている状況となっています。
――地域商品券の電子化に取り組まれたきっかけについて教えてください。
高倉:「ひたpay」発行のきっかけは、これまでの紙の商品券とは別に、市が推進していたキャッシュレス化の動きに加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い非接触型の決済方式が大きく注目されていたことから、多くの市民の方にキャッシュレス決済を活用していただきたいと考え、協議・検討がスタートしました。
地域への効果
――地域商品券の電子化に取り組まれて、良かった点は何でしょうか。電子化によって、どのような効果が生まれましたでしょうか。
高倉:2019(令和元)年10月1日の消費税率引上げに伴い、国によるキャッシュレス・ポイント還元事業が実施され、市としてもキャッシュレス化の普及・促進を図る取組みを展開してきました。もっとも、事業者側からは、「キャッシュレスの決済手段が多く、どの会社の端末を導入すべきかわからない。」、「決済手数料が必要であれば、現金のほうが良い。」などの消極的な意見が多く聞かれました。また、消費者側からも「決済サービスが多すぎて選べない。」、「上手く利用できるかわからない。」などのご意見もいただいていました。
キャッシュレス・ポイント還元事業を周知するテレビCMなどを通じ、利用者及び取扱店舗も徐々に増えてきましたが、スマホを所有されない方や高齢者をはじめ、キャッシュレス決済の利用を不安視されている方々には、取り込みが難しい状況が続いていました。
このような中、2020(令和2)年12月から電子商品券として「ひたpay」を販売したところですが、やはり、これまでの状況を踏襲するかのように販売後1週間の購入申込者数は、販売予定数量の10%程度しかありませんでした。 その後、利用者・店舗への個別説明を続けていく中で、キャッシュレス決済の手軽さや利便性、そして「ひたpay」のネーミングなどの情報が徐々に口コミで広がりを見せた結果、翌年2月15日には完売となりました。販売開始から売り切れとなった一連の流れを考えますと、市民の皆様には確実に「ひたpay」が広く浸透することができ、消費行動の市外流出抑制が図られたと思っています。
自治体内部の効果(事務の効率化、経費削減等)
高倉:商品券発行事業は、日田商工会議所及び日田地区商工会から成る商品券発行実行委員会が行うことになりますが、紙の商品券に比べ申込用紙及び商品券の印刷代のほか、申込者の登録、引換え(販売)に係る人員等を大幅に削減することが可能となりました。
地域商品券の電子化導入まで
――地域商品券の電子化にあたって、どのような点に苦労されましたか。また、それをどの ように解決されましたか。
高倉:既に近隣の自治体が電子商品券事業を実施していましたので、アプリを介した操作性や課題及び今後の活用策等について、担当者をはじめ関係者の方々から聞き取りを行いながら、商品券発行団体となる日田商工会議所・日田地区商工会等による実行委員会と導入に向けた検討を開始しました。また、電子商品券をより良い事業とするため、事業提案型にて導入業者の選考を実施しました。
その結果、SBIホールディングスさんの分散台帳技術を活用して九州電力さんが開発されたシステム(アプリ)を利用し、日田信用金庫さんが換金等の電子商品券運用に関する一連の手続きを実施する事業提案を採用し、日田市初の電子商品券「ひたpay」が誕生しました。 アプリは他の自治体で導入実績があったため、新たにシステム開発を行う必要もなく、利用申し込みから販売開始まで特に問題はありませんでした。
「スマホへのアプリの取り込みが上手くできない。」との問い合わせも多くいただきましたが、九州電力さんと日田信用金庫さんが消費者及び事業者向けの説明会を開催していただいたことに加え、コールセンターの設置や臨時の相談窓口の開設などを提案・実施していただいたおかげで、若者からお年寄りまで多くの方々に利用していただくことができたと考えています。
――地域商品券の電子化にあたっては、地域の事業者の方や自治体内の関係者の方の協力が不可欠だと思います。どのようにして協力を呼び掛けていったのでしょうか。
高倉:電子商品券発行においては、発行団体となる日田商工会議所及び日田地区商工会に加え、日田市商店街連合会、換金等運用を行う日田信用金庫など、皆様のご協力により、「電子=難しい」とする先入観の払拭を行うことができました。また、課題の一つであった店舗での読取端末の導入を行うことなく、QRコードから代金のお支払いが可能となるキャッシュレス決済の利便性を各事業者が理解し、これまでにないほど多くの店舗が登録していただいたことにより、消費者側においても利用する店舗の選択肢が増えたため、多くの方が現金から「ひたpay」でのお支払いに切替えができたと思います。
――地域の事業者の方や自治体内の関係者の方のやる気を、どのようにして引き出していったのでしょうか?
