若手のアイデアで里山を元気に!
広島県三次市
有限会社平田観光農園
代表取締役社長 平田 真一 氏
平田観光農園は、中山間地域に位置しているにもかかわらず、海外からを含め年間17万人の来園者がある。リンゴ栽培を始めてから60年という歴史のある観光農園だが、若手社員の発想・意見を積極的に取り入れて、里山ならではの6次産業化を展開している。就農者育成、農業技術の継承にも力を入れており、地元の上田町へは最近10年間で18戸が転入し、自然体験のNPOや陶芸の工房もできた。
主な取り組み
◎1年を通じて果物狩りができるよう、15ヘクタールの敷地に150品種の果物を栽培する
◎ダムの水没地にあった庄屋宅を移築し、古民家カフェとして再生してスイーツや里山料理を提供する
◎森や里山の資源を利用したアウトドア体験メニューの提供、体験型イベントに取り組む
◎ジュース、ジャム、ドライフルーツ、惣菜、味噌などの農産物加工品を製造販売する
◎就農研修や中高生の体験研修を積極的に受け入れる
◎月1回、地域の人々と一緒に国道沿いで「軽トラ朝市」を開催する
など
有能な人材が地方に入ってくる流れをつくる
ブドウだけでも18品種を栽培している
――平田観光農園は若い人材を積極的に採用されています。地元の方が多いのですか。
平田:いえ、ここの農園には全国からやってきます。20年前に私がここを継いだ時は、パート従業員と外国人実習生で回していました。しかし、それでは将来がない、技術を次世代につないでいくためには、人材を育成しなければならないと考え、社員を採用することにしました。
――農業はともすれば3Kなどと言われがちですが、全国から応募があるというのは素晴らしいですね。
平田:申し込みはすごく多いです。入社してから「こんなはずではなかった」を避けるために、まずは研修を義務づけています。3年の壁を越えられない人もいますが、ここで学んで独立して、京都、愛媛、富山で観光や農業をやっている人もいます。農園で成長して経営幹部になってくれた者もいます。例えば、常務の加藤瑞博は愛知県出身で、鳥取大学卒です。国産のドライフルーツ市場に着目し、2009年に株式会社果実企画を立ち上げて社長になりました。
――「3年の壁」というのは、具体的にどういうことですか。
平田:農業技術のサイクルは1年です。最初の1年は無我夢中で過ぎ、2年目に少しわかってきます。そして3年目になると、忙しいシーズンはいいのですが、冬になって閑散としてくると、「ほかにも違う道があるのではないか」と、いわば自分探しを始めてしまうんですね。
――その壁を乗り越えてもらうには、どんな方法がありますか。
平田:3年目がきついということについて、最初から話をするようにしています。目標を見つけられた人は強いです。先ほどの加藤常務を目標にして、「自分も加藤さんみたいになりたい」と頑張っている社員もいます。いろいろな機会をとらえて、社員とのコミュニケーションを増やすようにしてきました。
――そうやって若い人材を採用して、育成に力を入れているのはどうしてですか。
平田:地方の農家は、農業は儲からないからと子どもを都会に出してしまいます。農家の子は小さい時から農作業を手伝っているので、段取りのノウハウや物を大切にする心が自然と身についていますが、都会に出ると、経済合理性のなかで大切なものが抜け落ちてしまいます。それが、技術が継承されないことや、地域の伝統が守られないことにつながっています。地方に有能な人材が入ってくる流れをつくらなければだめだと思って、求人はほとんど東京に出しています。また、世襲という考え方をやめました。私は世襲の3代目ですが、次の社長は息子ではなく、社員からと決めています。優秀な社員はどんどん上に行けるようにしたら、非常にうまくいきました。
トータルに任せることで経営者感覚を養う
「ダッチオーブンの森」の入口。
――農園には果樹園のほかに、野鳥の森、どうぶつ広場、桜の園、古民家カフェ、バーベキューハウスなどがあります。「ダッチオーブンの森」というのもありますが、ここは何をするところでしょうか。
