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ICTを活用して村の基幹産業を再生

桂川憲生氏.gif

岐阜県加茂郡東白川村
東白川村役場
地域振興課長 桂川 憲生 氏

岐阜県東白川村は基幹産業の林業・建築業の衰退が続くなかで、総ヒノキ注文住宅のネット直販サイト「フォレスタイル」を構築・運営し、林業・建築業の6次産業化を実現した。「フォレスタイル」は、顧客が住宅の間取り・費用を自由に設計できる機能や、価格・デザイン・性能を比較できる機能を備えており、顧客は安心して総ヒノキ住宅をネットで注文することができる。サイト構築の仕掛け人は、リスクをいとわぬ異色の公務員である東白川村役場地域振興課長の桂川憲生さんだ。

主な取り組み

◎総ヒノキ注文住宅のネット直販サイト「フォレスタイル」の運営
 ・住宅の間取り・費用を自由に設計できるシミュレーション機能の実装
 ・代理人として、最適な工務店・建築士を顧客とマッチング
 ・顧客が価格・デザイン・性能を比較できる仕組みを導入
 ・たまったポイントを村の特産品等と交換できるポイント制を導入
◎村内の事業所を対象とする多店舗型ショッピングモール「つちのこマルシェ」の運営
 ・サイトは、「つちのこマルシェ」、東白川村公式ホームページ、東白川村マイページの3部構成
 ・メーリングリストで慶弔・イベント情報を配信
 ・村出身者が、同窓生同士で情報交換できる「同窓生機能」を実装
 ・東白川CATVの全番組を村出身者の名前で検索し、それにより絞り込まれた番組を視聴できる サービスを提供
 など

独居老人を減らしたいという思いが原動力

フォレスタイル_建築事例1.gif フォレスタイル_建築事例.gif 「フォレスタイル」の施工事例
(薪ストーブを囲む温かな住まい)

──まず、桂川さんが「フォレスタイル」を始めようと思われたきっかけについて教えてください。


桂川:東白川村の基幹産業は土木も含む建設業です。実際に村の商工会の統計データを見ると、「建築業」および「建築関連」の事業所数が全事業所数の半分を占めています。村にとっていかに建設業の比重が高いか、おわかりいただけるでしょう。

 ところが、2002年から2008年にかけて、建設業の総生産額は約3分の1に落ち込み、住宅建築年間受注数は70棟から14棟に激減してしまった。さらに年間の人口減少率も、この間、1.2%から1.8~2.0%に加速したのです。私はこうした状況に直面して、「現状をこのまま放置していてはえらいことになる」と強い危機感を持ちました。そのような意識がきっかけになりました。


──「フォレスタイル」は、総ヒノキ注文住宅をネット直販する事業ですが、最初から「ネットで家が売れる」と確信していたのですか。


桂川:確信はありません。やってみなければわからないと思っていました。おまけに、周囲にそのアイデアを話すと、周囲の方から「公務員はビジネスをしないほうがいい」と忠告されました。そもそも事業が成功したとしても、民間の企業と違って誰からも褒めてもらえませんし、嫌な言い方ですが給料が上がるわけでもありませんからね。


──それなのに、なぜあえてリスクをとって、実行されたのですか。


桂川:村内の独居老人を1人でも減らしたいと考えたからです。私は当時、村のCATVの番組製作に携わっていて、独居老人と接する機会を多く持っていましたが、こうした方々は1人で暮らすことを好んで選択したわけではない。子どもをお持ちの方も多いのですが、村のなかでは仕事がないから、子どもは都会に出て働くことになる。その結果として独居生活を強いられ、日ごろ寂しい思いで生活しているのです。村の雇用環境が改善されれば、このような現状を変えられるのではないか。その思いが、リスクを冒してでも「フォレスタイル」をやろうと決意した原動力です。

自分が変われば、人を巻き込めるようになる

──2008年に総務省から予算が下りて、2年かけてサイトをオープンされました。この間にどんな点で苦労されましたか。


桂川:失敗できませんから、当初はいわゆる戦略本、自己啓発本から出発し、マーケティングの本、さらには課題解決の方法論を解説した本に至るまで、役に立ちそうな本を片っ端から読み漁りました。