高倉:事業者をはじめとするやる気については、システム提供の九州電力さんと日田信用金庫さんが不安に感じる事業者に対して丁寧に説明していただいたことと、日田商工会議所・日田地区商工会の職員が事業者に寄り添い、電子商品券の導入を働きかけてきたことが非常に大きいと思います。 また、域外の取り込みのために市観光協会さんも積極的に近隣都市部でのキャンペーン活動を行っていただいたことなどから、「ひたpay」アプリの登録者数が増え、『「ひたpay」=集客』の構図ができていったと思います。
――現在、各自治体では、データの利活用や電子化による事務効率化が推進されています。 これらを進めるうえで、何が重要だと思われますか。
高倉:業務効率化は多くの自治体が抱える課題となっています。コロナ禍では、多くの企業がテレワークやリモートワークの導入を行い、働き方改革の推進などが急激に進みましたが、自治体に置き換えますと、今後の自治体DX推奨による一層の業務改善・効率化が求められると考えています。
業務効率化の方法としては、IT導入やAI・RPAによる自動化、アウトソーシングなどが考えられますが、これらを実現するためには、「現状分析」そして「課題や問題点の洗い出し」を行い、「方法・手段を考える」ことが重要だと思います。
「ひたpay」と地方創生推進の今後について
――今後「ひたpay」でどのような取組を進めていく予定でしょうか。
高倉:現在の「ひたpay」は商品券が主となる消費促進型の位置づけになりますが、「ひたの恩返しキャンペーン」により域外利用者も増え、多くのユーザー登録をいただきました。 昨年の電子商品券発行の際、「ひたpay」完売時に多くの方から「再販はないのか。」と、問い合わせも多くいただくなど、市民の皆様に「ひたpay」が広く知られていることを実感しましたので、商品券だけの一過性事業にするべきではないと考えています。 今後の「ひたpay」の可能性を含めた展開については、システムを開発された九州電力さんと協議を行い利活用策について探っています。
――今後の地方創生の方向性について教えてください。
高倉:地方が抱える最も大きな課題としては、若者の都市部への流出があります。市内には5つの高等学校がありますが卒業する生徒の大部分は、福岡市をはじめとする都市部に進学又は就職し、その後、当市に戻ってくる方は僅かしかいない状況にあります。 現在、民間団体に業務委託を行い、若年者(小学生、中学生、高校生)を対象に、将来地域経済を背負ってもらえる人材育成を目的に、地元企業や教育機関と連携し、職業観や勤労観を育む事業を展開するほか、福岡市に進学した学生数名をアンバサダー認定して、市内企業等の情報をSNS等から若者に発信してもらい、また、企業との交流イベントなどの企画運営にも携わってもらうことで、多くの学生の参加・取り込みにつなげ若者の地元回帰を目指す事業を実施しています。
第2期の「日田市まち・ひと・しごと創生総合戦略(令和2年度~令和5年度)」の基本目標には、「若者が住み続けたいと思うふるさと日田を創る」を定め、雇用の定着、子育て環境支援、移住定住、まちづくり活動への支援に係る各種施策を実施しています。 「日田市には何もないから都市部に出て行く。」と考える若者に対して、「日田市も働いていて楽しそうなので、自分も日田市で頑張ってみよう。」と思ってもらえるよう、若者の社会減抑制に努めていきたいと考えています。
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プロフィール
髙倉 保徳(たかくら・やすのり)
・1988(昭和63)年4月
旧天瀬町役場に奉職
・2005(平成17)年3月
1市2町3村の広域合併により日田市事務吏員の辞令を受ける
・2018(平成30)年4月
商工労政課地域産業支援係主幹(総括)として異動
・2019(平成31)年4月
商工労政課長として勤務(現職)
DATA
組織団体名 日田市 商工観光部 商工労政課
住所 大分県日田市田島2丁目6-1
Web shokoh@city.hita.oita.jp