平田:アウトドアクッキングです。お客様にダッチオーブン(鍋)を貸し出して、森の中で薪割り、火おこしからやっていただきます。昔の人は冬になると森に入って、薪を集めたり下草を刈ったりしていました。ところが今はマツタケを取りにいくぐらいなので、森が荒れて猪や鹿も増えています。
では、森をきれいにしようとなったのですが、それだけでは面白くないので、できた薪を使って料理を楽しむようなシステムをつくりました。
――そのほかにも、フルーツピザ作り、イチゴの苗とり、鳥の巣作り、シイタケの菌打ちなどの体験型イベントを次々と開催されています。このようなアイデアはどこから生まれてくるのですか。
平田:ほとんど若者からの発案です。月に1度の会議で、「こんど何やる?」と問いかけます。その意見を吸い上げて、予算を付けます。彼らはもともと農家ではないので、つくったものをどう売ろうかではなく、先にどういう売り方をするかを考えてからつくるという発想ができます。
彼らには、生産から販売まですべて一貫してやってもらいます。例えばブドウなら、つくって値段を付けて売るところまでを1人で担当します。すると、経営者の感覚を持てるようになります。利益が出れば給料にも反映させますので、モチベーションも高くなります。私は「頑張って」と予算を付けるだけです。
――若者のアイデアはさまざまだと思います。意見を吸い上げてゴーサインを出す基準は何でしょうか。
平田:「お日様照らして果実を作る」というルールがあります。「お日様」の「お」はオリジナル、「ひ」は必要とされるか、「さ」は採算性、「ま」は顧客満足度です。真似事ではなく、消費者に必要とされ、採算が取れて、顧客満足度が高いことが絶対のルールで、これに適合しないことはやってはいけません。そして「果実」は、考える・実行する・作り上げる、です。
――オリジナルであることは重要ですが、前例のないことを事業化するのは大変ですね。
平田:試行錯誤の繰り返しです。期待どおりにいかなかったことも山ほどあります。しかし、「0勝0敗より10勝10敗」と、スタッフにはしつこく言っています。競合の激しい既存市場で勝ち上がっていくのは大変ですから、それだったら違うことを考えようと。
里山体験事業に次世代の感性を生かす
オリジナルの農産加工品を販売する「谷の向山」売店
――今後に向けて、何か新しい展開をお考えですか。
平田:里山体験のプログラムを提供する施設が、2017年4月にオープンします。農園で果物を収穫するということ自体が体験です。それなら、里山の暮らしのなかでこれまでやってきたことを、プログラム化して提供しようということです。木や竹細工、そば打ち、かまどご飯、染物、陶芸などのほか、季節ごとの行事を体験できるプログラムを考えています。
――そういった事業を推進するには、どのような能力を持った人材が必要になりますか。
平田:募集要項にはよく、「一芸に秀でていること」と書きます。一芸は何でもいいので、何か自信を持っていることが1つはあるということです。それに加えて、できれば数字に強い人がいいです。あくまでも事業なので、どうしても算盤は必要になります。また、今の時代は、音楽や文学、美術などにたくさん触れていて、「これっていいね」という基準をしっかり持っていることが重要です。自分たちの理念や情報をうまくデザインして、共感が得られるように発信できる人がいいですね。
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プロフィール
平田 真一(ひらた・しんいち)
1965年長野県生まれ。広島大学卒業。会計事務所に勤めたのち、1996年に家業の有限会社平田観光農園を継ぐ。2007年から代表取締役社長。
DATA
組織・団体名 有限会社平田観光農園
住所 〒728-0624 広島県三次市(みよしし)上田町11740-3
事業開始 1955年(会社設立:1985年)
Webサイト http://www.marumero.com/
組織図
グループ会社(出資10%以上)