 知識がいくらか蓄えられてきたところで、次に取り組んだのは、住宅が売れなくなった原因を考え抜くことでした。普通だったら、売れなくなったものを売るにはどうしたらいいかを考えるところですが、私は原因にさかのぼって、それを徹底的に考えたのです。そうすると、さまざまな課題を発見でき、解決の方法も見えてきました。私のようなマーケティングの素人であっても、かなりのところまで行けたと思います。

 そして、村内には工務店が10社あるのですが、誰も「ネットで家が売れる」などとは思っていませんから、どうやって巻き込んでいくかも大きな課題の1つでした。当時はすべての工務店がインターネットを使えていたわけではなかったんですよ。もちろんホームページを開設している会社は半数ぐらいありましたが、一方でパソコンすら持っていない工務店もあったほどです。


──パソコンすらないとは、まさに前途多難でしたね。


桂川:「使い方がわからない」と言われることも多かったので、そのたびに工務店に出向き、パソコンの操作法を基礎の基礎から教えました。例えば「メールを送ったけど、このあとどうしたらいい?」という問い合わせがあれば、急いで事業所に行ってメールソフトを起動し、返事の書き方やメールの印刷の仕方を教えたりしました。

 でも、こんな感じで対応していると、皆さんがだんだん私を頼りにしてくれるようになります。当初は2、3社しか参加してもらえなかった会議にも、ついにすべての会社が参加してくれるようになりました。人はなかなか変わりませんから、まず自分が変わっていくしかない。そうすることによって、徐々に人の意識を変えることができ、人を巻き込めるようになる、そのようなことを実感しました。


必要なのは、目的と手段とやる気

間取り.gif  「フォレスタイル」に実装されたシミュレーション機能

──今もそしてこれからも、地方創生を推進する人には何が必要だと思われますか。


桂川:目的、手段、やる気の3つだと思います。プロジェクトの成否は、この3要素の掛け算で決まります。このうち、目的はトップダウンで決めればよい。手段は職員の資質の問題であり、職員が数ある選択肢のなかから1つ選択し、後日、その妥当性を検証すればよいと思います。場合によっては、コンサルタントに依頼して、目的と手段を考えてもらうのもよいでしょう。その意味で極端に言えば、目的と手段はお金で買うことができる。ところが、やる気ばかりはお金で買うことができませんし、人の内面に関わることなので、外から見ることもできない。やはり最も難しいのはやる気だと思います。


──やる気を引き出すにはどうしたらいいでしょうか。


桂川:やる気を引き出すために2つの提案があります。

 1つは、できる限り失敗のリスクを取り除いていくことです。その方法は、思いつく限りの失敗する要素を書き出し、その一つひとつに対応する対策を講じることです。「課題発見」「課題解決」というタイトルで多くの書籍が出ていますので参考になさるとよいでしょう。

 2つ目は、身近な人の役に立つにはどうしたらいいのか、それを考えながら毎日仕事をすることです。そうすると、仕事のやり方が変わってくると思います。部下や同僚、上司も含めて、自分が相手のことを考えながら仕事をしていると、相手もやがて、自分が何をやりたいかを想像し、協力してくれるようになる。何事も相手を理解しようと努力するところから始まり、やがて理解の輪が広がり良い結果に結びついていくものだと思っています。


■ ■ ■


プロフィール

桂川憲生氏
 

桂川 憲生(かつらがわ・のりお)


1960年東白川村生まれ。1981年岐阜県農業大学校を卒業し、同年、東白川村役場に入庁。1999年にCATV部門に異動し、番組製作を担当。この時の経験が、自分自身の公務員としてのあり方を見直すきっかけになった。2008年に地域ICT部門(地域産業改革)に異動し、「フォレスタイル」の立ち上げと運営に携わった。2016年4月より現職。現在、総務省地域情報化アドバイザーも兼務。

DATA

組織・団体名 「フォレスタイル」事務局

住所 〒509-1392 岐阜県加茂郡東白川村神土548番地(東白川村地域振興課)

設立 2010年4月

Webサイト http://www.forestyle-home.jp


組織図

白川村組織図.gif

他組織との連携図

東白川村連携図.gif

フォレスタイル.gif

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